第22話 監視の影、寄り添う灯
夜が深まるほど、孤独は濃くなる。
封鎖区域を出たリアンは、ギルドが用意した“監視下の宿舎”に収容されていた。
自由ではない。
牢でもない。
その曖昧な境界線が、心を蝕んでいく。
部屋には鉄製の窓格子。
外には監視兵の足音が続く。
静寂すら監視されている気配。
「英雄、ね……」
吐き出した言葉は自分自身を嘲るように反響した。
英雄としての復権が“望み”ではなく“条件”として突きつけられている現実。
――力を制御し、世に受け入れられなければ。
自分は、化け物。
どれほど抗っても、その烙印は冷たい。
拳を握る。
血が滲むほど強く。
「俺に、何ができる……」
沈む心の底で、微かな灯りが揺れる。
コン、コン――
控えめなノック。
返事を待たずに扉が開き、光が差し込む。
「入るね。……リアン」
セリア・ルーミエルが立っていた。
真夜中に、制服も脱がないまま。
彼を思い詰めた表情で。
「こんな時間に……怒られるぞ」
「いいの。
あなたを、一人にしておきたくなかった」
彼女は空気の冷たさなど構わず近づいてきて、
座り込む彼の横に腰掛けた。
沈黙が落ちる。
だが、その沈黙は不思議と暖かい。
「……私はね、リアン」
セリアが言葉を選ぶようにゆっくりと続ける。
「あなたが怖くなんてない。
どんな力を持っていても、あなた自身を信じてる」
「……セリア」
その言葉は、今の彼にとって残酷なほど優しい。
救いであると同時に、重荷でもある。
「俺は……皆を怖がらせた。
また暴走したらと思うと……」
声が震える。
恐れているのは、他者ではない。
――自分自身。
「だったら、私が止める」
セリアは迷いなく言った。
「あなたが英雄として立てるように。
何度でも支える。
何度でも呼び戻す。
私が――」
言葉が切れる。
彼女の拳が震えている。
「あなたを失うなんて……絶対に嫌だから」
リアンはその手を、そっと包んだ。
熱は確かに繋がっている。
「ありがとう……
俺が立っていられるのは、君のおかげだ」
「一緒に戦おう。
あなたを“守る”ためじゃない。
あなたが“自分を許せる”ように」
彼女の瞳に宿った光は、希望そのものだった。
小さくても、確かで強い光。
⸻
部屋の外には、監視兵たちの視線。
ギルドの内情には、陰謀と疑念。
世界はまだリアンを許していない。
闇は背後から絡みつく。
それでも――
「歩こう。
英雄になるためじゃない。
英雄として……笑える未来のために」
リアンは立ち上がる。
夜の闇を睨み、拳を握りしめ。
セリアが寄り添う。
二人の影は重なり、細いが折れない道を照らしていた。
――英雄の夜が、始まる。
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