3本目「バトン」

 人間の1番優れた能力は?真っ先に思いつくのが「知力」。またはそこから付随する「科学力」。少し人類史を知っているのであれば「適応力」や「組織力」といった言葉も上がる場合もあるかと。どれも正解のように見えますね。

誰か:私もそれでいいと思うのですが、どうしても腑に落ちない部分はあります。ズレているわけではないのです。なんとなくな違和感。人間の特殊な要素である感情が感じられないとでも言いましょうか・・・結果から申しますと、この違和感は現在もわかりません。多分一生、いえ、なんなら人間では辿り着けない不可能なモノなのかもしれません。元来、人は矛盾した生き物ですから、仕方のない事なのかもしれませんね。ただ、原因がわからずとも、最初の問いに私は確固たる自分自身の回答は持ち合わせています。人間の1番優れた能力は「共感」だと。

誰か:「共感ができるからなにができるんだ?」と思う方も居るでしょうし、それは能力なのか?感情で一括りでは?と言う反論もあるでしょう。しかし、なんとまぁ、物書きの戯言に科学的知見をぶつけるのも無粋だとは思いませんか?


 大昔、人類は何種類か居たそうです。それもいつの間にか我々ホモサピエンスだけになってしまいました。まぁ他種族を絶滅に追い込んだのは我々の祖先なのですが。

誰か:それが成し遂げられた原因は諸説ありとなっています。よく言われるのが組織的に戦った、集団戦が得意だったなどです。では、何故別々の意識を持った生物が徒党を組み計画的に戦えたのか。答えは簡単で全員が共通の敵か信念があったからです。コレが共感の力です。一説にはホモサピエンスは地球で初めて、言語を介した嘘を学んだ種だと言う人も居るみたいで、皮肉ですね。忌み嫌う「嘘」に我々は助けられてきたと言うのですから。


 俯瞰した位置からこんな事を言っていますが、私も嘘つきの一員なのです。何故ならばフィクションである物語を紡いで、公開しているのですから、ある種、詐欺師なのかもしれませんね。

誰か:実は、私がこうなったのは偶然で、昔々に実在した有名な詐欺師が書いた文章の熱量に当てられ、更には心躍らされてしまったのですから、それはもうしょうがないのです。しかし、あの日、あの本を、手に取った事を、後悔した日は一度たりともありません。きっと、もう一度あの瞬間に戻れるとしても、迷わず手に取り、私は読み耽るでしょう。そう断言できます。それ程までにあの日受け取ったバトンは私にとって大事なモノなのです。

 いや、受け取っただなんて傲慢ですね。私が勝手に引き継いだだけですね。しかし、まぁこのバトンが随分と年代モノでして、前任者もかなり大事に握りしめていたのでしょうが、その前も相当な継承者が居たようです。重みが違います。私もこのバトンは次に引き継がねばならないと日々苦心をしておりますが、なかなか上手くいかない事が多く、悩ましい日々を歩いてます。

 この熱量に当てられるような人間はそうそう居ません。下手をすれば、身を滅ぼしかねませんからね。皆避けるのも、道理です。大事な一度きりの人生、迷わず棒に振ったり、捨てたりできるような狂人は、珍しい方が良いのです。

 ただ、私は偶然にも、このバトンを引き継げるのなら、人生の一つや二つ、棒に振ったって構わないと思えてしまったのです。隣をついてきて心配してくれる人々には申し訳ないのですが、私はあまり私自身に頓着しなくなってしまったのです。そんな余裕はもう有りませんので。

 少し長くなってしまいましたね。長々と話しましたが、大事な事はそんなに多くないのです。人間の1番優れた能力は「共感」だと思います。正確には「共感させる力」です。

 私の文章で共感したそこのアナタ。そう、アナタです。如何ですか?種火は十分そうですか?このバトンを丸ごと渡すには、私自身がまだ力不足ですので、少し待っていてください。まだ、このバトンを抱えさせてください。

 そして、同時に、アナタもすぐ受け取れるよう準備をしていてください。その時というのは案外突然来ます。予告などありませんし、予兆もありません。構えてる暇なんてありません。そして取り逃がしたが最後です。もう戻ってきません。それに、今バトンを持っているのが私なのですから、よりタチが悪いかもしれませんね。もしかしら、このあとすぐに、受け取る事になる人も居るかもしれませんね。それは、アナタ達次第です。

 

 期待しています。バトンを引き継いだ人間が苦しみながらも、何かしらの答えを見つける事を。私は少し疲れたので、この辺りで失礼致します。またお会いしましょう。再開を願って、さよなら。

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