対「視怪」報告書三 北島研究員との会話

報告者:小之原日香里

報告日:2021年6月25日


 以下は、北島研究員との面談室での会話です。


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2020/6/25_15:28


小之原:お疲れ様です。本日は私の不手際でこのような形になってしまい申し訳ないです。


北島:いえ、どうぞこちらに……早速なんですが、閲覧担当責任者に僕を選んだ理由をお聞きしても?


小之原:「視怪」の研究については北島さんが一番熱心かなと思ったまでです。


北島:小之原さん、あなた嘘を吐いていますね。


小之原:……嘘とは?


北島:あなたは、僕が既に「視怪」と成っていることを知っている。違いますか?


小之原:……あなたの精神は「北島堅人」ですか?


北島:その質問に意味はないです。寄生している奴らはいくらでもあなたを欺けますから。……僕は「視怪」と成りました。北島堅人の自我はもうここにはありません。


小之原:いつから寄生を?


北島:永見恵子さんへのインタビューの際です。あの時、僕……「北島堅人」は、うしろを振り返りました。それで僕がこの身体を使えているというわけです。


小之原:人間に敵意はありますか?


北島:それについての話をしようと、あなたをここへ呼んだんです。僕たちは、本能的に人間への敵意をプログラムされています。いかに効率よく人間界を支配できるか、年月を重ねるごとに進化を続けてきました。しかし、進化には変異がつきものです。つい最近、僕たちが寄生しようとする際、抵抗して自傷行為に走る者が出てきました。これはおそらく精神作用の複雑化、或いは単なる強化の結果であるとみているのですが、僕たちに人間側の精神汚染耐性を学習する機能がなかったため歯止めがきかなくなってきているんです。このままでは「視怪」も人間も、死んでいく一方です。


小之原:なるほど、しかしもう既に寄生に成功している個体が死ぬことはないのでは? そうなれば生き残るのはあなたたち「視怪」のみです。


北島:その通りではありますが、僕たちの存在意義は「人間界の安定化」です。僕たちは互いに殺し合い、自ら命を絶つようになってしまった人間への失望から生まれた怪異です。その怪異が、今度は人間を殺して回るようになってしまったら本末転倒です。


小之原:それで、協力を求めているのですか?


北島:はい。僕は「視怪」と人間の、完全なる共生を考えています。


小之原:それは不可能です。あなたたちは、人間に寄生することでしか実体を持てない、そうですよね?


北島:はい。ですので、人間以外に寄生する方法を探しています。


小之原:人間界を支配するための怪異が、人間以外に寄生するなんてことができるのですか?


北島:それについて現在研究中です。僕たちは情報を知覚できる生物にしか寄生できません。そこで、情報を一定の周波として保存し、それを他の生物の脳へ直接流し込むことで「情報を知覚した」という扱いになるのではないかと考えています。


小之原:試してみる価値はありそうですが、それであなたたちは人間界から完全に手を引けるのですか?


北島:この研究が成功すれば、僕たちの意見に賛同する者も出てくるはずです。


小之原:それでは、最終的には賛同派と反対派で戦争になってしまいますよ。


北島:僕たちには、あなたたちと違って同族を傷つけあうような生態はありません。反対派の者は変わらず人間に寄生し続けるでしょう。


小之原:最善の解決策が、先に述べた方法であることは理解しました。それでも、人間に寄生する個体が発生するのはこちらからしても見過ごすことはできません。


北島:やはりそうですか。それでは……


小之原:一つ、お聞きしたいことがあります。「視怪」はいつ死ぬのですか?


北島:基本的には、宿主の肉体が死ぬときに、僕たちは肉体からはじき出されて死にます。一度寄生してしまうと、宿主から出るときに死んでしまうんです。


小之原:それは、「肉体が死を錯覚した場合」も適応されるでしょうか?


北島:……つまり、何が言いたいのでしょうか。


小之原:人間は、自分が死んでしまう夢を見ると、現実の肉体も死んでしまったと錯覚してしまうことがあるんです。これこそが「肉体による死の認識」、つまり、あなたたちが宿主の肉体を捨てる条件のうちに適応されるのではないかということです。……まあ、簡単に人の夢になんて干渉できませんので、ほかの方法をとるつもりです。それで見つけたのが、あなたたちの言う「仮死状態」です。


北島:仮死状態……僕たちが寄生する際、特殊な精神作用を……まさか。


小之原:私は、あなたたちの精神作用を解析しようとしています。一時的に仮死状態にできる精神作用を、既に寄生されている人間に向かって放つと、どうなるでしょう?


北島:……はじき出されるかもしれませんね。


小之原:ここまで研究して、間違っているかもしれないと危惧して最終決定まで踏み切ることはできませんでしたが……あなたがそういうのなら研究を継続する価値はありますね。至急、解析を頼みたいのですが、寄生した後でもその精神作用を発生させることは可能ですか?


北島:可能です。……ただ、その作用を受ける対象がいればの話ですが。


小之原:……神木陽介。この人物に、例の精神作用を発生させて欲しいのです。


北島:自らの手で、同族を殺せと?


小之原:あなたたちの存在意義に傷をつける行為であることは十分理解しています。しかしこうでもしないと、あなたの言う共存への道は拓かれないのです。


北島:結局、解決には争いがつきものなんでしょうか。


小之原:その答えは、私たちを見ればわかるはずです。あなたたちは……人間の原則から外れた、バグのようなものです。略奪、戦争、自傷行為。これらすべてがなかったら、もちろん人類は永遠の平和を手に入れることだってできるでしょう。しかし、皆それをしないのです。なぜなら、それは机上の空論に過ぎないからです。目の前に落ちている一つの金塊を二人が同時に見つけたとして、そこに合理的な分配方法を見つけられないから、私たちは争うんです。争うことでしか、自己の優位性を確立できないんです。それが人間というものです。


北島:……優位性を確立しようとすることが、根本的に間違っていると思いますけどね。


小之原:あなたたちが人間に敵意を向けるようにプログラムされているのと同じで、人間はそうプログラムされているんです。


北島:……協力しましょう。神木陽介に、会わせてください。


小之原:ありがとうございます。


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 「視怪」自身でさえ把握できていない生態がまだ存在するということが分かった。これからの研究は北島さんと協力して継続する。

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