いっしょに
梨央から一同の紹介を受けたレウスは、それぞれに礼儀正しく挨拶を返した。
「では長谷氏はお譲とは今日が初対面で?」
レウスの問いに湊が頷く。
「うん、実はそうなんだよね。えっと、レウス君でいいかな?思ったより怖くなくてよかった。よろしくね。」
その言葉に続くように、湊の後ろでこはるも丁寧に頭を下げた。
「先ほどは失礼しました。お嬢のご友人とあらば当然、丁重に応対させていただきます故、お気構えは無用です。」
そんなレウスのスマートな応対にみりあが感嘆の声を上げ、その台詞をまねて練習し始める。
「おー、俺は梨央ちゃんとは付き合い長いからな、そこんところよろしく頼むぜ、
レウス!」
翼が上からスタンスで割り込んだ。
レウスに引けを取るわけにはいかない、そんな意思を感じさせる。
「お嬢のご友人にふさわしくない品性の者もいるようで……」
レウスが横目の視線を送り、溜息をつくと、梨央が手をたたきながら間に入った。
「もぉ!仲良くしてよ!朝比奈くんも付き合い長いってまだ十日くらいでしょ?」
そんなやり取りを聞いていたみりあが、嘆きの視線を彼女の主に向けていた。
「そういえば、柚木さんも葉っぱの下見に来てたの?」
湊の何気ない問いかけに、あっと声を上げた梨央が頭を抱えた。
「そうだ忘れてた!店長に頼まれて、
そう言って梨央は、
それを見たこはるが、同じくあっと声を漏らし、その手の中に同じものを取り出して見せた。
「あれ?同じだ。なんでこはるちゃんも持ってるの?」
梨央が首をかしげる。
「湊さんがバイト探してたから搔き集めてたんです。その中に……」
湊が見比べると確かに同じものだった。そういえばこはるがバイト情報を探した時、まだ翼のバイト先のことは知らなかったのだ。どうやらこはるが無作為に集めた情報の中に同じものがあったらしい。
「長谷くん、バイト探してるの?じゃあ一緒にやろうよ!ね?朝比奈くんもそのほうが楽しくない?」
とてもシンプルな理由で梨央が湊を誘うと、翼もその提案に頷いて湊の意向を伺う。
「ウチの店、リンクス着用自由だよ?こはるちゃんともずっと一緒にいられるよ?ね?やろ?」
それを聞いて、こはるが急に期待に満ちた目を向ける。意外とその条件を満たすバイト先は多くないのだが、考えてみると、こはるがいる今となっては湊にとってその条件は必須と言っていいものだ。これは渡りに船なのかもしれない。
「じゃあ応募してみるかな。こはる、手続き頼める?」
その湊の言葉にこはるが応えるのを梨央が遮った。
「そんなのいいって!レウス!店長に繋いで!」
梨央が掌で指示すると同時に、それを予測していたレウスが目を閉じて指を鳴らし、準備していた店長への通話コールを開始した。
「あ、店長おつかれでーす。バイトの募集まだ埋まってないですよね?わたしの紹介で入れていいですか?はい、いい子ですよ。はい、やった!さっすが店長!話せるぅ!じゃあ伝えときまーす。」
湊とこはるが顔を見合わせて聞いていると、通話を終えた梨央が満足げに頷く。
「オッケーだって!採用決定~!」
機嫌を良くした梨央がバイト募集データのプレートをレウスに向かって投げるとレウスはそれを指で弾いて削除した。
「えっとあとは……」梨央が顎に指を当てて考え込むと、レウスが先回りする。
「お嬢、あとは私が。こはる、長谷氏のエントリーデータを私に。」
それに頷いたこはるが湊の許可をとり、その場で作り上げた履歴書ファイルを渡すと、レウスはそれを梨央のバイト先にアップロードした。
その手際の良さに、みりあが「ほえ~」と声を漏らす。
「うん!さすがね、レウス!」
「有り難きお言葉、光栄です。」
何もしていないのに思ってもいなかった展開となったことにあっけにとられてしまう湊だったが、同時に心が躍るのを感じていた。
梨央が言うように、このメンバーとなら楽しくやれるのは間違いなく、それになにより、リンクス着用OKならこはるとも一緒だ。
「あ、それとこのバイト入るなら、この梨央さんから一個だけ条件!」
梨央が人差し指を立てる。
「〝柚木さん〟なんてナシね。〝梨央〟でいいよ?あらためてよろしくね、〝翼くん〟、〝湊くん〟!」
急に親密さを増した呼び方をされて、翼が大はしゃぎで応え、湊は赤面して視線を泳がせた。そんな二人を交互に眺めたこはるが、ふふっと笑みをこぼす。
それにつられるように、梨央も声を出して笑った。
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