2-1 ベルの町
夜の砂漠。
ライトが一つ近づいてくる。
一台のバイクが砂漠の
タイヤの無いバイクだ。
地面からやや宙に浮いている。
バイクの側面に“Coapland Company”とロゴがある。
砂漠の遠くに山がある。
山肌に街が見える。
嘆きの都フーリュネだ。
バイクはフーリュネには入らずドリフトして止まった。
バイクに乗っているのは30代半ばの男。
「これは……」
草花の道が続いていた。
おそらくはフーリュネから来たものだろう。
夜の砂漠では視界が悪い。
確かめづらい。
だが男は腐敗の粘液を見逃さなかった。
急いでモービルを吹かす。
甲高いブザーのような音が響く。
草花の道を辿っていった。
*
初めて一晩じゅう歩き続けた。
あの人のジャケットがあって助かった。
夜の砂漠が寒いことを知った。
夜が明けると日が照り出した。
いまは暑い。
ジャケットも着てられない。
水が欲しい。
何か音が聞こえた気がした。
ぼくは振り返った。
遠くから何か来る。
「バイク……?」
でもタイヤがない。
浮いてる?
「止まれ、そこの罹患者!」
目の前までバイクが来た。
座席から男が飛びあがった。
男は体操選手みたいに宙をくるくる回る。
手に剣が見えた。
何かはわからないがマズい。
そう察知してあの人に貰った剣を抜いた。
着地したそばから男が剣を振ってきた。
使い慣れない剣をぼくも振った。
「その手、やはり腐敗病か」
「違っ」
「大人しくフーリュネへ引き返せ」
「だから違っ」
聞く耳を持たない。
男はフェンシングみたいに剣を振った。
ぼくの剣が弾かれる。
砂に突き刺さった。
「観念しろ」
男が剣先をぼくの顔へ突き付ける前に──。
「“【
腐敗の粘液が手にコーティングされる。
手で剣を払った。
男の右腕を掴んでやった。
──あれ?
眩暈がした。
急に意識が遠のく。
*
溺れそうになって目が覚めた。
顔と首に水がかかった。
ぼくは咽た。
「答えろ」
男の声がした。
顔の水気を腕で拭う。
辺りを確認する。
まだ砂漠だった。
「どうして
「じゃこう?」
喉元に細い剣先が突きつけられている。
「これはかつて、女王フーリュネが募集して集まった『女王の料理人』──シェフたちに下賜した記念剣。それも最初期のメンバーにしか与えられなかったレアものだ。剣全体が特殊な銀で出来ている。腐敗に触れても錆びつかない。そんな物をどうしておまえのような子供が持ってる?」
剣先が強く喉を押す。
「刃の表面に“蛇公”の刻印がある」
「貰ったんです」
「貰った?」
「旧市街で会った。一戦交えて、偶々ぼくが勝って」
「彼女に勝った?……その手、腐敗してるのか」
「してません」
「だがその血のような赤は……」
「粘液が出てるだけです。感染してません。その剣をくれた人にも言われました、感染してないって。してたら動けるわけないって」
「確かに……あれに触れると体が動かなくなる」
「ぼく、この液体を手から出せるんです、ほら」
ぼくの手を包み込む赤みがかったオレンジ色の粘液。
「おまえ、まさか腐敗を生成できるのか?」
「そうらしいです」
「罹患者じゃない?」
「人間ですよ!」
ぼくは語気を強めた。
「おまえ、名前は? おれはウィケット」
「千鶴です」
「チヅル? 変わった名前だな。まあいい」
「あれ、あなたの腕……」
思い出した。
さっき気を失う前、この人の右腕をぼくは掴んだ。
腐敗の手で。
「ああ、これか」
ガチョン──。
機械音がした。
するとウィケットさんの右肩から先が外れた。
「くそ、さっきの腐敗でやられたか」
「義手……?」
「なあ、おれの仕事を手伝わないか?」
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