第5話 幕間〜パリのノートルダムを思わせるゴシック建築風の宮殿〜

 とある宮殿。時を遡ること、ひと月余り前のことである。

 ゴシック建築風の荘厳な広間は、パリのノートルダムを彷彿とさせる。非常に高い天井、ステンドグラスから差し込む光。

 パリのノートルダムは、ナポレオンの戴冠式が行われた場所でもあり、現代日本で教育を受けた人が見ればそのシーンを描いた有名な絵画を思い出したかもしれない。

 その宮殿の壇上には人影はなく、壇の下に3つの人影が固まっていた。

 白いローブ姿の男が、赤いドレスコート姿の男にいう。

「ようやく鎮圧できましたな、フェルム伯爵。」

 フェルム伯爵と呼ばれた男も深く頷く。

「まだ取り逃がした者がいないとは限りませんが、前王弟殿下とあの侯爵さえ抑えておけば、残ったものでは滅多なことはできますまい。」

「ところで、モンテス卿。陛下のお加減はいかがですの?お怪我をなさったのでしょう?」

 黄色いドレスの女性は、白いローブの男をモンテス卿と呼んだ。

「おお、シルウィア侯爵。陛下命に危険はございませんとも。治癒の魔法で数日中に傷は塞がるでしょう。とはいえ、だいぶ血を失われましたので、しばらくは休養を必要とされています」

 黄色いドレスの女性……シルウィア侯爵が問い、モンテス卿が応える間も、フェルム伯爵は居心地悪気に身じろぎをする。

「近衛兵の中によもや反乱軍の手のものがいたとは……情けないばかりです」

「まあ!フェルム伯爵、貴方を責めるつもりではありませんでしたのよ?」

「そうですとも。……そうそう、陛下は、王女を呼び戻すようお命じになられましたな。」

 モンテス卿が助け舟かのように話題転換をしたが、フェルム伯爵の顔色は冴えない。

「それが、王女に仕える侍従、タツィリーフルに通信を呼びかけているのですが、一向に応答がないのです」

「王女を逃す際は、かなり慌ただしかったですからな。」

「当初の一時避難先にも反乱軍の手が伸びていて、急遽違う世界へ送ったのでしたわね。」

「なにか送信時にイレギュラーが起きて、タツィリーフルに持たせた通信の魔道具が使えなくなったのでは?」

 フェルム伯爵の発言に、今度はモンテス卿の表情が固まる。

「いや、まさか、……だが」

「その場合はどうなるのでしょう。なにか手段が?」

 フェルム伯爵も決して、逆襲とばかりにモンテス卿を責める様子ではない。彼も真剣に焦っているのだ。

「……とても畏れ多いことですけれども……」

 シルウィア侯爵は、2人の男性の反応を確かめながら口を開く。

「国宝の魔術具であれば、王族の血を辿って夢に呼びかけることができると聞いたことがございます。ナミネイア王女殿下を呼び戻せないことに比べたら、王女殿下の夢に直接お戻りを呼びかける不敬は致し方ないのではないでしょうか?」

 ゴクリ、とフェルム伯爵が唾を飲み込む。シルウィア侯爵の提案は、伯爵風情にはとても言い出すことはできないものだ。フェルム伯爵は意見を仰ぐようにモンテス卿を見つめた。

「そうですね……」

 モンテス卿はしばらく目を閉じて考えていたが、やがて重々しくまぶたを上げ、頷いた。

「魔術具の準備に2日は掛かりましょう。それまでは引き続きタツィリーフルへの呼びかけを続け、準備が終わっても応答がないようであれば、というのでいかがでしょうか?」

 シルウィア侯爵もフェルム伯爵も、モンテス卿の提案に賛同した。



 5日後。同じ広間に同じ3名の姿があった。

 予定通りの2日後に魔術具を使用したものの、王女への呼びかけに応答は無かった。

 そこから2日かけて再度調整し、再チャレンジを終えたところだった。

 王女が避難している世界、地域にチャネルを合わせ、微かな反応はあったものの、向こうからはこちらが見えていない様子。王女はあちらの言葉を話しているようだ。

「やはり避難の際になにかあったのでしょうか?かつての王女殿下とはあまりに印象が違います」

 フェルム伯爵が曖昧に言う。王女としての威厳を無くしたようだ、とは口にしづらかったのだろう。

「あちらになじむように、記憶を封じていらっしゃるのではないでしょうか。言語まで封じているのであれば、厄介ですね」

 シルウィア侯爵が眉をしかめた。

「翻訳の魔術具を作成しましょう。王女と波長を合わせる方にもまだ調整が必要そうですので、精度を高めるところにはあまり力を割けませんが。」

 モンテス卿が白いひげを捻りながらいう。

「どのみち、私たちからあまり細々したことを王女殿下にお願いするわけにもいかないでしょう?タツィリーフルと直接連絡を取れるような魔道具を王女殿下からタツィリーフルに手渡していただくことはできないかしら?」

 シルウィア侯爵が提案する。

「あれもこれもモンテス卿頼りになってしまうので、本当に申し訳ないのだけれど。」

 シルウィア侯爵がそう付け加えれば、モンテス卿は少し苦しい表情をしたあと、

「……信頼できるものを総動員しますので、予算の割り当てをお願いします。フェルム伯爵には、掻き集めてほしい素材がございます。また、次は2日後とはいかないでしょう。こちらに気づかれてなかったとはいえ、何度も王女殿下にお声がけするのも憚られますから、次で成功させるべく、準備には充分な時間をいただきたいです」

「なんと、時間と材料、予算があれば、夢を通じて魔術具を手渡しできるのですか!?」

 フェルム伯爵は、信じられない、と頭を振った。

「普通の魔術具ならば、もちろんできません。しかし、タツィリーフルの精神に呼びかけ、彼自身がこちらに連絡を取るよう仕向けるだけならば、魔法のメッセージの受渡しを行うようなものです。夢伝いに魔力を織り固めたものを王女殿下にお渡しし、王女殿下からタツィリーフルに手渡しいただくことができるでしょう。」

「それで、準備にはどれくらい必要なのですか?」

「一旦、1週間後に中間報告とさせていただけませんか?いくつか方向性を探ってみないと、はっきりとは言えないのです」

「分かりましたわ。でも、途中でなにか追加で必要なものが分かった場合には、1週間後を待たずにすぐに知らせてくださいね」

 貴人たちが話し合いを終えて出ていくと、広間からは人影が消え、静寂に包まれた。







 

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