第22話 “第二の種袋”の手がかりと、揺れる治安
午後、館に戻ると
ドランが古い帳簿を抱えて待っていた。
「領主様、これを見てくだされ」
帳簿は四十年前のもので、
紙の端が黄ばみ、文字も半分消えかけている。
だが──
ページの端に、わずかに読める文字があった。
『香り麦 保管場所:副村 旧家ノ倉』
ドランが指で示す。
「……もう一袋、あった可能性が高い。
本宅とは別の“副村の旧家”に置かれていた、と」
マリアが目を丸くする。
「つまり……
“第二の種袋”が、まだどこかに?」
セラは心臓を押さえるように手を置いた。
「……本当に……?
もし、あったら……!」
視界が淡く光り、表示を出す。
『第二種:存在可能性 中
保管状態:不明
発見価値:極めて高い』
可能性は“中”。
だが、見つかれば
香り麦の量産計画が一気に加速する。
俺は判断した。
「明日、調査隊を出す。
副村の旧家を一軒ずつ確認する」
アズベルが頷く。
「案内できる者を探しておきます。
旧家は数軒……どれも古く、人が住んでいない家です」
マリアがそっと言った。
「香り麦の粉を狙った盗難もありましたし……
外部に見つかる前に、こちらが確保しないと……」
視界が表示を追加する。
『脅威:商会・外部偵察
目的:香り麦の“起源”の探索』
香りの源を探している者がいる。
だから、種を守る必要がある。
◇
夕方。
副村の入口で、異変が起きた。
見回りの兵が駆け込んできた。
「レオン様!
村の外れに“見知らぬ二人組”が現れました!
自分たちが声をかけると、
慌てて森の方向へ逃げて……!」
アズベルが即座に表情を変えた。
「二人組……同時行動か。
昨日の侵入者と同じ“組織的な動き”ですな」
俺は兵に問う。
「服装は?」
「粗末ですが……
腰の革袋が“軍務用の固定具”でした。
偵察かと……」
視界が淡い光で文字を示す。
『外部偵察:強化
行動目的:区画・水路・旧家の位置確認
危険度:中高 → 高』
予想より早い。
外部の動きが加速している。
セラが不安そうにこめかみを押さえる。
「……旧家を見られたら……
種袋が先に見つかるかもしれない……」
アズベルは低く言う。
「これは、もう“運任せ”ではいけません。
組織的な偵察相手には、こちらも動きを絞るべきです」
マリアが息をのみながら俺を見る。
「レオン様……
どう動きますか?」
視界に淡く文字が重なる。
『選択肢:
① 調査隊を早朝に出す
② 調査隊を今夜出す(危険)
③ 情報を隠すため旧家周辺を封鎖
最適解:① 早朝に少数で』
俺は答えた。
「今夜は動かない。
相手は“こちらが追ってくる”と考えている。
動けば読まれる」
アズベルが即座に頷く。
「……その通りですな。
相手の期待を裏切る方が安全です」
「だが──
明日の早朝に、少数部隊で旧家を調べる。
外部が気づく前に、種袋の有無を確認する」
マリアが記録板を握り、深く頷いた。
セラの表情も、
不安から覚悟に変わっていく。
視界が最後に表示を出す。
『第二種:見つかった場合
→ 香り麦の安定生産ルート確立
見つからなかった場合
→ 現在の苗の“倍増計画”へ移行』
二つの道がある。
どちらでも進む。
だが、
明日で状況が大きく動く。
風が副村の古い家々を揺らし、
夕陽がその影を長く伸ばしていた。
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