第2話 お話をしました

「バード男爵令嬢」


 王太子ウォーレン殿下は、王立貴族学院で知り合ったバード男爵令嬢アリスさんと親密になりました。

 ウォーレン殿下とアリスさんは、恋人同士のような付き合い方をしていました。


 ウォーレン殿下は私と婚約をしているというのに……。


 そのような状態の二人を放っておけず、私は意を決してアリスさんに声を掛けました。


「貴女にお話したいことがあるのだけれど……」


 だってアリスさんが可哀想だったのですもの。


 私の心が健やかであるためにも、アリスさんときちんとお話をすべきだと思いました。


「わ、私も、コールドウェル公爵令嬢にお話が……」


 私が声をかけるとアリスさんは真剣な眼差しで私にそう言いました。


 そして二人だけでお話をする機会を得ました。

 お互いに話しやすいように、名前で呼び合うことにいたしました。


「エリザベス様、お願いします、ウォーレン様との婚約を解消してください」


 まずはアリスさんのお話から聞きました。


「ウォーレン様を解放してあげてください!」


「ウォーレン殿下との婚約を解消して、解放されたいのは私のほうです」

「だったら、ウォーレン様と婚約解消してあげてください」

「コールドウェル公爵家から王家に、私とウォーレン殿下との婚約の解消をお願いしているわ」

「え? 解消してくださるんですか?」


 アリスさんは喜色を浮かべましたが、私は頭を振りました。


「こちらがお願いしても王家が承諾しないから、婚約解消ができないのよ。婚約を解消してくれないのはウォーレン殿下のほう。王家のほうなのよ」


 そう答えた私に、アリスさんは少し不思議そうな顔をして言いました。


「エリザベス様はウォーレン様を愛していらっしゃるから、婚約解消を承諾しないのではないのですか?」


「一体誰がそんなことを言っているの?」

「ウォーレン様が言っていました」

「……」


 あまりにも呆れてしまって。

 私は一瞬、言葉を失ってしまいました。


 ウォーレン殿下は、私に愛されていると思っているのでしょうか?

 凄い自信ですね。


 婚約した当初は、私はウォーレン殿下と親睦を深めようと努力しました。

 結婚するのですから、愛がなかったとしても、共に助け合えるような信頼関係を築きたいと思ったからです。


 でもウォーレン殿下はそんな私を「私の機嫌を取ろうとしているのか?」と言って見下しました。

 それで、やる気が失せました。


 もう仮面夫婦で良いと諦めました。

 貴族なら政略結婚は当たり前ですから、義務だけ果たして、お互いの私生活には干渉しないという仮面夫婦は多いのです。


 王家は我がコールドウェル公爵家の力をアテにして、私とウォーレン殿下を婚約させただけです。

 王家との婚約は政略であり、結婚する当人同士の感情は関係ありません。


 そう、婚約を打診して来たのは王家です。

 こちらは王家と波風を立てるのを避けて、しぶしぶ承諾した側。


 身分も年齢も釣り合っていて、当たり障りなく拒否できる理由がなかったため、断りきれなかったのです。


 はっきりと「甘やかされて育ったウォーレン殿下は性格が悪いからお断り」だなんて言えませんもの。

 父は「二人の相性が噛み合わないようで」と縁談の拒否を試みましたが、「まだ子供だ。これから変わる」と国王陛下に言われ断れなかったのです。


 ウォーレン殿下は国王陛下から説明を受けていらっしゃらないのでしょうか。


「アリスさん、何か誤解があるようね」

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