第5話 神社・探索
そして、姿が見えなくなったところで、あらためて石段に足を向けました。
男性に言われたとおり、その段差は思った以上に高かったです。石段は不揃いで、今朝の雨の影響もあり、少し気を抜くと足を滑らせてしまいそうでした。手すりもなかったので、とてとこわかったのを覚えています。私は歩幅を調整しながら慎重に一段ずつ登っていきました。
次第に息が上がり始めた頃、ふと顔を上げると、石段の終わりがすぐ目の前にありました。足元ばかりを見ていたせいで、いつの間にか頂上近くまで来ていたようです。
何とか最後の数段を上がりきると、小さな境内が目の前に姿を現しました。
境内はこぢんまりとしていましたが、思っていたよりは奥行きがありました。正面には木造の拝殿があり、周囲の木々が作る濃い影に抱え込まれるように建っています。左手には納屋か倉庫のような小さな建物が一棟。去年の落ち葉がまだ残っているものの、丁寧に端に集められており、最低限の手入れはされているように感じました。
私はまず正面の拝殿へ近づいてみましたが、由来を示す案内板や祭礼について書かれたものは、やはり見当たりませんでした。この神社の起源も祭の由来も何も分からず、少し残念に思いました。
ただ、長い年月を経てきたことだけは確かでした。屋根には苔が生え、木の柱には子どもが彫ったと思われる高さに、彫って書いた落書きがいくつも残っていました。その彫り口は柱の色と同化しており、かなり昔に刻まれたものだということが一目でわかりました。
今でこそ静まり返っている境内も、かつては近所に住む子どもたちの遊び場だったのかもしれません。そして祭りの日には、大勢の村人で賑わったのかもしれない、そう思いました。当時の人々はどんな神を祀り、何をこの場所に託していたのでしょうか。ここで執り行われていたという祭礼も、この拝殿は黙って見てきたのだと思うと、奇妙な感覚にとらわれました。
そんなことを想像しながら、ひっそりと佇む拝殿を横目に境内を一周してみましたが、やはり特に目を引くようなものはありませんでした。
境内まで来れば、村や祭、神社に関する手がかりが何か得られるかもしれないと少々期待していた私は、若干拍子抜けしてしまいました。それでも、せっかくここまで来たのだからと、騒がせてしまったお詫びも兼ねて、きちんと参拝して帰ることにしました。
拝殿の前に立ち、賽銭を投げ入れて手を合わせました。拝殿の奥には深い森が広がっており、木々が密集しているせいか、奥まではよく見えませんでした。
そうして覗き込んでいると、ちょうど拝殿の裏に、苔むした石塔のようなものがいくつか見えました。
「こんなところに石塔があるのは珍しいな」と思い、何か神社の手がかりが分かるかもしれないと、少し前に身を乗り出して見ようとしたその時――
背後で「ザッ…」と、砂を踏むような音がしたんです。
驚いて振り返りましたが、そこには何の姿もありませんでした。風が強く吹き、木々が擦れ合う音が境内全体に鳴り響いていました。
真夏の正午近くだというのに木漏れ日は乏しく、境内の空気はひんやりと冷たかったのを覚えています。
私はわずかな気味の悪さを感じ、そこを後にすることにしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます