第26話 セツナの事情
そうしてその決勝は俺の勝利で終わった。
「いい勝負だった。ありがとう」
俺は試合終了後、起きあがろうとするセツナの手をとってそう言った。
「う、うん……ありがとう。ふふっ……今はあなたのほうが強い剣士みたいだね……」
「——! ……ああ、そうみたいだ」
彼女のその言葉に俺は、試合開始前の会話を思い出し、否定する理由もないので同意する。
俺とセツナがそんなふうに言葉を交わしていると、観客のいる席から俺が剣聖に勝利したことに関する驚愕の声や、俺とセツナの健闘を讃える声が聞こえてくる。
それを聞いたセツナが何かに気がついたようにして俺に言う。
「あ、ねんりき——そう、あなた……エスパーだったんだ」
「ああ。そうだけど……どうかしたのか?」
「いや、昔のことを思い出しただけ……お父さんの天職がエスパーだったから……」
彼女は俺の問いかけに、少し寂しそうな表情を見せながらそう答えた。
「セツナの父親がエスパー?」
「うん。お母さんは剣聖で、私はお母さんの天職をそのまま遺伝したんだけどね」
(そうか。天職ってのは両親のがかけ合わさって、とか以外にも片方の親のモノをそのまま遺伝することもあるんだな。となると尚更俺の天職がエスパーであることが謎になるが、もしかして剣聖×剣聖はエスパーなのか? ……んなわけないか)
俺は彼女の言葉からそんな、しょうもないことを考える。
「というか、親がエスパーだってんなら俺のスキルに対する知識もあるだろうから最後のサイコクラッシュとか、どうとでも対処できただろうに」
彼女の父親がエスパーであるなら、剣聖が親の俺に剣聖のスキルに関する知識があるように、多からずとも彼女にはある程度エスパーのスキルの知識はあると考えてそう聞いた。
「あ、それは……」
彼女は表情をあからさまにしょんぼりとしたような、寂しそうな感じに変えた。
(マズイ。これはなかなか聞いちゃいけないことを聞いてしまった気がするぞ。ひとまず……)
「悪い。変なことを聞いたな。忘れてくれ」
俺はそう言って誤魔化そうとする。
「いや、大丈夫。そんな深い話でもないし教えるよ」
「そ、そうか。ならお願いするよ」
「ただ単純にお母さんとお父さんがあまり私と接してくれないだけ。いつも昼間はどこかに遊びに行ってるし。まあご飯とかは作ってくれるから、そんなに不満はないんだけどね」
そう語る彼女の顔はやはりどこか寂しそうであった。
「そうだったのか……」と、俺はその話に相槌をうちながら、(そういえば俺の母さんも昼間にはあまり家にいなかったな。父さんが俺につきっきりで訓練させてたから、暇でどこかに遊びに行ってたんだろうか)と話に関連づけて過去の記憶を蘇らせた。
その話が終わり、俺はその少し暗くなった空気を直そうと別の話題を振る。
「そういえばセツナはなんでこのイベントに参加したんだ?」
「あ、それは普通にお金を稼ぐためだよ。ほんとは優勝してもっと賞金を得るつもりだったんだけど、あなたに負けちゃったから……」
「そりゃあ悪かったなあ」
「真剣勝負なんだから気にしないで。そういうあなたはなんでこのイベントに?」
「同じだよ。お金が欲しかったからさ」
なるほど、と言った様子でセツナは頷く。
そんな会話を交わして、そろそろ別れようとしたその時、事件は街に舞い降りるのだった。
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