第8話 断章:ロキシス
俺、ロキシスはエリードの盗賊ギルド所属だ。盗賊ギルドは基本的に四つの部門で構成されている。「窃盗部門」「暗殺部門」「諜報部門」「冒険者部門」だ。俺が所属しているのは諜報部門。ギルドに入る依頼を受け、調査活動や、工作活動を行う部門だ。
古くから根付いている貴族制度のもと、社会が腐臭を放っているこのエリードでは、諜報部門の依頼が他の都市と比べても充実している。
自分の両親のことは実はほとんど知らない。物心ついた時には諜報部門の施設で訓練を受けていて、子供の方が都合がいい工作活動などに従事していた。自分の正確な年齢も知らんが、おそらく20歳前後じゃねぇかと思うから、工作員としては結構なベテランと言っていいし、腕にも自信がある。
ガキの頃からこんな仕事に従事していると、性格が歪んじまいそうだが、俺には心の支えがあった。それは、ギルド内ギルド「背徳の欠片」。女性用の下着を収集する紳士のための地下組織だ。窃盗部門や諜報部門のメンバーがその技術を互いに伝授し、メンバーの戦利品について不定期で品評会も開催されている。生活感の残滓を残した芸術品を鑑賞し、パンティというピースを起点として、持ち主のドラマに思いをはせる高尚なひと時だ。当然、構成員の身分は公には極秘事項であり、万が一の事を想定して互いのことはコードネームで呼んでいる。ちなみに俺のコードネームは「フクロウ」だ。
ある時、背徳の欠片の存在の根幹を揺るがす事件が起こった。パンティの持ち主に懸想してしまったコードネーム「イタチ」が、持ち主の女性に告白し交際を始めたのだ。信じられない裏切りである。女性はあくまでパンティの存在を意味論的に構成する重要な要素にすぎない。女性にフォーカスを当ててしまえば、もはやパンティはただの下着でしかなくなる。そうなれば、俺たちは女性の下着に執着するただの変質者だ。それは俺たちの価値観や存在を根底から覆す信仰への冒涜だ。裏切者へは制裁を。俺は制裁担当として、イタチに神の裁きを与えなくちゃならない。俺は変装してデートの待ち合わせをしているイタチに近づき、ヤツのハンカチを、対象女性のパンティと差し替えた。
季節は夏。汗を拭こうとしたイタチは女性の目の前で、ポケットからパンティを取出して顔をぬぐった。
「え?なんでなくしたはずのパンティをあなたが持ってて、しかも顔拭いてるの?」
二人は秒で破局した。
くずれ落ちるイタチの横を俺は変装して通り過ぎ、ヤツの耳元でささやいた。
「裏切者には死を(社会的に)」
その後イタチの姿を見たものはいない。(この町にはいられなくなったから。)
そんな日々を過ごす中、俺はギルドから難易度Aクラス案件のエージェントに指名された。エリードが世界に誇る学術研究施設「アカデミア」の敷地内にある「暁鐘塔」での重要な実験について、内容を調査するという内容だ。公表されている情報ではないが、暁鐘塔はアカデミアにおいてもエリードの国家中枢が関わる研究が行われていることが多い施設である。当然、侵入難易度も、情報取得難易度も軍事施設並みに高くなっている。エリード盗賊ギルドにおいて、この任務を遂行できる腕前を持つのは俺だけだと言っていい。
俺は、十分な下調べをした上で、任務を開始した。
これは、後にサンクチュアリ(背徳の欠片本部コレクションルーム)に聖遺物(聖女のパンティ)をもたらした者としてその道に歴史を刻むことになる男の物語。
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