第24話
「まさかルカが親衛隊を辞めるとは思いませんでしたね」
「そうか? ルカは情が深いところがあった男だから俺は不思議に思わないが」
溜め息交じりに呟いたジュリアンにアーロンは答えた。
親衛隊の人間は結婚することを禁じられている訳ではない。
だがイザークの政敵を倒す為に女性を利用する親衛隊は独身が好ましいとされている。
ルカは以前から結婚する時は親衛隊を辞めるつもりだと言っていたことはジュリアンもアーロンも知っていた。
「だからと言って標的にした女性と再婚しなくてもと思うんですけどね」
「標的の女だったからこそルカの心を射止めたのかもしれん。ルカは私たちの中では一番女性を大事にしていたからな。酷い扱いをされていた同族の女を放っておけなかったのだろう」
今度はリオンがジュリアンの言葉に答える。
ルカが抜けたイザークの親衛隊は三人になり今はイザークが国王と二人で会談をしているのでリオンたちはイザークの執務室で待機していた。
「ルカの代わりの男は今探しているところだ。心当たりはあるからイザーク様が認めれば近々新しい親衛隊のメンバーができるはずだ。それまでは三人でイザーク様を補佐しなければならない。気を抜くなよ、ジュリアン、アーロン」
「承知しました。リオン隊長」
ジュリアンもアーロンも頷く。
そこへ扉が荒々しく音を立てて開きイザークが部屋に戻って来た。
勢いよくソファに座るイザークの顔は不機嫌そのものだ。
リオンたちは姿勢を正しイザークの様子を見る。
国王に呼び出された時にイザークが不機嫌になる時の理由はだいたい決まっていた。
イザークの結婚に関することだ。
「イザーク様。陛下はどのようなご用件だったのですか?」
親衛隊を代表してリオンが口を開く。
「いつもと同じだ。私に結婚しろだとさ。しかも今回は具体的に相手を限定して婚約の話を持って来たんだ」
リオンは僅かに眉を顰めた。
今まで国王がイザークに結婚しろと言うことは珍しくなかったが具体的な相手を勧めてきたのは初めてだったはずだ。
イザークが不機嫌なのはその相手の令嬢が気に入らないからなのかもしれない。
「イザーク様。差し支えなければお相手のご令嬢が誰かお聞きしてよろしいですか?」
「……リーゼロッテ・ファン・ドルレア公爵令嬢だ」
「ドルレア公爵家の令嬢ですか」
予想外の令嬢の名前にリオンはイザークが不機嫌な理由を瞬時に理解した。
ドルレア公爵はイザークの政敵でも最大の政敵と言ってもいい。
現国王のいとこにも当たるドルレア公爵の言動は国内貴族にも影響が大きくそしてドルレア公爵はイザークを嫌っている。
それは以前ドルレア公爵が自分の甥を要職に就けようと画策した時にイザークに阻止されたからだ。それはもちろんドルレア公爵の権力を少しでも弱めたいというイザークの作戦だった。
「父上は私とドルレア公爵が対立しているのは国内情勢を不安定にさせると考えてドルレア公爵家と政略結婚しろと言ってきた」
「……お受けするのですか?」
「まさか! そんなことをすればドルレア公爵に天下を渡すようなものだ。私は誰の操り人形になる気はない。権力は自分が握ってこそ価値があるからな」
イザークを味方する貴族は多いがイザークはその貴族たちの力を利用しつつも己自身が権力を握っている。
それがイザークと他の王子たちとの決定的な違いだ。
「しかし、陛下からの具体的な縁談を断るにはそれ相応の理由が必要ではありませんか?」
「その通りだ。仮にも王太子の私が国王の父上に理由なく反抗することは好ましくない」
「では?」
リオンの問いかけにイザークはニヤリと笑う。
「相手のリーゼロッテ嬢に問題があればそれを理由に縁談を断れる。リオン、方法は任せるからリーゼロッテ嬢に問題を作れ」
「……承知致しました」
リオンは深々とイザークに頭を下げた。
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