めんどくさくて、可愛い君のため息
月下花音
第1話 【プロローグ】最高を目指した男の、127回目の敗北
最高にめんどくさくて、最高に可愛いヒロインとは──どんなキャラクターなのだろうか? 矛盾しているように見えて、実はそれこそが最高の存在なのではないか。
最高とは、孤独の果てに訪れる幻だ。
届かないまま、永遠に落ち続ける瞬間。だが、落ちることこそが、書くことなのかもしれない──そんな哲学的な言い訳を、俺は127回も自分に言い聞かせてきた。
で、127回目の今夜も、やっぱりボツである。
妹からのDM:『うーん。ボツ。つまんない。魅力がない。構成から見直しだね』
実の妹に微塵の容赦もない『ぼつぼつ宣言』。ポンコツ小説、これが現実だ。
ちなみに、俺が書いているのはラブコメだ。
ラブコメ。恋愛。喜劇。笑いと恋の融合。人類が生み出した最高のエンターテインメント。
……のはずなのに、俺の書くラブコメは、誰も笑わない。誰も恋しない。誰も読まない。
なぜか?
簡単だ。俺には、恋愛経験がない。笑いのセンスもない。小説家になる素質なんか微塵もないのだ。
あるのは、127回のボツ経験と、妹に「お兄、まだ童貞でしょ?」と言われて否定できない現実だけだ。
でも、考えてみてほしい。ラブコメ作家に恋愛経験が必要なら、世の中のラブコメ作家は全員リア充なのか? 違うだろ。きっと、みんな妄想で書いてる。妄想で賢者か神になってる。
じゃあ、俺の妄想は何が足りないのか?
妹曰く、「リアリティ」らしい。
待て。妄想にリアリティを求めるのか? それは、矛盾してないか? 妄想は妄想だから妄想なんだろ? リアルな妄想って、それもう妄想じゃなくて、ただの現実じゃないのか?
でも、妹は言う。『お兄の書くラブコメ、ヒロインがお人形さんみたい。感情がない。生きてない』
生きてない。
その言葉が、胸に突き刺さる。俺のヒロインは、魂を持たないのか? いや、最初から生まれてすらいないのか?
127回のボツ。127体の未完成品。俺は、ヒロインの廃棄場を築いている。
……って、おい! これ、ラブコメのプロローグだぞ? 廃棄場とか言ってる場合じゃないだろ! 読者がみんな逃げちゃうじゃないか!
でも、これが俺の現実なんだから仕方ない。127回も失敗してるんだから、もはや失敗のプロフェッショナルだ。失敗界の王者。ポンコツ界のレジェンド。
そう考えると、なんだか誇らしくなってきた。127回も諦めずに書き続けるって、ある意味すごくない? 普通の人なら10回目くらいで心が折れてるよ。俺の心、ダイヤモンドより硬いんじゃないか?
……いや、ダイヤモンドじゃなくて、ただの鈍感なだけかもしれない。
でも、これが現実だ。俺の現実。127回目の、敗北の夜。
(続く)
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