第26話
今夜は王宮でパーティーが開かれていた。
出席者は伯爵家以上の貴族が基本だが実家の爵位が伯爵家以上なら本人の爵位が子爵や男爵でもこのパーティーには参加できる。
リオン自身はレンゼル子爵位しか持ってないが元々の身分はランゼルク公爵家の次男なのでこのパーティーへの参加資格はある。
そして当然のごとくこのパーティーにはリーゼロッテ嬢も出席していた。
リーゼロッテ嬢は今夜も女性たちの中心にいて社交に精を出しているようだ。
すると僅かにリーゼロッテ嬢が女性たちから離れて移動をする。
その隙を狙ってリオンはリーゼロッテ嬢に声をかけた。
「ドルレア公爵令嬢、リーゼロッテ様。私はランゼルク公爵家のリオンと申します。どうか私とダンスを踊っていただけませんか?」
リオンはわざと自分の身分をランゼルク公爵家の者だと名乗る。
同じ公爵家の中でも上位と下位の家格は存在するがリオンの実家のランゼルク公爵家は公爵家の上位の家格だ。
そう名乗られてはリーゼロッテ嬢もリオンを無視はできない。
それを見越しての戦術だ。
「……ランゼルク公爵家のリオン様ですか。ええ、かまいませんわ」
「ありがとうございます。リーゼロッテ様。では御手を」
優雅に差し出したリオンの手にリーゼロッテ嬢は自分の手を重ねた。
リオンはダンスをしている者たちがいる場所までリーゼロッテ嬢を誘導してダンスを始める。
リオンもダンスは得意だが公爵令嬢のリーゼロッテ嬢のダンスも見事だ。
シャンデリアの輝く下で踊る二人の光輝く金髪と同じくエメラルドのように輝く緑の瞳は周囲の人間から注目される。
「まあ、なんてお美しい二人なのかしら」
「あれはランゼルク公爵家のリオン殿とドルレア公爵令嬢のリーゼロッテ嬢だな。まさかあの二人は婚約でもするのか?」
「それはないだろう。ランゼルク公爵家は王太子派だしドルレア公爵家は反王太子派だろ?」
「だからこそ婚姻で派閥抗争を回避するかもしれないし」
噂好きの貴族たちが好き勝手に憶測を語るがリオンは無視をしてリーゼロッテ嬢に踊りながら小声で話しかけた。
「噂好きの貴族が私たちがダンスをするのを見て騒ぎ始めましたね」
「……貴方の実家は王太子派ですものね。私との政略結婚を疑う者も多いでしょう。でも私の未来の夫は残念ながら貴方ではありませんわ」
「承知しております。貴女が誰の婚約者候補なのか。これでも王太子殿下の親衛隊をしておりますので」
「そうでしたわね。リオン様は王太子殿下の親衛隊の一人でもいらしたわね。分かっているなら今後は気安くダンスの申し込みはなさならないでくださいな」
二人とも巧みに踊りながら会話をする。
リーゼロッテ嬢もリオンとダンスをするのは仕方ないと思っても二人の仲を疑われるような噂が立つのは避けたいのだろう。
あくまでリーゼロッテ嬢が手に入れたいのは未来の王妃の座なのだからリオンと婚約する気などないのだ。
それはリオンも承知の上だ。このダンスはリーゼロッテ嬢を罠にかけるための一手目に過ぎない。
「分かりました。今後は気をつけますが貴女の未来の夫からの伝言を伝えるために私は今夜貴女をダンスに誘ったのです。だから大目に見ていただけると助かります」
「…? 未来の夫からの伝言ですか? いったいイザーク王太子殿下からはどんな伝言を?」
「それを話すのはダンスの最中にはできません。とても内密な話なのでこのダンスが終わった後に私と休憩室に行きませんか?」
「貴方と二人で休憩室に? ご冗談を」
嫁入り前の貴族令嬢が男性と密室にいるだけでも不貞を疑われるのが常識なのだからリーゼロッテ嬢の反発はリオンの予想範囲内だ。
「その休憩室には貴女の未来の夫が密かにお待ちです。それでも休憩室には行く気は起こりませんか?」
「イザーク王太子殿下が…? 分かったわ、休憩室に行くわ」
「では20分後に会場の右手にある扉から出た場所でお待ちしています」
そこでダンスの曲が終わり二人は一度離れる。
お互いに二人で休憩室に向かうことを他の者に悟られない為だ。
そして20分後会場の右手の扉からリオンは廊下に出る。
すると僅かな時間を置いてリーゼロッテ嬢も会場から廊下に出て来た。
「では休憩室にご案内します。リーゼロッテ様」
リオンが歩き出すとリーゼロッテ嬢は無言でリオンの後ろをついて行った。
会場に来ている貴族の為に用意された休憩室の一番奥の部屋にリオンはリーゼロッテ嬢を案内する。
「この部屋です。幾分、他の休憩室とは離れているので部屋の中で話をしても外には漏れませんのでご安心ください」
部屋の扉を開けるとリーゼロッテ嬢はそのまま部屋の中に入る。
リオンもその後に部屋に入り後ろ手で部屋の鍵をかけた。
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