第13話



 アーロンは使用人が着るような服装でメイソンの館にやってきた。

 メイソンの館はそれほど大きな館ではない。


 先祖代々の財産を受け継いだというよりはメイソン自身が騎士団長として築いた財産でこの館を購入したと事前の資料には書いてあった。

 館の裏口に回ると裏口の扉の鍵は開いていた。ロザリー夫人が約束通りに鍵を開けておいたのだろう。


 素早く裏口からアーロンは中に入り建物内に侵入する。

 廊下を歩いて他の使用人に会わないようにロザリー夫人を探した。


 すると部屋の一つの扉が開いて女性が出て来る。

 一瞬、身を潜めようかと思ったアーロンだったがすぐにその女性がロザリー夫人だと気付いた。


 普段着のドレスも赤を基調とした派手なドレスを着ている。

 ロザリー夫人もアーロンの存在に気付いたようでニンマリと笑みを浮かべた。



「そろそろ来ると思っていましたわ」


「メイソンはお出かけですか?」



 ロザリー夫人に近付きながらアーロンは尋ねる。

 時間的にはメイソンは騎士団に仕事に出かけているはずだが予定はいきなり変更することもありえるのでロザリー夫人に改めて確認したのだ。



「ええ。メイソンはいつも通りに騎士団に出かけているわ。それに使用人は少し遠くまで使いに出したの。しばらくは二人で楽しめるわよ」


「それは嬉しい配慮ですね。私もロザリー夫人とたっぷり楽しみたいですから」



 アーロンは口元に笑みを浮かべロザリー夫人の手を取り手の甲にキスをする。

 だがアーロンはロザリー夫人の言葉を鵜呑みにはしない。


 もしこの作戦がメイソンにバレていてアーロンがここで捕まり黒幕がイザーク王太子だと判明したらイザーク王太子の失脚に繋がりかねない。

 もちろん拷問を受けてもアーロンがイザーク王太子の名前を口に出すことはないが。

 それぐらいの覚悟がなければ王太子の親衛隊は務まらないのだ。



「さあ、寝室に行きましょう」


「ええ」



 ロザリー夫人は寝室へとアーロンを案内してくれる。

 寝室は広くベッドが二つ置いてあった。

 普通は夫婦の寝室だと二人で寝る大きなベッドが一つあるだけだがロザリー夫人とメイソンは寝室は同じでも違うベッドで寝てるようだ。



「メイソンと同じベッドで寝ないのですか? ロザリー夫人」


「だって、あの人騎士団の鍛錬とか言ってお風呂を使っても汗臭いんだもの。一緒のベッドなんか無理よ」



 ロザリー夫人は自分の夫のことを思い出したのか表情をしかめる。

 その様子から見てもロザリー夫人が夫のメイソンを心から嫌っているのが分かった。



「それならば私も身を清めてから貴女を抱いた方がいいかもですね。貴女に会いたくて急ぎ足で来たので汗を掻いてしまいましたから」



 もしかしたらロザリー夫人は体臭を気にする人間なのかと思いアーロンが提案するとロザリー夫人は笑みを深める。



「あら、貴方の匂いはとても爽やかな匂いよ。でも汗を流したいならそこの奥にお風呂があるわ。使ってもいいわよ」



 寝室には奥の方に扉がある。どうやらそこが洗面所やお風呂のようだ。

 アーロンはその扉を開けてみた。そこには予想外に大きなバスタブがあり大人が余裕で二人入ることができる。



「ロザリー夫人。このバスタブは大きいですね。二人で入っても余裕がありそうだ。メイソンと一緒に入るのですか?」


「とんでもない。私がお風呂好きだからバスタブでくつろげるように大きなバスタブを特注したのよ。メイソンにそこのお風呂は使わせないわ。あの人と同じお湯を使うなんて嫌よ」



 ロザリー夫人は不機嫌そうな顔を隠さない。

 余程、メイソンが嫌いなのだろう。



(やれやれ同じお風呂を使うことも許されないとはメイソンも気の毒に。だがこれを利用するか)



 若干、メイソンに憐れみを感じるがアーロンの目的はそのメイソンを失脚させることだ。

 憐れみなど感じていてはこの任務は遂行できない。



「それなら私と一緒にこのお風呂に入りませんか? ロザリー夫人」


「…え?」


「たまには場所を変えて愛し合うと気分が変わって楽しめますよ」



 アーロンは口元に笑みを浮かべてロザリー夫人の瞳を見つめる。

 夫とお風呂に入ったことのないロザリー夫人がお風呂場で性交をした経験がないと踏んでアーロンは誘いをかけたのだ。


 普段と違う場所での性交は女も興奮していつもより快楽を得ることが多い。

 その方が性交好きのロザリー夫人を早く快楽の海へ堕とせる。


 目を見開いて驚いた顔をしたロザリー夫人だったがすぐにその瞳に情欲の炎が宿った。



「そうね。お風呂場で愛し合うのもいいかもしれないわ。バスタブにはすぐにお湯が溜まるはずよ」


「ではすぐにお湯を溜めますね」



 蛇口を捻るとお湯がバスタブに溜まっていく。

 この国では最近になって水道設備が整い自宅で気軽にお風呂を楽しめるようになったばかりだ。


 それでも水道設備が完全に整備されているのは貴族宅が中心である。

 貧しい平民はまだ蛇口を捻ってお湯を使える生活水準にはない。


 贅沢品のお風呂の設備を整えるほどロザリー夫人がお風呂好きなのが分かる。

 おそらくメイソンに強請って作ってもらったのだろう。



「ではロザリー夫人のドレスを脱ぐお手伝いをさせていただきます」


「あら、ありがとう」



 アーロンはロザリー夫人の手に恭しくキスをした後、ロザリー夫人のドレスを脱がせ始めた。



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