9日目 実力差

「降りたらすぐにバスで移動する。忘れ物をするな!」

「はい」


「やーっと着いたでぇ」

 やっと担任から解放されたと思い体を目一杯伸ばす大輔

「あっつーー、ここ何処だよ?」

 春の気持ちいい気候の岡山と違い、30度を軽く超えるまさに南国であった。

「ほんと日差しが刺さりますね」

 この日は遠足だと思っていたからか、着物では無くパンツルックな池田は手で日差しを遮りながら言っていた。


「はい、これあなたのお弁当とお茶」

「ありがと」

 優は今になってやっとお弁当を受け取り、自分の布袋へ入れていた。


 冷房の無いバス車内は灼熱だったが、動き出せばそれなりに風が入り我慢出来る暑さとなった。


「これからお前らの魔法の実力を確認させて貰う。着いたらすぐに運動が出来る服装に着替え、演習場に集合するように」

「はい」


「ねぇ、演習場って?」

「さあ、飛行船も軍の物でしたし、軍隊の演習所かしら?」

「どんな場所なんだろうね?」

 皆、行った事の無い演習所に興味津々なようだった。


 白いコンクリート作りの建物の前にバスは止まり。演習所はそんなには遠く離れては居なかった。


「よしっ、降りろ。トイレは終わらせておけよ。あと、各自お茶か水を持って来るように、解散」

「はい」


「ほな、さっさと着替えて行こやないか」

 大輔は飛行船を降りてからは、担任から解放されて何時もの調子を取り戻していた

「そうだな」

 

「暑いぃ~」

 弘前育ちの優はつい先日まで雪が降る場所で過ごして居た事もあり、この暑さは相当堪えてたようだ

「優、おま、暑いじゃないやろ!あないな、ごっつうええ時間過ごしやがって」

 大輔は拳をプルプルさせながら言っていた

「大輔お前っ!」

 喧嘩が始まると思い焦る豊夫

「糞羨ましいったらないでぇ~ほんまぁ」

 大輔は泣いた


「おい、泣いてる場合じゃねーぞ。早く着替えて行かないと」

 豊夫は二人に急ぐように言っていた。

「せやな」

「おう」

 力無い返事の二人だったが、重い足取りながら更衣室へと入った


「うわぁ」✖3

 3人が発した言葉は同じだった。


「クッサー、アッツー、何じゃココはぁーーー」

 大輔は大きな声で愚痴りながら窓へと走り、窓を開けた

「風吹いて無いやんけ」

 そこに風は無く。あるのは、湿度をたっぷり含んだ蒸し暑い空気だけだった


「クッソーーー」

 文句を言いながら着替える大輔、何も言わず1秒でも早く着替えを済まそうとする二人


「はあはぁはぁ、大輔の便所の後よりはましだったが、何だよあれは」

 着替え終わり廊下へと避難した優は、ここでやっと目も覚め愚痴った

「ほんと、真夏の柔道部の部室を思い出したぜ」

 豊夫も呼吸を相当我慢して着替えたのか、ぜぇぜぇと息を切らしながら言っていた

「なんや、お前らのんびりしとる場合じゃ無いで、便所済ませとかんとな」

 いつの間にか半馬身リードでトイレに向かう大輔


「あっ、ちょっと待てぇー」✖2

 二人の追い脚虚しく、バタンとドアが閉まる音が

「あの野郎」

「くっそー」

「俺は小便だし、息を止めれば何とか」

「俺も、いっ、行くぞ」

「おう」


 二人は気合を入れて中へと入り、小便を始めたのだが


 ぷ~う、ぷっ、ぷり、ブッ、ブリブリ、ぼふっ


「プッ」✖2

 二人は大輔が変な音を出しながら糞をしてたので、思わず吹き出してしまった


「あっ」✖2


「ううううう」

「んんんんん」

 鼻をつまみ口を閉じ、股間に向かって「早く終われ、早く終われ」と言い、急ぐ二人


「(終わった)」

 声にはなって居なかったが、先に終えたのは豊夫だった。その様子を隣で見て、焦りが増す優


「(やばい、限界がぁああ。あっ止まった。急げぇ~~~~)」

 優は息子をしまいつつ、大急ぎで転がるように便所から出てトイレの戸を閉じた


「ヤバかったな」

 トイレを出た場所の廊下に手を洗う洗面所があったので、そこで手を洗いながら豊夫は言って、そしてうがいをし顔を洗っていた

「ゲホッゲホッ、ゼェゼェ、ほんと、ゲホッ、やばかった」

 優は息が整わないうちから、急いで手を洗いうがいをして、見事にむせた。

「あいつ置いといて、さっさとお茶貰って行こうぜ」

「そうだな」

 二人は便所に籠ってる大輔を置いて先に行った




「いやぁ~スッキリ、スッキリてなもんや、おまっとさん」

 皆より数分遅れで、一番最後に暢気に大輔はやって来た

「最後の奴がずいぶん気分良さそうにしてるじゃねーか」

 担任の背中に般若が見えたとは後日のある生徒の談話である


「特別にお前が一番最初にしてやろう」

 何か罰を決めたのか、担任は大輔を最初の人に指名をした

「なんや特別扱いかいなぁ。かなわんなぁ」

 何故かデレデレしながら、歩み出る大輔


「えーっとお前は身体強化の魔法が得意なのか」

 担任はペラペラとファイルをめくり大輔のデータを確認していた

「せやで、センセワイ、こう見えても結構強いで」

 大輔は女の子の前と言う事もあるのか、自信満々に言った


「それじゃ、私が合図をしたら、そこの人形を魔力を混めて全力で1発殴れ」

 担任は標的(黒いサンドバッグのような物)を指さしていた

「なんや、1発だけかいな」

 人形の前へと歩み寄る大輔


「用意は大丈夫ですか?」

 担任はテントの下に居る軍人や研究者のような者達へと確認の声を出し、OKと返事を貰った


「よしっ、やってみろ」

「へいへいっと、ワイの凄さ見せたるかいな。おりゃあああああああ」


 大輔が魔力を高めて行くとオレンジ色の光が大輔から立ち上って行った。これは、魔法を使う前に魔力を高めている時に見られる現象で光塔と呼ばれる、強い魔法を使う時ほど光は高く、太く、色が濃くなっていく。それを計測して数値化し、200~500なら銃級、500~1000なら大砲級、1000~5000なら駆逐艦級などのクラスに分類される。この時代は魔法使いの数はかなり少なくなっており、数の減少にともない平均レベルも大きく下がっていた。高1なら200もあれば、普通の軍や警察の学校に試験無しで入れるレベルで、このレベルでも普通のクラスで1人程度だった


「岡崎くん凄くない?」

 光塔を見てざわつく女生徒達


「うりゃああああああああああああああ」

 大輔は全力で殴った


 土埃が舞い上がり強力な一撃であったようだ。が、流石は軍隊が使う標的だってあってか、特にダメージは無かった


「980か、まぁ平均の5倍で自称なら駆逐艦級ってところか」

 年齢の割には優秀だがと言った感じで、担任は特に驚く様子はなかった。


「980ですって」

「えぇー、わたし試験の時800くらいだったよ」

 出席番号3番と言うだけの事はあると言った感じだろうか、出席番号が2桁組からは優秀な子であると見られていた


「もういいぞ。あっ、お前は他の子の計測が終わるまで、そこの便所を掃除しとけ」

 担任はどう考えても臭いだろうと思えるボロボロの便所を指差し言っていた。トイレを済ませとけとは、授業中に便所に行くなと言う意味では無くて、近くの便所は臭いから使えないぞと言った担任なりの優しさだったようだ


「えっ?」

「えっじゃない。さっさと行って来い!副担任の先生に後で確認して貰うからな!!」

 男子便所と女子便所に別れてるのかも怪しい感じではあるが、他人は女性だからだろうか、男性の副担任を指名していた。


「えっ、私ですか?」

 なお副担任はテントの下で、生徒の数値などをメモしながら青ざめていた。


「綺麗にして来いよぉ」

 豊夫は便所掃除に向かう大輔の肩を叩きながら言った

「うっさいわ」

 大輔はトボトボと便所へと向かった


「次からは、出席番号順で良いか。1番、犀川(さいかわ)純(じゅん)。氷か、そうだな、あそこの標的に撃ってくれ」

 1kmほど先だろうか?そこに十字が書かれてた何かが置いてあり、それを担任は指差した


「はい」


「はぁあああああ」

 白い指揮棒のような物を手に、魔力を高めて行く犀川


「えっ、さっきの岡崎さんより、凄いわ」

「ここまで冷気が来てますわ」

 光柱と共に、犀川が氷魔法を使う為か周囲の気温が下がってるらしく、一帯は涼しくと言うか肌寒さを感じる状態になっていた


「やあ!!」

 犀川が白い棒を標的めがけて振り下ろすと、ドラム缶ほどの大きさの氷柱がすごいスピードで飛んで行き、標的付近に着弾し大きな土埃が上がり、着弾時の衝撃波と音が皆の所に届き、あまりの凄さに皆は言葉を失くした


「1280」

 テントの方から計測結果が告げられた


「私の倍以上あるよ」

 山水は出席番号19番だけあってか、数値が低いらしく大きな差に腰がひけていた


「次は白浜 涼音(すずね)。火か、それではさっきの犀川の隣のを狙ってくれ」

「はい」


「白浜さんも凄いわ」

「えぇ、あんなにお綺麗な上に魔法までぇ、憧れるわぁ」

 春に岡山に来てすぐスカウトされて、雑誌モデルとなっただけはあってかモガ系などのお洒落が好きな女性達の憧れの的となっていた


「1150」


「やっぱり凄いですわー」

 パチパチパチ


「ありがとう」

 クールな見た目で褒めてくれた女生徒に応える白浜

「凄かったです!」

 豊夫も声をかけたが、白浜はスルーをし通り過ぎて行った。無視され凹む豊夫だったが、彼女は単純に男が苦手なだけだった。


「よし、4番の」

 担任は早く終えたいのか、テンポ良く次の者を呼ぼうしたその時だった


 ドッカーン、ゴオオオオオオオオ


 物凄い衝撃波と轟音が演習場に鳴り響いた。


「えっ、なに?」

 山水が驚きの声をあげた

「えっと、犀川さんや白浜さんのより全然・・・3000とかもっとあるのかしら?」

 驚きながら約3倍の数値を予想する池田


「あれは、1組か。留学生か、いや火魔法の留学生ならもっと・・・」

 担任は1組の資料を見て誰が放った物かを考えていた


 シュン ゴオオオオオオ


 シュンと刃物が空気を切り裂くような軽い音がしたかと思うと、ゴオオと凄い音がまたしていた。


「次は風か、先ほどまでを思うと、こいつが那音って奴か、入ったばかりでこれか、しかもどうやら本気では無さそうだな」

 自分のクラスの方を放置しと言うか、2組の生徒があまりの差にドン引きし見入ってしまっていたので、1組終了後に一息入れてから再開を予定したらしい


 その後は、先ほどとほぼ同程度の風魔法が、そして、大きく一段階強い火魔法、さらに同程度火魔法、そして、そこからさに1段階威力が強まった火魔法が放たれ。5㌔ほど先にある丘は地表が溶けてしまってるのか、赤い色に変化していた



「寒っ」

 最後の一人が青白い光柱を光らせ始めた時、遠く離れてる場所に居る2組の生徒達が思わず声を出していた。

「なんだよあれ」

 驚きの声を上げる豊夫

「えっ、さっきの倍はあるわよ」

「噓でしょ」

 他の女性ともあまりの凄さに声を上げていた


 そして、その魔法が放たれると、大地は凍り付き。赤くなっていた丘はと言えば、赤くなった場所は勿論、その周辺も大きくえぐられ、丘が広範囲にわたり真っ白に氷ついていた


「あれが噂のロシアの氷の妖精か、15000いや20000は超えてそうだな。あんなの相手じゃ純粋な魔法勝負や戦闘をしても勝てないな。正面から戦うなら艦隊の1つや2つくらいは欲しくなりそうだ」

 流石の担任も驚きの色を隠せていなかった。


「おい、何も無かった所はともかく、さっき赤く染まってた丘まで凍り付いてるぞ」

 豊夫は幽霊でも見たかのような感じで、腰を半分抜かし丘を指差し言っていた

「そうだね。ってか寒いね」

 優は全然驚きはせず、寒さをきにしていた


「ははは、世界は広いな。あそこまでは無理だろうが、卒業までに数倍、中には10倍近く数値を延ばす者も出てくるはずだ。事実、陸軍や海軍の学校ではそのような事例も見られる。もちろん全員が全員2倍3倍となれはしないし、10倍なんてのは歴史上の記録のような物だがな。さあ、続きをするぞ」

「はい」

 担任が多少なりとも希望を与え、2組の計測は再会されて、寒いから早く終えたいのかペースが上がり進行していった


「18番浜崎、ん?お前は、そうだな。犀川ちょっと来い。浜崎がお前に補助魔法を使った後に、全力でさっきと同じように全力のを放ってくれ」

「はい」


「それじゃ、よろしく」

「う、うん。初めてだけど」

「始めます」

 豊夫は他の元同じように魔力を高め、光柱を彼も光らせた

「はい。どうぞ」

 そう言うと、豊夫から光が放たれ犀川の方へと飛んで行き、彼女を光が包んだ

「はいっ」

 犀川の光柱は一人でした時よりも、一回り高く太く濃くなったようだった


「ええーい!」

 犀川が先ほどと同じ様に放つと、先ほどよりもこの距離でも違いがはっきりと分かった。


「1550です」


「ほーこれはこれは、2割ほど威力が上がっていますねぇ」

 興味深そうに数値を見る副担任


「あっ、彼の方は600です」

 データをさかのぼり、豊夫の数値のピークを計測員が告げた


「よしっ、次、山水」

「はい」


「うりゃーー」

「500です」


「うっ」

 入試時にも別の方法で計測はしていたので、想定はしていたであろう山水だが、やはり自分の数字が今の所最小だった現実に凹んでいた


「最後、三木お前は・・・まぁ一番得意なのを放ってみろ」

「はい」


「えいっと」

 やる気が無いのか、全く光柱が光立つ事も無く。ふわふわと綿毛の様に火の玉が飛んで行き、山水の隣に同じくらいの穴をあけた


「490」


「山水さんには勝てると思ったのになぁ。負けたー糞ー」

 悔しがってみせる優

「よしっ、出席番号通りだ。ギリギリだったけど」

「だね」


「三木お前、光柱が無かったな」

 皆がふわふわと飛ぶ火の玉に気を取られ忘れていたが、担任はその事を指摘した

「体質なんですかね?そう言うの出ないみたいです」

 とぼける優

「これまた、面白い。私の研究人生でこのような事は初めてだよ」

 興奮する副担任


「よしっ、解散。宿泊所に帰るから、服はそのままでいいぞ、あいつの魔法のせいで冷えたししっかりと風呂に浸かれ」

「はい」

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