第19話 それぞれの決着
――リオスト城下町・宿屋
激闘から一夜明け――。
柊真は、城下町の宿屋の天井を
見つめて目を覚ました。
身体に残る疲労と……高揚感が
昨日を思い出させる。
「――優勝……したんだな。」
そう呟き、静かに息を吐く。
昨夜、ゴールのモルナ村から
スタート地点の城下町まで
走ったウイニングラン。
沿道には人、人、人の波。
リオスト中の民の歓声と拍手が
止まらなかった。
「あれが、圧倒的な速さの魔動機を
操った少年と、魔術師サノンだ!」
「最下位からスタートで、
全選手抜きさったらしいぞ!」
「あの乗り物、格好いい!」
両側から賞賛の声が聞こえる。
柊真とサノンは、慣れない状況に
ぎこちなく手を振りながら走る。
スタート地点……、リオスト城
城門前に着いた。
王、エルネス・リオストは
立ち上がり、柊真を称えた。
「女神リスティアの加護を受けし者、
天城柊真よ。見事な走りであった。
明日、表彰式を行う。
今日はゆっくり休むがよい。」
宿に帰ってから、記憶が無い。
だが、その言葉は今も柊真の耳に
残っていた。
「夢じゃ……ないよな。」
柊真は拳を静かに握る。
やがて、サノンも起きてきた。
「……柊真君。おはよう。
昨日は……私達、やり遂げたね。」
その表情は優しかった。
柊真は少し照れながら返す。
「…ああ。ありがとう。
サノンがいなきゃ……きっと、
優勝出来なかった。」
サノンはにこやかに返す。
「……こちらこそ、ありがとう。
朝ご飯を食べたら、表彰式に
行こっか。みんなが待ってる。」
「そうじゃぞ。皆が待っておる。
胸を張って行くがよい。」
リスティも寝室から降りてきた。
何を考えているのだろう。
いつになく真面目で、茶化す事も
ないリスティは珍しい。
「ソウリスは必要無いじゃろうし、
我は城下の民に紛れ、表彰式を
見る事にする。二人で行くと良い。」
少し不思議に思う柊真だったが、
リスティは気まぐれな女神だ。
あまり気にしないことにした。
柊真とサノンは宿から城に向かう。
途中で、見覚えのある人物が
二人の前に現れた。
「あ……!あの、全身甲冑の
大男は……!」
ハイランだ。隣には魔術師の
少女も居て、異国の滑走術師と
言葉を交わしていた。
「へえ、鎧のおっさんも諸国を
回ってる最中だったのか。」
「お主らこそ!グラン・レースに
出ることがあればまた会う事も
あるかもしれんな!」
柊真も話に加わる。
「鎧のおっさん、板に乗ってた
あんた達も、昨日ぶりだな。
……つい聞こえてしまったんだが、
みんなリオストの民じゃないのか?」
ハイランが答える。
「おお!昨日の変な乗り物に乗った
優勝者じゃないか!見事であった!
そうだな!我々は隣国の者だ!」
異国の滑走術師達が続ける。
「俺達の出身はグラン・レースに
入る20国には選ばれない程の
辺境の地でな。ただ、レースと
聞いて板乗りの血が騒いで
エントリーしてたのさ。」
「そうなのか……リオストに居て
代表として走る気があれば、誰でも
参加資格はあるレースだったしな。」
「吾輩はリオストの隣国で停戦中の国、
ノルバ出身だ!姫の魔法の実験台
として参加していたぞ!」
ハイランの突然の言葉に驚く。
「ひ、姫だって⁉」
「そうだ!吾輩にひたすら強化魔法を
かけ続けたこの少女こそ、ノルバの
姫、シャルロッテ様だ!」
シャルロッテはハイランの後ろに隠れ
こちらを見ている。どうやらかなり
恥ずかしがり屋のようだ。
「自国の姫に加えて、隣国のお姫様
まで参加してたなんて……!
優勝してたらどうするつもり
だったんだろう。」
困惑するサノンにハイランが答える。
「ははは!流石に私の肉体だけで
リオストの誇る翼竜に追いつけると
思ってた訳ではないぞ!今回は姫の
実験台となって参加したのだ!」
「じ、実験台って……!」
固まる二人。深く聞くのは
辞めておこうと思った。
滑走魔術師二人組が前に出る。
二人とも、被っていたフードを
脱いで口を開いた。
「じゃあ、俺達はここらで帰るぜ!
名乗り遅れたが、俺はミゲルって
名だ。リオストみたいに走者を
募る国があれば、また参加して
見るつもりだ!」
もう一人の男も口を開く。
「俺はアランだ。今回のレースは
勉強になったよ。板を操るだけじゃ
勝てないこともな。別の国の走者
としてまた戦える事を願うぜ!」
二人は、そう言い残すと1人用の
滑走板にそれぞれ乗り、去っていった。
「我々もノルバに帰るとする。
表彰式を見れぬのは残念だが、
グラン・レースの通知がノルバにも
来てるであろうしな。では若者よ!
グラン・レースでまた会おう!」
ハイランも去っていった。姫を抱えて
去っていくと思われたが、普通に
馬車を呼んだので少し拍子抜けだ。
柊真とサノンは城へと向かう。
城下町を通る道中は、パン屋や果物屋
からは商品を貰い、町のみんなに
歓迎され、もみくちゃになりながら
なんとか門の前まで着いた。
「代表走者、シューマ様!
補助士並びに魔術師サノン様、
お待ちしてました!」
門を守る衛兵の力強い声が響く。
柊真もすっかり“顔パス“で
通れる事になっていた。
表彰式は玉座の前で行われる。
そこへと続く手前、城の広間で
柊真は呼び止められる。
「……天城柊真よ。……見事であった。
汝をリオスト代表走者と認める。」
振り向くとロードが立っていた。
黒髪に重厚な鎧。雰囲気は相変わらず
重苦しいが、今まであった“敵意“は
不思議と感じなかった。
「国は今後、全面的に汝を支援する。
……無論、私もだ。力になれる事は
何でもしよう。」
そう言ってロードは一歩前に出て、
頭を下げた。
「騎士団の件は、申し訳ない。」
柊真はそれを静かに見つめる。
しかし、サノンは鋭く睨み
口を開いた。
「騎士団長……、騎士団の妨害は
度を越えていました。
それぞれが優勝を目指さず、
私達や、他の参加者への妨害を
した事を……認めるのですね。」
ロードは否定せず、深く謝罪した。
サノンは足早に進む。柊真も
戸惑いながら続く。
その後、後ろに控えていた
ルミナがロードに近付いた。
「兄上……!他の騎士団員に妨害を
指示したのは私が個人的に行った
事です!……なぜ兄上が!」
ロードは未だ深々と頭を下げたまま。
柊真達が見えなくなってやっと頭を
上げた。
「……良いのだ。私は騎士団を束ねる
者であり、お前の兄でもある。
……これは私の責任なのだ。」
ルミナは涙を流し、謝る。
「申し訳ありません……!兄様……!」
――遺恨は断たれた。
残されたのは、表彰だけだ。
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