第13話 “レース開始“

レース開催宣言から10日後――





――リオスト王都・城下。



大通りには多くの見物客が集まり、

多くの旗が風に翻っていた。

城の門前には、8台の乗り物が並ぶ、

魔導機、獣車、板状の乗り物――。

極め付きは、巨大な鳥に乗る者がいた。


王と王妃が正面の観覧席に座り、

騎士団長ロードが前に出て告げる。


「これより、リオスト代表走者、

 選定レースを開始する!」


柊真は慣れた動作でソウリスに跨り

黒銀のヘルメットを被る。

リスティが錬成してくれた特注品だ。


後部には補助士としてサノンが乗り、

ハーフヘルメットとゴーグルを着用し

静かに息を合わせた。


ソウリスから柊真の胸に響くように

リスティの声が聞こえた。


「――さあ、見せてみよ、我が走者よ。

 風を掴み、風を超える、その走りを。

 お主は今日ここで……自らの力で、

 走者の座を勝ち取ってみせよ!」


柊真の瞳が鋭く光る。

柊真は静かにアクセルへ手を掛けた。


「行くぞ、サノン!」

「うん!」


ロードの合図と共に、轟音が響く。

青白い風が排気口から吹き荒れ、

ソウリスが勢い良く地を蹴った。


――リオスト代表を決める戦いが

いま―――始まる。




観客の歓声が地を揺らし、

出走者8組がそのスタートを

切った。


王エルネスと王妃レイナの背後に

騎士団長ロードが控え、二人を含めた

王族や家臣に、走者たちを紹介する。

レースは、魔石で映し出されるようだ。


「一番手。我ら騎士団所属の精鋭、

 ワイバーン騎。走者は私の妹――

 リオスト近衛騎士隊の筆頭、

 ルミナ・グランディス。」


ワイバーンはルミナ・グランディスの

相棒だ。レース開始と同時に圧倒的な

スピードで前に出た。銀髪の女騎士が

翼竜を駆り、その長く美しい髪を揺らす。


ルミナの後ろには兜で顔を隠した騎士が、

補助士として共に翼竜の手綱を操る。



「二番手。武具屋“ガルム夫妻”。

 積層盾を浮遊させ、風瓶で加速する

 魔導乗具を使用している模様。」


空中に浮く巨大な盾束が

ひゅんと音を立てる。

これでもかと言う位な量の風瓶を

取り付けているようだ。


「三、四番手。双頭馬“オルトロス”

 2頭に牽かせる騎士団車。」


双頭の馬が2頭。鼻息を荒げて

大地を掻いた。どちらも完全に

息を合わせている。


「五番手……異国より、滑走術を

 操る魔術師二名。摩擦を消す魔法で

 巨大な板を滑らせている様子。」


二人組は不敵な笑みを

浮かべていた。


「六番手。謎の鎧男“ハイラン”。

 少女魔術師を担ぎ、常時強化を受けて

 走り抜ける奇態。」


担がれた少女が沿道に並ぶ民に

大きく手を振っている。


「七番手。大鳥騎“シェイル隊”。

 我ら騎士団の空戦部隊です。」


青い翼が広がり風が巻き起こる。

怪鳥だ。二人で操るには

とても大き過ぎる。


「八番手。最後尾――異界の走者、

 天城柊真と、砂の魔術師サノ。」


最後に紹介――つまり最後尾は

柊真とサノンだ。その速度は

かなり……だ、



ロードはその様子を鼻で笑い、

王族や家臣達は困惑する。


そんな状況をよそに……

柊真は大きく、深く息を吸い、

ハンドルを握り直した。




――なぜ最後尾か?



脳裏にリスティの声が蘇る。

レース前日の夜の言葉だ。



『よいか。圧倒的に勝て。全員を抜き

 誰も文句の言えぬ実力を……国中に

 見せつけよ。』


『素性の知れぬおぬしが代表に

 なり、認められるには――お主は

 文句の言われぬ“力“を見せつける。

 それしかないのじゃ。』


柊真は頷いた。


「……わかった。圧倒的に勝てば、

 問題無いんだろ?元々レースは

 “俺の土俵“なんだ。……参加者全員を

 抜き去ってやるよ。」



――時は現在に戻る。

そうして柊真は最後尾に着いた。

ここから全台、全参加者を抜き去る。

ここで勝たねば何も始まらないのだ。


街の人達が沿道に並ぶ道を抜けた頃。

柊真の前を先行する大鳥隊が

急降下してくる。


「……来たな。」

柊真は迫る影を見て、気配を読む。

上空手前に騎士団2名を乗せた、

青い怪鳥が現れた。


鳥の背の騎士が呪紋を描き、

上空から魔法弾を放つ。


レースはヴァルネア・グランレースに

乗っ取り行われる。レース中の、

走者同士は――だ。


「排除対象は最後尾の男だ!

 奴を吹っ飛ばせ!」


爆裂の光が地面を焦がし、

ソウリスの横を掠めて通る。


「くっ……、早速妨害かよ……!

 予想はしてたけどな!」


柊真はギアを巧みに操り、

低速から一気にスライドターン。

魔法弾を滑り抜けた。


「柊真君!次、来るよ!」


サノンが後ろで声を掛ける。



続けざまに前方上空から――

雷撃の魔法が降り注いだ。


柊真は雷の隙間を縫う様に

ジグザク走行で雷撃の雨を躱す。


一気に加速し、前傾姿勢で

ソウリスを倒し込み、鳥の影の下へ

機体が潜り込む。


「サノン、頼む!」

「はいっ――!」


サノンの手に砂が集まり、

瞬時に形を成す。


――砂の弓。先端は丸い、

非殺傷の矢。しかしその密度は

魔術師サノンがだ。



「ごめんね。落ちてくださいっ!」


弦が鳴り、勢い良く砂矢が放たれる。


矢は鳥の翼へ直撃し、

巨大な鳥がバランスを崩した。


「うわっ!?」

「きゃあっ!」


大鳥隊は制御を失い、空中で大きく

旋回してコース外へ逸れていく。


空中走行は認められるが、コースの

横幅から外れた者は「失格」となる。

大鳥隊はここでリタイアだ。


柊真はアクセルを捻る。

道は直線が続く。その圧倒的な

スピードは先行集団を捉え始めた。


「よし……!あと、たかが6台!

 全部抜いてやる!」


ソウリスの風が唸りを上げる。


魔石で様子を見ている王達は

ソウリスの速さに沸き上がる。

ロードは少し、苛立っていた。


レースは街の終わりに差し掛かる。

しかしまだ、始まったばかりだ――。

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