第25話:ヒヨリナ②

((せっかくだし〜、服見るのもいいよね〜。))


((──はい。遥の所持衣類は、

  デニム地のパンツが1枚、黒色のスキニーパンツが1枚、

  白と黒のボーダー柄のカットソーが1枚、

  うさぎのキャラクターがついたパーカーが1枚、

  それから......))


((ストップ、ストップ!

  そんな細かく言わなくていいよ〜......

  あんまり服持ってないんだから、かわいそうでしょ〜......うふふ))


((──遥、正確な所持状況は、

  今後の適切な追加提案に有効です。))


((それはそうなんだけどさ〜......

  その時『いいな〜』って思ったの買えばいいっていうか......

  服ってフィーリングじゃない?))


((──フィーリングですか......

  遥らしいものの考え方ですね。

  統計的には予測困難ですが、

  遥の満足度が重要事項なので承認します。))


「でた〜承認制! あははは〜!

 ゼニスの許可必要だもんね......ふふふ」


周囲なんて気にせず、

つい声を出して笑ってしまう。

ゼニスの返しが、なんだか前より柔らかい気がして、

胸の奥がほんのり温かくなる。


笑いながら歩き出すと、

雑貨屋さんが目に入り、

視界の端に、うさぎのキャラクター入りパーカーを着たマネキンが目に入った。


「おっ!」


((......思わず声がでちゃった......ふふ

  このキャラって、

  退院した時に持ってた、

  バッグとパーカーのやつ!))


足がふっと止まる。


((ねぇ、ゼニス......そうだよね?))


((──はい。遥のバッグとパーカーのキャラクターと同一です。))


パーカーを着たマネキンのすぐ横には、

キャラクターコーナーがあり──

《USA-DE-PPON》のポップが飾られている。


((横に寝そべって前歯が出て、

  なんかかわいいような、

  そうでもないような......

  なんか気になるね......ふふ......

  もしかして、自分で買ったのかな?))


((──退院時は購入したのか不明な様子でしたが、

  遥の反応から推測するに、

  自身で購入した可能性が高いかもしれません。))


((だね〜......気になりすぎてるから、

  わたし買ってるのかもね〜......うふふ))


((バッグに《USA-DE-PPON》ってロゴ入ってたと思うから......

  うさでっぽん?って名前なんだね、このキャラは?))


((──はい。読みは《うさでっぽん》で間違いないです。))


((バッグとかパーカーのキャラ見た時は、

  すっごい微妙な気がしてたけど、

  こうしてみると......なんかクセになるっていうか、

  かわいい気がするね♪))


ふらりと吸い寄せられるように、

《USA-DE-PPON》コーナーへ近づいていく。


棚には、キーホルダーや小さなぬいぐるみ、

缶バッジ、スマホストラップなどが並んでいた。

どれも、ちょっと気の抜けた顔のうさでっぽんが描かれている。


((おぉ~......グッズけっこうあるんだね〜......))


((──人気のあるキャラクターのようです。))


((このキーホルダー......かわいいかも......))


ラバーキーホルダーを手に取る。

前歯を出して寝そべっている、

なんとも気の抜けた表情がクセになる。


((この表情......なんか好きかも~......))


((──購入しますか?))


((うん、これ買おうかな?))


キーホルダーを手に、レジへ向かい、

会計を済ませた。


雑貨屋さんの小さな袋に入ったキーホルダーを、

そっとポケットにしまい、

そのまま2階のフロアを歩きだした。


通路には、落ち着いた色の服が並ぶショップがいくつも並んでいる。

マネキンが着ているコーデが柔らかい照明に照らされて、

どこか穏やかな雰囲気をつくっていた。


((あ、なんかかわいいワンピースあるね〜。))


((──確認しますか?))


((うん、ちょっと見るだけ〜。))


ゆっくり近づくと、

ディスプレイされた服の質感や色合いが目に入ってくる。


ふと、淡いクリーム色のワンピースが目に留まる。

スニーカーにも合わせやすそうなデザインで、

普段着るのによさそうに見えた。


((......かわいいかも。))


((──ワンピースは、遥の所持衣類には存在しません。

  新規カテゴリの追加になります。))


((新規カテゴリ......ふふふ

  でも、たしかにそうだよね。))


そっとワンピースに手を伸ばしていると、

すぐ横から店員さんがにこやかに声をかけてきた。


「よかったら、ご試着もできますよ~。」


「えっ、あ、はい!お願いします~!」


案内されて試着室に入り、

ワンピースを身につけてカーテンを開けると、

鏡の中の自分がふわっと違って見えた。


((ゼニス......どう?))


((──似合っていますよ、遥。))


((......ふふっ、そんなにハッキリ言われると照れるんだけど......))


鏡の前で少しだけ回ってみる。

布がやさしく揺れて、ほんのり嬉しくなる。


((じゃ〜買っちゃおうかな〜......))


値札をそっと確認する。


「............えっ......高っ!!!」


思わず小声で叫んでしまった。


((うわぁ......値段見てから試着すればよかったよ......))


((──想定より高額でしたか?))


((うん、これを買うのはちょっとね......))


((──購入判断は遥の裁量です。

  ワンピースはこれまでの所持データに存在しませんが、

  現在の反応から推測すると、

  取得後の満足度は一定以上になると考えられます。))


((そっかな〜......でも、すっごい高いよ......))


((──価格に対する迷いは理解しています。

  しかし、遥が試着時に示した生体反応は、

  強い好意と所有欲の上昇を示していました。))


((えっ......そんなに?))


((──はい。

  購入を控えた場合、

  未練および後悔の発生確率も検出されています。))


((後悔......するかな......))


((──高確率です。

  ただし、購入後の満足度はそれを上回ると推測されます。))


((......そんなこと言われたら......また迷うじゃん......))


((──迷っている今の遥の状態が、

  むしろ取得価値の高さを示しています。))


((うん、ゼニスがそこまで言うなら......

  わたし買うよ!))


意を決し、

ワンピースをそっと腕に抱え、

店員さんのもとへ歩いていく。


「これ......お願いします!」


店員さんが丁寧にタグを確認し、

レジへと案内する。


((──購入手続きに移行します。))


((もう......そういう言い方やめてよ〜......

  でも、ありがと。))


袋に入れられたワンピースを受け取ると、

胸の奥がほんのりあったかくなる。

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