第2話 モンスターと冒険者ネ
しばらく少女は森の中を歩いていた。先ほどの咆哮が聞いたのだろう、まったく何とも会わなかった。その間にこの奇妙な現象の理解を進めようとしたのだ。
「毒は効かないけど、食べるのは勇気がいるネ。」
地面から伸びていた紫色のおぞましいキノコを手に取りそう話す。実際地球に住んでいた時には商売敵や雇われた殺し屋に毒殺未遂をされることは多かった。最も地球にある毒程度ではこの少女にとっても全く問題がないため毒特有のおいしさに舌鼓を打ったほどだ。
「まあ死んでもどっちでもいいネ、今はお腹が空いたネ。」
キノコをむしゃりとかぶりついた、水で洗ってもいないため最初には泥の味がしたが。どうにもそのあとに感じた美味に不快感など消え去った。
体の不調はない、それよりもっと活力に似た何かが増えてきたのを感じた。この何かと空腹を満たすためどんどんキノコと草を食べることにした。
一体のキノコをがむしゃらに食べることにした少女は一か所にきのことかを集めて地面に座り、もぐもぐ食べ進めた。
「なんだ。ドラゴンの咆哮があったと思ったのに、森はあんまり壊れていないぞ。」
声に出して進むことにする。こういうのは黙ったほうが動物にばれないとかなんとか猟師のジジイには言われていたが、関係ねえ。俺には俺のやり方がある。
それに今見つけようとしているものが敵だったとしたら、何をしても無駄だと思うしな。ドラゴンは一度会ったことがあるが、胃にずどんと来る重たい咆哮ではあるが、あれほど神経をズダズダにする。聞いただけで死を想像するのは初めてだからだ。
だからこそ俺は今思ったことをひたすらに話す。いつもの日常であるように。なんとこないかのように。ひたすらに話す。
「さてさて。最近は魔力キノコも少なくなったとか薬やのばあさんも言っていたな。群生地にでも行ってみるか。うん。喜ぶぞ。まあ売ったら高いから、お酒も今日はたらふく飲むか。」
そう思ったのがバカだったのだ。先ほどの咆哮の場所に行けばよかったのだ。群生地に寄ったことに後悔をするなんて、この時の俺は思わなかった。
キノコは一つもなく、それより薬草や毒草など採取対象が何一つなかった。これは異常事態だな。もっと深くに行って確信を持つしかないか。
ひたすら進んだ先に一人の少女に出会った。
活発さを感じる見た目ながらもその服装は足を丸出しにしており、踊り子のようでもあった。ひどく場違いな服装で男は唖然としてしまった。
さらに一番驚くことは顔位大きなキノコを飲むようにどんどん胃袋に入れていたところであった。
「お前が全部取ったのか!!!」
「誰ネ、お前は。」
しまった。ついドラゴン探しに来たついでに魔力キノコを根こそぎ奪った原因を探ろうとしたら、こんなのが原因だと思ってつい大声出しちまった。
「だからお前は誰ネ。話は通じないタイプネ。これ」
「いやいや、話は通じている。俺よりお前のほうが誰だよ。」
「ワタシ?ワタシはリーメイね。いつの間にかこんな森に居たネ。ほら話したネ、お前は誰ネ?」
「変な奴だな、俺はガンツ。探索と採取専門の冒険者だ。ほらBランクだぞ。」
「変なもの見せてもわからないネ。でも強さのアピールは結構ネ。お前弱いネ。」
「お前はバカにし過ぎだぞ。小娘相手に何もしないが…」
ぴゅんとガンツの真横を透明な何かが横切る。その何かがそのまま木を一つ貫通した。
「これも見えない雑魚ネ。私に言わせるなら坊のようだったネ。それにお前は辞めるネ。自己紹介した意味ないネ。」
すくと立ち上がるリーメイを横目にガンツはあることをよぎった。ついここまで来た原因の一つである咆哮は鋭いながらも女の声だった。つまりはこいつが、リーメイが先ほどの死を覚悟した相手であったと。
これは一つ聞かないといけない、ここにいた理由、そしてこれから何をするかを。そして町になにか良くないことをするならテレポートで逃げて町に退避命令を。いやいやまだ決まったわけではない。まずは話を聞くことにするか。
「すまん、がさつな男でな?今後気を付けるよ。リーメイさんだったな?こんなところで大変だったろう。」
「それならいいネ、大変ではないね。キノコは美味しいし。でもそろそろお肉が食いたいネ。」
「それなら町へ来るか?肉はリーメイが食ったキノコを売ればかなり食えるぞ?それに焼いた肉のほうがうまいぞ。」
「生は美味しくないネ、お前はわかってるネ。よし案内するネ。私がお前を守ってやるネ。」
「おっけーおっけー。最後に一つ確認していいか?」
「いいネ。多い質問はめんどくさいけど一つくらいならなんでも答えるネ。」
「リーメイはこれから何をしたいんだ?町へ行った後にいろいろ便宜を図るにも目的が必要だろう?」
「なんだそんなことネ?私こことは別の世界から来たネ。とりあえず帰る手段欲しいネ。それまではいっぱい食べていっぱい寝るネ。」
「はっはっは。それなら俺がいる町はいいぞ?魔力キノコを使った熊ステーキは絶品だ。絶対リーメイは喜ぶはずだ。」
って異世界人?なんだっけ?大昔にそういうのはあったらしいとは聞いたことがある、本にも書いてあったけど、まさか本物か?まだわからない。強い阿呆の可能性は捨てきれない。後ろをちょこちょこ歩く少女は先ほどによくわからない魔法で木を貫いたとは思えないぞ。もうパニックだ、頭がおかしくなる。
こいつは優しいけど農夫くらいが合うね、ずっと集中を欠いていて危なっかしいネ。ずっと頭で混乱しているのか、狼みたいなものに狙われていてもずっと気づいていないネ。でも恩はないが飯くれるから助けてあげるネ。
リーメイとガンツが森を下る際、その周りでは狼や熊などの肉食動物の死体が30体近く、恐ろしく綺麗な状態でいたという。死体には頭部に細い点が開いており、先ほどの技によって倒したのだった。
しばらく歩くとガンツが急に冷や汗を出しつつ、止まった。
「どうしたネ。腹下しなら我慢は死ネ。」
「そうじゃねえ、ヌシが来た。なぜか俺らを殺そうとしているんだ。」
「ヌシ?何ネそいつは。」
「くそでっかいイノシシだ。キノコが大好きで森の奥の巨大魔力キノコを食べるからそれを採取は決してしてはいけない…ってもしかしてリーメイ。」
「そうネ。最高の味だったネ。至福のひと時だったネ。」
「おいおい、どうするんだ。さすがにこのままじゃ町まで襲われちまう。」
「心配するでないネ。イノシシごときワタシの敵ではないネ。」
「そうじゃねえ、普通のイノシシとはわけが違うんだ。こいつは」
ガーンガーン、ベキッ。
木が次々に折れながら、大きな足音がこちらへだんだん近づいてきた。
「ほほう!さすがに変な世界ネ、うまいキノコにでかいイノシシ。楽しい世界へ感謝するネ。あの変な男には感謝しかないネ。」
「おいおい、そういうこと言っている場合じゃないだろ。早く逃げないと。」
「お前に一つ教えてやるネ。崩拳と呼ばれたワタシの強さをネ。」
そう言い残し、すたすたとイノシシの音の方へ足を進める。ガンツは止めようとしたが。それより町と自身のほうが大事だ。それにあいつがあの咆哮を上げたのならひょっとしてという希望もあったのも間違いない。見送ることにした。決して見捨てたわけではない。
巨大イノシシが木々をなぎ倒し。リーメイの目の間に現れた。目は充血しており、ひたすらに怒りを出していた。それに引き換えリーメイは穏やかな水面のようだった。両者の衝突はイノシシの突進から始まった。
ぐんぐん早くなる突進、さらに刺し殺すことに特化したであろう牙は明確にリーメイに向けていた。避けたところで一軒家程度の大きさであるイノシシの突進に少し体を掠めれば命はないだろう。
牙が刺さる寸前までリーメイは微動だにしていなかった。爆発にも似た大きな衝撃音がガンツの鼓膜に突き刺さった。そのあとに自身は死ぬだろうという衝動が脳を支配した。しかし
「気功術にはいろいろあるネ。硬くしたら銃弾すらこんにゃくネ」
煙が消えた後には牙がお折れたイノシシと無傷のリーメイが立っていた。一切のダメージがリーメイにはなかった。ガンツは呆然と現状を理解できなかった。Bランクであるが。こと戦闘力でいうならD、しかしBランクやAランクの冒険者をガンツは知っている。しかしこれは知らない。避けるならわかる。盾で防ぐこともAランクのやつらならあり得るだろう。
しかし、しかしだ。棒立ちの状態で相手の武器が粉々になる。こんなことを会ってもいいのだろうか。もう神が降りてきたのかと錯覚するほどの力に顎を落とすしかなかった。
「じゃあ、死ぬネ。」
鋭い突きのような拳がイノシシの頭部にぶつかる。拳は頭蓋辺りで止まったが。そうじゃない何かがイノシシの体中を貫いた。骨という骨を粉々にして。すべての臓器は機能を停止した。
しばしの静寂の後、イノシシが崩れ落ち、その体が二度と立ち上がることはなかった。
「ふふん、こいつは絶対美味ネ。ガンツ。こいつは町へ運ぶネ。」
5秒理解に苦しんだが、生きていること以上に考えるのはよそうと。カバンを持ちながらリーメイのところへ向かったのだった。
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