第22話 “第二の種袋”の手がかりと、揺れる治安

午後、館に戻ると

ドランが古い帳簿を抱えて待っていた。


「領主様、これを見てくだされ」


帳簿は四十年前のもので、

紙の端が黄ばみ、文字も半分消えかけている。


だが──

ページの端に、わずかに読める文字があった。


『香り麦 保管場所:副村 旧家ノ倉』


ドランが指で示す。


「……もう一袋、あった可能性が高い。

 本宅とは別の“副村の旧家”に置かれていた、と」


マリアが目を丸くする。


「つまり……

 “第二の種袋”が、まだどこかに?」


セラは心臓を押さえるように手を置いた。


「……本当に……?

 もし、あったら……!」


視界が淡く光り、表示を出す。


『第二種:存在可能性 中

 保管状態:不明

 発見価値:極めて高い』


可能性は“中”。

だが、見つかれば

香り麦の量産計画が一気に加速する。


俺は判断した。


「明日、調査隊を出す。

 副村の旧家を一軒ずつ確認する」


アズベルが頷く。


「案内できる者を探しておきます。

 旧家は数軒……どれも古く、人が住んでいない家です」


マリアがそっと言った。


「香り麦の粉を狙った盗難もありましたし……

 外部に見つかる前に、こちらが確保しないと……」


視界が表示を追加する。


『脅威:商会・外部偵察

 目的:香り麦の“起源”の探索』


香りの源を探している者がいる。

だから、種を守る必要がある。



夕方。

副村の入口で、異変が起きた。


見回りの兵が駆け込んできた。


「レオン様!

 村の外れに“見知らぬ二人組”が現れました!

 自分たちが声をかけると、

 慌てて森の方向へ逃げて……!」


アズベルが即座に表情を変えた。


「二人組……同時行動か。

 昨日の侵入者と同じ“組織的な動き”ですな」


俺は兵に問う。


「服装は?」


「粗末ですが……

 腰の革袋が“軍務用の固定具”でした。

 偵察かと……」


視界が淡い光で文字を示す。


『外部偵察:強化

 行動目的:区画・水路・旧家の位置確認

 危険度:中高 → 高』


予想より早い。

外部の動きが加速している。


セラが不安そうにこめかみを押さえる。


「……旧家を見られたら……

 種袋が先に見つかるかもしれない……」


アズベルは低く言う。


「これは、もう“運任せ”ではいけません。

 組織的な偵察相手には、こちらも動きを絞るべきです」


マリアが息をのみながら俺を見る。


「レオン様……

 どう動きますか?」


視界に淡く文字が重なる。


『選択肢:

 ① 調査隊を早朝に出す

 ② 調査隊を今夜出す(危険)

 ③ 情報を隠すため旧家周辺を封鎖

 最適解:① 早朝に少数で』


俺は答えた。


「今夜は動かない。

 相手は“こちらが追ってくる”と考えている。

 動けば読まれる」


アズベルが即座に頷く。


「……その通りですな。

 相手の期待を裏切る方が安全です」


「だが──

 明日の早朝に、少数部隊で旧家を調べる。

 外部が気づく前に、種袋の有無を確認する」


マリアが記録板を握り、深く頷いた。


セラの表情も、

不安から覚悟に変わっていく。


視界が最後に表示を出す。


『第二種:見つかった場合

 → 香り麦の安定生産ルート確立

 見つからなかった場合

 → 現在の苗の“倍増計画”へ移行』


二つの道がある。

どちらでも進む。


だが、

明日で状況が大きく動く。


風が副村の古い家々を揺らし、

夕陽がその影を長く伸ばしていた。

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