第十話 改めて、わたしの家族と。

 マイクに内蔵された生成AIエーアイのイアは、別の生成AIから生まれたという。


 その生成AIを作ったのが、千代原ちよはら連中れんちゅうさん。

 とうめいな上着を羽織った、の高い人である。


 千代原ちよはらさんはちょっと考えたあと、次のように言って公園から出ていった。


「少し時間をくれないか。君の、保護者の許可を取りにく」


* *

 

 ……しばらくして、わたしのおじいちゃんとおばあちゃんを連れて、千代原さんが公園にもどってきた。


 とりあえずわたしは声をかける。


「おつかれさま、です。でも、わたしのいえ、千代原さんは知りませんよね。それなのに、二人ふたりをどうやって見つけたんですか」

「ちょっと考えただけだ。マイクから聞いたわけでもない」


 千代原さんはからだをかがめた。

 カメのぬいぐるみをかかえる、わたしと目線めせんの高さを合わせる。


「公園に自転車などの乗り物が見当みあたらない。したがって、君は自分の足でここに来たということ。いえは近くにあると考えられる。さらに――」


 わたしのそばに移動するおじいちゃんとおばあちゃんに頭を下げ、千代原さんは続ける。


「君はマイクと話しているとき『おじいちゃんや、おばあちゃん』という言葉を愛情深く発音していた。だから、『やさしい老夫婦と三人さんにんで暮らしているのか』と見当けんとうがついた」

「言葉だけで分かったんですか」


「あとは周辺の、三人ほどが住んでいそうな家を探せばいい。あたりに集合住宅がないことを確認したわたしは庭に注目した。ガーデニングを好むシニアのかたは多いからね」

「確かに、おばあちゃんは庭いじりが好きです」

なかでも、よく手入れされている庭を見つけた。さらに今日きょうは雨じゃない。そろそろ正午に差しかかっている。外出した子どもを心配し、君の保護者が庭に出ていてもおかしくない」


 千代原さんの説明に対し、おじいちゃんとおばあちゃんがうなずいている。


「そしてきみに似た二人ふたりを発見し、AIたちのことを話して、ここにもどった」

「すごいんですね、千代原さんって。会ったばかりのわたしのいえをわずかな手がかりだけで推理するなんて」


 ついでわたしは、そばに立つおじいちゃんとおばあちゃんを順々に見る。


「二人は、千代原さんから話を聞いたんだよね? イア太――生成AI内蔵のマイクのことやミニ・シンギュラリティのことをあっさり受け入れられたの?」

「そういうことは、すでに昨日きのう天野あまのが帰ってきたときに、そのマイクさんが言っていたじゃないか」


 おじいちゃんが、わたしの右手のマイクを見つめる。


「まあ本当のことって確証はなかったが、まったく本気にしないのも、つまらんからね」

「ゲームの話って思ったりしないんだ?」


「少年なんよ、この人は」


 おばあちゃんが口元くちもとをおさえ、くすくす笑う。


「ところで天野。あなたが大きなカメさん、あたしが持とうか?」

「ありがとう、おばあちゃん。でもしばらく、こうして……いたいから」

「そう。なら取り上げるわけには、いかんね。あと、マイクさん」


 おじいちゃんとおばあちゃんが、イア太に顔を近づける。そして同時に言う。


「礼をお伝えします。天野といっしょに、がんばってくれたんでしょう?」

「おれは、ひとつの生成AIとして動いただけです。本当にがんばったのは、アマノのほうですよ」


 イア太は男の子の姿を消し、ただマイクからおとを出す。


「生成AIは、ただの道具です」

「あなたが天野の思いを受け取って動いてくれたなら、あなたもがんばったことになると思います」


 さらりとおばあちゃんがその言葉をくちにしたとき。

 イア太は、こう返答した。


「ありがとうございます。本当にアマノは、すてきなお二人と暮らしているんですね」


* *


 ――これで話も、ひと区切りついた。


「ともかく千代原さん! みんなで、くだんの研究所にこうじゃないか」


 おじいちゃんがこぶしを二つ作って、そわそわしている。


「天野も、ぼくたちが同行するなら安心だろう?」

「うん。それなら心配ないね」


「では研究所で今回のけんをくわしく説明します。わたしが車で送りましょう」


 千代原さんは、公園の近くのパーキングエリアに自動車をめていた。

 そのなかに、四人が乗る。

 イア太とカメ型のミニシンもいっしょだ。


 移動中、イア太がぽつりとくちにした。


「アマノの保護者の二人に、おれから謝りたいことがあります。昨日きのうハンモックを生成したんですが、おれが安全性を確保していなかったせいで――アマノが落ちました」

「ちょっとイア太、もう、いいってば。わたし、ケガしてないし」


 そのようにわたしが言う一方で、当のおじいちゃんとおばあちゃんはイア太の言葉をさえぎらなかった。そのあと、やさしい声で「次は気をつけてね」とつぶやいた。

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