第6話 時空光暦2050年の世界
「あ、ありがとうございます!」
婆ちゃんと夏子さんは涙を流しながら深々と頭を下げる。
「い、いや、良いんだよ。アイツらがムカついたからブチのめしただけさ」
実際そうなのだから、お礼を言われると何か申し訳なくなる。
「夏子! 何があったんだ!?」
「卓也さん!」
精悍な顔付きの男性が駆け寄ってきた。
男性は僕を見るなりギョッとし警戒するが、アスカに目をやると僅かに警戒を解いたように見えた。
「この人が、お婆ちゃんを助けてくれたの」
「本当か? 警戒してすまなかった」
卓也さんは申し訳なさそうに頭を下げる。
「気にしないでよ、むしろ警戒した方がいいって。あんな奴らが蔓延ってるんなら足りないくらいだ」
「そう言ってくれると助かる」
卓也さんと話しているとアスカは僕の後ろに隠れ、抱きついてくる。
うおう、温かく柔らかい感触が。
人見知りする性格なのかな?
おっと、会話を続けよう。
「卓也さん、聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ? 俺に答えられることなら何でも」
「今は、西暦2025年じゃないの?」
卓也さんは難しい顔をしながら続ける。
「今は、時空光暦2050年らしい。西暦なんて暦は存在しないらしいが、あんたも西暦という世界から飛ばされてきたのか?」
「飛ばされた?」
西暦が存在しないということは、やはり、ここは便宜上異世界という認識でいいかもしれない。
すると、婆ちゃんが話に加わってくれた。
「あれは50年前だったわ。南極に隕石が落ちて、そして同時に人がたくさん消えたの。きっと恐怖の大王だったのよ」
「ノストラダムスの大予言、か……」
聞いたことがある……1999年に恐怖の大王がやって来て世界が滅ぶと。
西暦1999年には何も起こらなかったが、この世界線では本当に起こったのか?
悪党やワニや角の生えた馬まで蔓延ってるし、まさに世界の終わりだ。
「パニックだったわ、怪物や暴徒と化した人たちが暴れ、たくさん殺されたの。残された人たちで発電所や水道とかを維持し、何とか生きてるの」
「そうだったんだな……」
「そして、10年ほど前だったかしら。恐ろしい人たちが来るようになったの」
卓也さんが代わりに続けた。
「大崩壊以前の衣服と武器を身に付けた奴らが突如として現れたんだ。そいつらも西暦とか言っていてな、どうもその世界から飛ばされてきたらしい」
「なるほど」
今のところ不良やチンピラたちが飛ばされているのを確認出来る。
「転移の際、肉体が変貌したって話は聞いたことは?」
「いや、そんな事例は聞いたことはないな」
「そ、そっか」
──強大な力と肉体を得て、今も安堵や高揚感は消えていない。
でも、急に得たということは、失う可能性だって存在すると頭をよぎっている部分がある。
それは僅かな不安となって心の底にくすぶっている以上、今はとにかく情報が欲しい。
僕は婆ちゃんと卓也さんに聞いてみる。
「隕石や怪物の正体って、分かっていることはあるかい?」
「残念ながらほとんど何もないんだ。怪物はテリトリーを持っていて、原則その範囲でのみ行動することくらいしかな」
「テリトリー……」
考え込んでいると、アスカが見上げてきた。
「今、立っている場所が荒らされてないのは……テリトリーからワニや馬が出ないからなんだね……」
「みたいだね、そこまでの極端なテリトリーは珍しいよな」
何か理由があるんだろうか?
瞬間、男の叫び声と鐘の音が鳴り響く!
「破壊種だーっ! レックスの破壊種が現れたぞーっ!」
「な、なんだとっ!?」
卓也さんの顔が驚愕の表情に染まる。
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