ルームコーディネート
その日、F班ワークルームでは、こはる、みりあ、レウス、リュカの4人だけミーディングテーブルを囲んで座っていた。グループワークは中間確認会ということで、班別のワークルームではなく全員がホールフロアに出向いている。当然、アシスタント達は連れて行くわけにはいかず、言わば〝お留守番〟状態になっていた。
「プライベートスペース、ですか?」
こはるがみりあに顔を向け、頬に手を当てる。
「うん、翼っちのはさ、サッカー選手のパネルとかギターとかあって、〝男の子の部屋〟みたいな感じでつまんないの!」
自ら振った話題でみりあがひとり憤っている。
「レウスはいいなぁ!梨央っちのお部屋、すっごいかわいいもん!」
今度はぼやきながら、彼女は羨望の目をレウスに向けた。
「お嬢のセンスには感服する。むしろあの部屋では私が浮いていてい心苦しいほどだ。」
レウスは腕を組んで誇らしげに頷く。
「だがみりあ、主の趣向に口出しするものではない。」
「翼っちは〝あるじ〟とかじゃないもん!レウスんとことは違うの!」
お説教じみたレウスの物言いを、みりあは舌を出して突き返した。
「慎さんのところはシンプルにまとめられてましたね。」
こはるに話を振られて、リュカはいつもの半分閉じた目を向けて頷く。
「見た目はモノトーンで統一。そこにアーカイブやゲーム、各種情報にアクセスする機能を各所に配置。」
自らが構成したらしい室内の説明をどことなく自慢げに並べて返す。
「ただ最近、〝しろねこ〟デザインのデジパネが数点増えた。」
最後に付け加えられた説明に、(ハマったんだ……)と三人同時に頷いた。みりあだけは声に出していた。
「そういえば、湊くんのとこは何もなかったね。」
みりあが視線を上げながら、湊の飾られていない無機質な部屋を思い出す。そう言われて、こはるアシスタントとして何も考えてなかった自分の配慮不足を少し恥じた。みんなちゃんと考えてる。不満を言うみりあですら、見習うべきなのかも、と。
「ひよりちゃんのところも可愛いんだろうなぁ……」
みりあが目を輝かせたその時、湊たちがワークルームに戻ってきた。
「なんだか楽しそうに話してたね。」
湊は留守番していたこはるを労うも、なぜか彼女の表情が少し曇っていることに気付く。
「プライベートスペースの装飾の事、話してたんですけど……湊さん、わたし気が利かなくてごめんなさい……」
そこまで聞いて、湊は何のことかを察した。
「ああ、僕、無頓着だったからね。少しは飾らないとね。」
こはるがこれ以上気に病まないように、少し大げさに笑い飛ばすと、つられてこはるに笑顔が戻る。
「わたし、がんばりますね!」
こはるは拳を握って気合を入れるが、彼女に任せると乙女チックな部屋になることを想像した湊は「い、一緒にやろうね?」と釘を刺した。
「ひよりちゃん!みりあ、ひよりちゃんのところも見たい!」
戻ってくるなりみりあに詰め寄られたひよりが「ほえっ!?」と裏返った声を漏らす。
「ねー、ダメ?」と猫なで声を出すみりあに「困らすなっつの!」と翼がデコピンを入れる。
「ま、また今度ね!」
あしらいながら、ひよりが自分のスペースを思い浮かべる。誰かを招き入れるなんて想定していなかったひよりのスペースは、湊と同じく、ただの箱のままだった。
「やったぁ!約束だよ?」と喜ぶみりあに引きつった笑顔を向けつつ、今日帰ってからがんばって飾らないと、と、人知れず焦るひよりだった。
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