31日目 害虫
「優、学校はどうよ?」
「可愛い女の子ばかりで天国だぞ?おっぱいもデカイ子多いしな、留学生何て金髪でボインボインですげーぞ」
「まじかよ!!」
「そんな訳ねーよ。貴族の人が居るし女子校だったから、綺麗な人や可愛い人も居るけどさ。どこも同じだよ、居ても俺らなんか相手にされないただの学校のマドンナだよ。俺らが話が出来る女子なんて、普通の子だけでここと大差無いって」
「まぁそうか、そうかもな」
「それよか、お前はどうなんだよ」
中学の友達の所に行っても、親戚の家に行っても、床屋や買い物に行っても、この話をさせられるので、いい加減に疲れていたので、最初の数回はそれなりに答えていたが、すぐに面倒になり適当な事を言って話題を終わらせていた
「優、玄さんの所の林檎が病気になったらしくてな。ちょっと行って見てやってくれ」(津軽弁)
「それじゃ夕方にでも散歩がてら見て来るよ」
夏休みだから基本ダラダラと過ごしている優ではあったが、時々イノシシが出たと言われ呼び出され、熊が出たと言われて呼び出され、近所の林檎の木が病気に、稲の生長がと辰雄に言われて、それを散歩がてらコッソリと対処していた。辰雄は色々と優の事情を知っていたので、優に頼みはするが優を目立たせる事まではしなかった
「はぁ、また害虫が増えて来たな」
散歩に向かいながら、遠くから双眼鏡で覗いている者、魔法を用いて監視してる者などの気配にウンザリしながら歩いていた。
優の監視の歴史は小学校入学時にある魔力測定時に測定具を破壊した所から始まる。ただ、この時頃は優は派手な魔法を使う事は無く、精々蚊や蜂などを魔法で撃ち落として遊んでいたくらいな物だった。その為、すぐに人がついて監視をという体制は解かれ、翌年には監視対象者リストからは外された。
次に監視リストに名前が載ったのは、高校受験時に魔法科を選んだ為であった。合否等の監視から再度開始される事となる。入試時には優秀ではあるが、飛びぬけて優秀と言う事は無く、入学後も平凡な魔力量だったが、ユリアや九条と親しい関係となった事、射撃場にゆきと二人で通い詰めていた事もあり、緩いながらも人を使った監視が始まった。
そして、夏合宿時、前夜優と密会したユリアの魔力量が大幅に増加した事が確認され。その報告が学校関係者に紛れ込んでいるスパイや留学生等から上へと報告され、この夏休みの強烈な監視体制と変化していた。とは言え、拉致してどうこうしようなんて行動までは無いのだが、いや出来なかったが正解かも知れない。
別に現地まで行って見る必要は無かったが、散歩をして体を動かす事が目的となっていたので、優は散歩のルートを考え修正をしながら歩いていた
(面倒だけど、あそこまで歩いて帰るか)
ガラガラ
「いらっしゃい」(津軽弁)
「おばちゃん、僕はラムネで、あとすぐに東京おじさん達が来るから、そっちにはビール出してあげて、お金置いとくね。じゃ、僕ちょっとトイレトイレっと」
優は酒屋のカウンターにお金を置いてトイレへと駆け込んだ。
ガラガラ
「暑いですねぇ~」
「本当に暑いですねぇ」(津軽弁)
地元の人以外はまず来ない事もあり、優が言ってた人だと理解したおばあさんは、冷蔵庫から冷えたビールの瓶と、コップを2個、そして栓抜きを盆にのせだした
「いやぁ、ここらは林檎が本当に凄いですねぇ」
優が見当たらないので裏口などが無いかと、商品を見ふりや世間話をし誤魔化す男達
「そうですね、私の若い頃は少なかったけど最近は何処見ても林檎畑になってしまって、はいビールどうぞ」(津軽弁)
世間話に付き合いながらビールを二人の前に置くお婆さん
「いや、私達は頼んでませんけど」
「三木とこの子が、東京のおじさんがすぐに来るから、ビールだしてやってと言ってたけど、あなた達じゃなかったの?」(津軽弁)
「いえ」
ガチャ
「うりゃ」
優はカウンターの上のラムネを開けた
「おじさん達、暑くて大変でしょ?それ飲んで早く東京に戻った方がいいですよ?」
グビグビとラムネを喉に流し込み、優はド田舎の酒屋には似合わないスーツ姿のサラリーマンに化けている2人に言った
「おい、この餓鬼っ」
若い方の男が思わず本音を出し動こうとした
「おいっ、帰るぞ」
上官だか上司だろうか、もう一人がとっさに止めた
「ビール飲んで行かないの?」
「いや、まだ仕事が残っているもんでね。また今度飲ませて貰うよ」
「今度は無いから、ごゆっくりとどうぞ」
優は残りのラムネを飲み干すと、1人先に店を出た。
「あんな餓鬼に馬鹿にされて悔しく無いんですか!」
「馬鹿野郎!人目がある所で、この馬鹿が」
「スイマセン」
「それにしても、なんなんだよアイツは」
「ただのクソガキでしょ?魔力量だって全然ぱっとしないし、俺の方が全然強いですよ」
「そう言う事を言ってるんじゃねぇ。お前、それだけ魔力量があって監視つけられた事なんてあるか?」
「無いっす。あっでも軍大からスカウトは来ましたよ?」
「魔力量があって軍大のエリートコースにのってるお前の所に、貴族の娘が群がって来たか?」
「あっいや、平民の女なら両手で足りないくらいは・・・」
「見た目も女みてーで、魔力量も大した事が無い。まぁただの餓鬼だ。それに軍や外国までがこうやって振り回されてるんだ。何かがあるんだよ、だから焦らずに一歩一歩慎重に詰めていくしか無いんだよ」
「そんな事しなくても、ひっ捕まえてちょっと搾り上げてやりゃ、餓鬼なんぞはすぐに吐きますよ。見てて下さいよ」
「おいっ」
「そんなにチンタラしってから出世できねぇーんだよ。オッサン」
若い男は1人で優を追った。
「おい待て」
上司らしき男もまた若い男を追った
「おいっ餓鬼」
周囲からは木々があり見えない場所で、男は優に追い付いた。いや、むしろ優が待っていたの方が正解だろうか?
「なんだこれは!!」
泡を吹き道で藻掻き苦しんでいる若い男の姿がそこにあった
「人が優しくビールまで出して警告してあげたのに」
「おい、待ておい」
「ほんと、害虫処理は嫌いなんだよ。面倒臭い」
その場を歩いて去る優
その日の夕方、村の罠に1頭の熊がかかり。さらに、その近くの林の中から男二人とみられる遺体が発見されたが、2人の男が諜報員だったからだろうか、碌な捜査もされず観光客が森へ迷い込み熊に襲われた事故として報じられただけだった。
他にもこの夏は世界各地で不審死、大物の病気、事故、政府関連組織の火災等が相次いだ。そのすべてが優へとつながる物だったが、証拠は一切無くさらには諜報機関が返り討ちにあってるだけなので、表立って何かをする事も出来ず、春頃までの緩い監視まで各機関は手を引き、次なる手を考える事となった。
勿論中断後の会議の中で家族や恋人などから崩して行きましょうなんて考えたり発言した者も居たのだが、その者達は本気度や立場により事故死から突然の腹痛まで、様々な現象に襲われ会議にのぼる事は無くなったようだ。
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