第29話『勝利の兆し』
土煙がゆっくりと晴れ、戦場の各所で状況が動き始めていた。
ガルザスは拳を深く構え、ヴェロークを睨みつける。
「触れぬ、か。だが──圧は消えん。」
大地が震えた。
ガルザスが一歩踏み込むたび、周囲の岩が揺れ、空気が押し出される。
攻撃が届かないのではない。
攻撃の圧が、確実にヴェロークを削っている。
ヴェロークの輪郭が揺れた。
「不可触の領域が……乱れる?」
ガルザスは拳を強く握りしめる。
「触れないなら……押し潰すまでだ。」
地面が隆起し、ヴェロークの足場が音を立てて割れた。
雷光が弧を描く。
ライゼルはイェルダの回転の“流れ”を完全に掴んでいた。
「方向が決まってんなら逆に乗っかって殴るだけだ!」
雷がイェルダの流れを逆に利用して、回転の中心へ吸い込まれていく。
イェルダの動きが一瞬だけ止まる。
「流れが……逆?」
「もう読んでんだよ!」
ライゼルの拳が、雷を引き連れてイェルダの胸に迫った。
影が互いに絡み合う。
ルナリアは影の“軸”を完全に固定していた。
「そこ……だよね。」
シェルヴァが揺らし仕掛けた立ち位置を、ルナリアはすべて読み切る。
無数の影像の中、ただ一つだけ“深い影”を持つ本体。
ルナリアはそこへ向かって影を細く針のように尖らせた。
シェルヴァが初めて目を揺らす。
「……当たる?」
影の一撃が本体をかすめ、薄い亀裂が走った。
「揺らされても……私はここにいる!」
リュミエルは光の膜を三重に展開し、ネザリオの“未来の欠片”を読み切っていた。
「……落ちる場所はそこ!」
未来の痛みが落ちてくる瞬間、そこに先回りして光の膜を置く。
衝撃が吸収され、光が弾ける。
ネザリオがわずかに眉を寄せた。
「……結果が落ちない?」
「原因が未来にあるのなら……未来より先に光を置けばいいだけ!」
リュミエルの光が、ネザリオの歩みを止めた。
セリオスは観測を捨て、気配・揺れ・足裏の反響
そのすべてを統合してラグド=オラの位置を読む。
「……いた。」
攻撃を仕掛けようとした瞬間だけ、わずかに揺らぎが発生する。
その“揺れ”を見逃さなかった。
セリオスは背後へ一歩踏み込み、拳を振る。
空間が一瞬だけ歪み、ラグド=オラの輪郭が浮き出る。
「観測を……拒むな!」
「拒むなじゃない。拒んでるのはお前だろ!」
ラグド=オラのにじんだ姿へ、セリオスの攻撃が掠めた。
戦場全体が、わずかに傾く。
神子たちが──
初めて神将級を互角以上に押し返している。
勝利の光が、ほんの少しだけ見えはじめた。
「行ける……このまま押し切れる!」
五人全員が一気に前へ踏み込む。
その瞬間──
空気が凍った。
裂け目が、戦場の中央に走る。
ヴェロークがかすれた声で呟いた。
「っ……来られる!ネヴラ=ヴォルグ様が……!」
次の瞬間、空そのものが裂けた。
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