第11話
アーロンはメイソンとロザリー夫人の様子を距離を置いて伺う。
ロザリー夫人がメイソンと一緒にいてはアーロンも迂闊に近付けない。
メイソンはアーロンがイザークの親衛隊であることは知っているはずなので不用意にロザリー夫人に近付けば警戒されるだけだろう。
ここはロザリー夫人がメイソンから離れる機会を狙うしかない。
パーティーでは男性同士の付き合いや女性同士の付き合いもあるので必ずしもパーティーの間ずっと夫婦が一緒に行動するとは限らないのだ。
(ロザリー夫人に隙ができるまで少しロザリー夫人の情報を集めるか)
このパーティーには軍部の人間を中心に大勢の者が参加している。
その中にアーロンは見知った男性を見つけたので声をかけた。
「セラスト。お前もこのパーティーに参加していたのか」
「おお、アーロンじゃないか。今夜は一人か? 親衛隊の仕事以外のパーティーでお前がパーティーに参加するなんて珍しいな」
声をかけられたセラストはアーロンに笑顔を向ける。
アーロンとセラストは同じ年齢で子供の時に同じ剣の師匠から剣術を習っていた仲だ。アーロンにとっては幼馴染に近い。
セラストは現在王国軍の騎士をしていて時々アーロンにも王国軍内で何が起こっているのか情報提供をしてくれる人物だ。
セラスト自身はメイソン派でもハワード派でもない。
自分は出世する気はないから上官のご機嫌取りをしなくていいから気楽なものさといつも人に話している。
しかしセラストも剣術の腕前と兵士からの信頼の厚さを考慮されて王都警備の中隊長を任されているので王国軍の幹部の一人だ。
軍部の情報を教えてくれるのはアーロンの友人として親衛隊で働くアーロンを応援したいという気持ちかららしい。
アーロンにはセラストのような友人が王国軍内に多いので親衛隊の中では一番軍部の情報を手にしやすい立場だった。
(セラストならロザリー夫人のことを知っているかもしれないな)
仮にも上官の奥方のことをセラストが全く知らないということはないだろう。
「今夜は俺は父のカリオス伯爵の名代としての参加だ」
「へえ、それじゃあ、近々『何か』が起こるのかな」
アーロンが実父のカリオス伯爵の名前を使う場合は隠密の仕事中だとセラストは知っているのでニヤリと笑う。
対するアーロンはその言葉に反応する訳でもなく「氷の貴公子」らしく無表情のまま小声でセラストに尋ねた。
「悪いが情報が欲しい。メイソン騎士団長の奥方のロザリー夫人はどんな人物か知っているか?」
「ロザリー夫人? ああ、あの女は『最悪』だな。現第二将軍の姪に当たるんだがプライドが高くて結婚前から男を見下すような女だったな。結婚後も王国軍の若い騎士を誘惑してはつまみ食いしていると密かに噂されている」
「なるほどな。そうすると夫婦仲はあまり良さそうではないな」
「まあな。だがメイソン騎士団長にとっては上官の身内だからな。メイソン騎士団長が我慢するしかないんだろうな」
(なるほど。元々、尻軽女なら誘いやすいが……。ロザリー夫人が権力争いのことをどこまで知っているか探りを入れるか)
メイソンからアーロンたちイザーク派に気をつけろと注意を受けている可能性もある。
すると目の端で見ていたロザリー夫人がメイソンから離れたことに気付く。
メイソンは数人の他の男性と話しているので仕事関係の話のためロザリー夫人を遠ざけたのかもしれない。
「ありがとう、セラスト。今度また酒でも飲もう」
「ああ。アーロンもお疲れさん」
アーロンはセラストに礼を言ってロザリー夫人の後を追う。
ロザリー夫人はパーティー会場の端にあるテーブルに飲み物を取りに行ったようだ。
するとロザリー夫人はテーブルの側にいたまだ10代後半と見られる若い男性に何やら声をかけている。
声をかけられた男性はどこか怯えたような表情だ。しかしロザリー夫人はその男性の腕を掴みパーティー会場からバルコニーにその男性と出て行ってしまった。
アーロンはその二人に気付かれないようにバルコニーに出る。
ロザリー夫人はさらにその男性とバルコニーから階段を降り中庭の方に歩いて行く。
尾行は得意なのでアーロンは気配を消してその後を追う。
中庭には休憩しながら花を観賞できるように東屋がいくつかあるようだ。
ロザリー夫人はその東屋の一つにその男性と入った。
(まさか夫と一緒に参加のパーティーで堂々と逢引きか?)
そっとアーロンが東屋に近付き中を覗く。
「またあの夜のように私を愛しなさいな」
東屋の中で命令口調でそう男性に告げてロザリー夫人は椅子に腰をかけた。
若い男性は椅子に座るロザリー夫人の足元にひれ伏して言葉を発する。
「ど、どうか、お許しください! メイソン騎士団長に殺されてしまいます!」
必死になって訴える男性にロザリー夫人は余裕のある態度でニンマリと笑みを浮かべる。
「あら、大丈夫よ。メイソンが私に逆らうことはないもの。貴方は私を愛すればいいのよ」
「し、しかし……」
男性の方は完全に及び腰になっている。
(この二人は恋人ではなさそうだな。どちらかというとロザリー夫人が関係を強要しているのか。夫とパーティーに出席して他の男と中庭で関係を持つとはセラストの言ってた通りとんでもない女だな。さて、どうやって堕とすか)
アーロンは二人の様子を観察しながらロザリー夫人の攻略方法を考え始めた。
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