最終大戦

「無礼者!お前のような者は知らん、早く仮面を取れ、罪深き神殺しよ、その顔を早く晒せ」


アテナは鋭い声で告げた。その瞳には戦闘神としての冷厳が光る。空気が少しずつ重く沈み、金属の香りと鎖の微かな振動が戦場を支配する。


「仮面?外しても覚えてないだろ?こっちの方が楽なんだけど……」


アスラは指先で仮面の縁に触れ、ゆっくりと顔から外した。仮面は手の中でひんやりとした冷気を放ち、光を反射してかすかな影を作る。


外された顔をアテナに見せつけるように、アスラは一呼吸置いた。心の奥で、静かに波打つ不安と怒りが混ざり合う。


「誰じゃお主は!憎らしい顔をしておる!この羽虫め」


アテナの声は鋭く、怒りに満ちているが、記憶は戻らない。


その瞳がアスラの顔を射抜き、戦場の鎖や槍の光を反射して、周囲に鋭い緊張を生む。


「……本当に忘れたのか?」


アスラの胸に不快な感覚が走り、吐き気のような違和感が込み上げる。心臓は早鐘のように打ち、全身の神経が戦闘への警戒で研ぎ澄まされる。


女神アテナは静かに戦闘態勢を整えた。アイギスの槍を両手に握り、盾を前面に掲げる。


背後では天の鎖が宙をうねり、まるで意思を持つかのように動く。風が渦を巻き、鎖の金属音が戦場の緊張を増幅させる。


「は~、あれだけの事をしておいて、忘れるか?

元の世界に返すと言って、違う空間に転移させただろ!?」


アスラの声は怒りで震えた。拳の力が刀身に伝わり、体中に熱が走る。


目の端に映るアテナの鋭い構えに、さらに怒りが燃え上がる。


「そんなの沢山いるからいちいち覚えてないわ」


アテナは視線をゆっくりと下げ、冷たい氷のような光をアスラに向けた。


その言葉だけで胸が締め付けられるような鋭さを帯び、アスラの拳は力を増し、呼吸が荒くなる。


「うおおおおぉ!」


アスラは全身の力を込め、渾身の一撃を叩き込もうと斬りかかる。


しかしアイギスの盾が軽く受け止め、鋼鉄の衝撃が腕に跳ね返る。刃の振動が手首を震わせ、冷たい衝撃が骨にまで伝わる。


二度三度、全力で叩き斬るが、防御は微動だにせず、鋼鉄の壁がそこに立ちはだかる。一撃ごとに戦場の空気が裂け、地面に残る衝撃波が砂塵を巻き上げる。


その隙をアテナは見逃さなかった。アイギスの槍を構え、光速で一突き——アスラの右脇を深く抉る。


鋭い痛みが全身に走り、筋肉が硬直する。怒りが一瞬冷め、思考がフリーズしかけた。血の熱さが脳を焼くように感じられ、痛みと恐怖が混ざり合う。


(盾を避けて斬るしかないな、いや盾は斬る!でないとアテナは打てない)


アスラは息を整え、全身の緊張を抜かず、次の一手を必死に探りながら構えを低くした。鋼と魔力の衝突が戦場の空気をさらに張り詰めさせる。


――――


その頃、別の戦場ではジークがオーディンへと肉薄していた。


ジークは剣を振り回しながら間合いを詰める。

相手は六本足の大馬に跨り、必中の槍グングニルを携えたオーディン。


ジークがその間合いに入った瞬間、百の突きを叩き込む。

しかし突きの大半を剣で弾き返す。


大きく飛躍し、オーディンの馬、スレイプニルの尻に降り立った。

そこから後頭部を斬るが、兜に弾かれる。


スレイプニルが後ろ足を大きく蹴り上げる。

ジークは再度飛躍するが、近くにカマエルが立っていたため、ついでに斬撃を放つ。


カマエルが怯んだ隙に、ルーシーは魔法で攻め込む。


第二十階梯魔法 禁術── 絶界焚滅エンドレ=スフレイム


対象範囲ごと永遠に燃え尽くす火焔魔法がカマエルを包む。


だが、一瞬早く神聖防御魔法が展開されるが、炎は簡単には消えない。

カマエルが暴れ、炎が暴走する中、持っていた聖水で徐々に鎮めた。


ルーシーはその隙を見逃さなかった。

超高速で飛び、カマエルの胴に十の斬撃を入れる。

炎が斬撃を飲み込み、光と熱が戦場を覆う。


カマエルは身をひるがえし、ルーシーの剣を避ける。

そして剣から巨大な炎の玉が何度も飛び出した。

ルーシーは体を回転させ、間一髪で回避。


だが、終わっていなかった。


天剣──《烈爆》

剣が眩く光り、空気が振動する。


ルーシーは反応する。

第十五階梯神聖魔法── 十光環絶界アルカナ・ラディウス


全てを阻む絶対防御が十重に展開され、光が戦場を覆い尽くす。


爆音と共に空間が歪み、砂塵と閃光が舞う中、二人は同時に動き、剣と剣が激しく衝突した。衝撃で周囲の小石が弾け、空気が振動する。


カマエルは連撃を加えるが、ルーシーは鋭い反応で受け流す。剣先が交わるたびに空気が裂け、戦場は極限の緊張に包まれた。


光と影が交錯し、残像が揺れる戦いは、まるで嵐の中の決闘のようだった。


再度、左手を前に出したカマエルから、神の刃の輪が飛び出す。

金属音を伴い、光の残像を引きながら音速を超える速度で、ルーシーを容赦なく追い詰める。


ルーシーは反応速度を極限まで引き上げ、回避に専念する。


斬撃を避け、弾き、跳躍し、蹴り上げる。


飛び散る光の破片が視界を切り裂き、炎と剣の熱が皮膚に感じられる。

今はただ、耐え抜くしかなかった。


――――


一方ゼロは、アレスと鋭く睨み合う。

その瞳は互いの力を計り合う獣のように燃えていた。


「龍ごときがこの地にこれたこと、幸せに思え!

本来、お前のようなものが来るところではないんだ、ぶっ殺してやるから安心しろ」


アレスは冷徹に見下し、笑みすら浮かべた。


「前も同じこと言って死んだ奴がいたな、お前も同じにならなければいいが」


ゼロは嘲り、胸の奥で戦意を燃やす。


龍奥義

── 龍神帝ドラマギア・レギオン


三メートルほどの体躯に、龍王の全ての龍魔力を流し込む。


真爪は鋭利に、牙は凶暴に、筋肉は膨張し、鱗は漆黒に光る。背中には龍の翼が広がり、尻尾は暴れ、顔には二本の角が天を突くようにそびえ立つ。


ゼロとアレス、互いの体格はほぼ互角。静寂の間に、張り詰めた空気が戦場を切り裂く。最初に動いたのはゼロだった。右拳をアレスの腹に叩き込む!


「グハッ」


アレスが後ずさり、刃のように鋭い息を漏らす。


すかさず左手の真爪で胸を裂くと、血しぶきが舞い上がり、戦場の塵埃も巻き上がった。だがアレスは傷を瞬時に回復させ、余裕の表情すら微塵も崩さない。


そのままアレスはゼロの顔を力強く掴み、無慈悲に地面へ叩きつける。倒れたゼロの上に足をかけ、右手を天に掲げると、掌に光の槍が形成され、鋭くゼロを射抜かんと突き出される。


── 龍鎧壁ドラゴニックガード


ゼロの鱗が硬化を始め、振り下ろされる槍を頭部で弾き返す。


火花が四方に散り、衝撃波が大地を揺るがし、戦場の空気は一瞬にして灼熱に変わった。ゼロは後方へ飛躍し、間合いを取り直しながら次の一手を探る。


――――


その隣ではルアが大天使ミカエルと鋭く対峙する。ルアは初めから全力で挑むと己に誓っていた。


第十五階梯魔法

── 神眼ゴッドアイ光速ライトスピード剛体アルティボディ剛力マイティパワー


動きは視認不可能。

ミカエルの背後から十の斬撃を入れるが、炎の剣がそれを飲み込む。


「君凄いね!それでも人間なのかい?理解できない」


ミカエルは微笑み、炎の剣を構えた。


「私は人間だよ!ちょっと龍が混ざってるけどね!」


ルアは笑いながら、左手で龍帝光ドラゴニックレイを放つ。

白い炎を帯びた超高圧レーザーがミカエルに迫る。


同時に、ルアは雄叫びと共に口を開け、龍技 天灼焔テラブレスを発動した!

そして、超高圧レーザーも着弾する。


ミカエルは神聖の輝きを殻状に凝縮し、絶対防壁を形成。


神超境地── 聖輝殻壁アーク・ディア・シェル


攻撃が触れる前に自動で強度を最適化し、無効化していく。


しかしルアは諦めず、龍神剣ドラグノアに全身の龍魔力を注ぎ込み、足と腕に力を込めて一直線に突進した。


炎の熱気が空気を震わせ、剣先からは蒼白の光が迸る。


炎を切り、防御魔法の切筋をなぞりながら魔法を収束させ、その流れでミカエルの羽根を深く斬った!


血の香りと焦げた魔力の匂いが混ざり、戦場全体に緊張が走る。


『クソッ!』


ミカエルが炎の剣を振るい、応戦してくる。

巨大な火球が何発も飛び交い、ルアはそれらを正面から次々と斬り払った。


火花と衝撃波が周囲を蹂躙し、地面の砂塵が舞い上がる。


しかし、天剣──《業火》が追い打ちをかけるように襲いかかった。


放たれた瞬間、業火は大地を丸ごと飲み込み、周囲は瞬く間に灼熱の世界と化した。

地面はひび割れ、熱波で空気が歪む。


「あれは、ヤバい!」


第十五階梯魔法──暁光絶界《ルミナ・カタス……


発動前に、ルアは炎に包まれ、詠唱ができない。

焼かれながらも、対処法を考える。

切筋が視認できないなら……吸収するしかない。


ルアは大きく息を吐き、限界まで吐き切ったと思った瞬間、業火を口から吸収し始める。


炎はみるみる吸収され、やがて全て消滅。

その影響で髪と鱗、瞳が赤く染まり、目つきは鋭く変化した。


――――


一方、アスラはアイギスの盾に苦戦していた。

神器に切筋は存在せず、斬っても斬っても防御は微動だにしない。

背後に伸びる蛇のような天の鎖がアスラの身体を強引に絡め取る。


逃れようと身をひねるたび、鎖は締まり、鋼鉄の冷たさが肌を刺す。


その瞬間、アイギスの槍が飛来する。

一突き二突き三突き——鮮血が飛び散り、戦場の土と混ざり合う。

アスラの視界が赤く染まり、痛みと怒りが同時に脳裏を貫く。


「くっ……!」


ジークが力強く援護に入る。

絡まる右手の天の鎖を、数千の突きで打ち砕く。その剣撃の一つ一つに重みがあり、鎖の金属音が戦場に鋭く響く。


アスラは瞬時に切筋を見極め、絡みついた鎖をすべて切断した。

空気を切り裂く音が耳をつんざき、解放された自由な体に怒りの熱が漲る。

目が赤く燃え、拳が自ずと震えた。


「──行くぞ!」


怒りに任せ、アスラは魔法を起動した。


第二十階梯魔法・禁術──黒隕破核アン・ヴォル・セグル


無数の小隕石が空から降り注ぐ。

地面から宙まで、魔法陣が無限に展開され、小隕石が次々と飛来する。


アテナは盾を振り回し回避し、アレスは拳で小隕石を粉砕する。

オーディンは見えない槍で周囲の隕石を突き壊す。


大天使二人は超高速で飛び回り、避けつつ逆襲を仕掛けてくる。


ルーシーはアスラに飛びつき、即座にヒールを注ぎ込むと、カマエルに狙いを定め斬撃を放つ。


ルアは背中に龍魔力を集中させ、体を震わせると、瞬間、背中から巨大な龍の翼が生えた。


その翼が空気を切り裂き、爆音を伴いながら彼の身体を支え、超高速でミカエルに斬り掛かる。


龍魔力は全身を覆い、動きは人知を超えた速さとなった。


空中では、四人がそれぞれ斬り合い、攻防が交錯する。

剣光と魔力の奔流が渦巻き、戦場全体が凶暴な熱を帯びて揺れる。


アレスは全ての小隕石を叩き砕くと、腕を回し、ゼロに迫る。


(我の全開放の力で、倒せるか?いや、届かぬかもしれぬ。ならば攻撃を封じる攻撃を打ち込むのみ……!)


ゼロは超高速でアレスの両腕を掴み、膝蹴りで吹き飛ばし、背中に両拳を組んで叩きつける。

そのまま首を持ち上げ、口からブレスを吐いた。


──終天煌覇オウテンコウハ


天を覆う光の柱が轟音と共に出現し、世界を焼き尽くす終焉の光が荒れ狂う。大地は震え、空は裂けるように明滅した。


アレスは逃げ場を奪われ、光の奔流のただ中に閉じ込められた。


柱は徐々に集束し、沈みゆく星のように輝きを凝縮させ、最後には戦場そのものを揺り動かす大爆発を引き起こす。


爆炎と土砂が舞い上がり、極熱の嵐が視界を塗り潰す。あらゆる音が焼け落ちていく最中――


瞬間、アレスが目の前に忽然と現れた。

次の瞬間には、鋼の装甲を思わせる右拳がゼロの顔面を殴りつけていた!


雷撃のような衝撃が走り、視界が一瞬乱れる。すぐさま左拳が腹を抉り、骨を震わせる頭突きが容赦なく落ちてくる。


ゼロは苦悶に喉を震わせながらも耐えようとするが、力は急速に抜け落ち、地面へ崩れ落ちた。


アレスはためらい一つなくゼロの尻尾を掴み、無慈悲に地へ叩きつける。二度、三度と、衝撃で地面が大きく陥没し、周囲の大地までもが鈍い音を立てて揺れた。


衝撃のたびにゼロの全身は跳ね、痛みで声すら上げられない。


そして、アレスは静かに右手を天へ掲げた。


瞬時に光の奔流が溢れ、白銀に染まる大剣がその手の中で形を成していく。


「これが神と龍の差だ」


雷鳴のような閃光が迸り、世界の理ごと断ち割るかのようにその刃はゼロの背へ振り下ろされた。


大剣が背を貫いた瞬間、ゼロの口から、命を絞り出すような凄烈な血が噴き上がる。


「グアッ!」


絶叫が戦場に響き渡り、流れ出た濃赤の血は砂塵に吸われ、地面にどす黒い血の河を形作っていった。


――そして、ゼロの鼓動は、静かに落ちていく。


戦いの余韻だけが、冷えきった空気の中に取り残されていた。

もっと絶望感を強めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る