両隣の幼馴染と共同生活をすることになりました!!

鼠野扇

第1話

 「へぇー! 想像してたよりずっと広いじゃん!」

 「本当だね。これなら生活には困らなさそう!」

 「…………」


 浮かれる二人を横目に、俺だけがどこか釈然としない気持ちで後をついて歩く。


 ここは、今日から住むマンションの一室。

 玄関は思っていた以上に広く、真っすぐ伸びる廊下には左右に二つずつ扉。突き当たりにも一つあって、部屋数の多さがひと目で分かった。


 廊下の先、正面の扉を開けると、そこにはファミリー向けとしか思えないほど広いリビング。

 フローリングは大きな窓から差し込む陽光に照らされ、ほのかにワックスの匂いが漂っていた。


 まだ何も置かれていない、がらんどうの部屋。

 あとで引っ越し業者が家具を運び込んでくる予定だから、今はただ広さだけがやけに際立つ。


 (……ほんとに、ここで新生活が始まるのかよ)


 期待と不安がごちゃ混ぜになった胸のざわつきをごまかすように、俺は少女たちへ視線を向ける。


 片方はニーソを履いた足でスケートのようにフローリングを滑りながら、ベランダへ一直線。

 おい、そんなことしたら足の裏汚れるだろ……と、つい世話焼きみたいなことを考えてしまう。


 もう一人は、散歩待ちの子犬みたいにキラキラした目で部屋中を見回している。

 新生活が楽しみで仕方ないというのが、表情だけで分かった。


 「あー! お父さんたち上がってくるよー!」


 ベランダに身を乗り出して叫んだ少女の声に反応し、もう一人が「あ、玄関閉めたままだった!」と小走りで廊下へ消えていく。


 ――そう。これから始まるのは、こんな二人との共同生活だ。


 普通の男子なら羨ましがるだろう。いや、俺だって最初からそんな目的でここへ来たのなら、素直に喜んでいたはずだ。


 だが――。


 「…………俺の一人暮らし計画はどこへ」


 現実を噛み締めるように、ため息が漏れた。


 「なによ? 私たちと暮らすの、嫌ってこと?」

 「ふふっ。せっかくだし三人で楽しもうよ?」


 ベランダから戻った少女が不満げに口を尖らせ、廊下から戻ってきたもう一人はクスクス笑いながら近づいてくる。

 そして次の瞬間、俺の両腕に二人同時に抱きついてきた。


 上目遣いで見上げられ、何か言い返してやろうと口を開きかけ――やめた。

 何を言っても、この共同生活が決定事項なのは変わらない。


 ため息をもうひとつ深くついて、俺は観念して声をかけた。


 「……里香、翔子。おじさんたちが来るから、とりあえず手、離してくれ……」

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