泡沫の恋、そののちに
夏木 咲
第1話
恋愛になんて興味ない。そう言ったら嘘になる。だけど、恋だの愛だの盛り上がっていた友人たちが恋人と別れ、好意が憎しみに変わっていくのを見ていると、面倒だなと思う。そんなことを向かいの席に座る仲睦まじいカップルを見ながら考える、大学一回生になる春。電車は定刻通りに走る。穏やかな春の日が車内に差し込み、車窓には緩やかな日常が流れていく昼下がり。そうだ、もし恋をするならばこんな恋がしたい。目的地に着くまでまだまだ時間はかかる。心地よい時の流れに身を任せ、重くなってきた瞼を抗うことなく閉じた。フゼアの香りが鼻腔をくすぐった。
太陽に照らされた真っ白で静かな砂浜に男性が佇んでいた。その男性を一目見るなり胸がドクンと跳ねた。これがいわゆる一目惚れなのだろうか。いや、ここから見えるのは男性のシルエットだけだ。というか、そもそもここはどこなのだろう。来た道もわからなければ帰る道もわからない。今はそんなことどうでもいい。あの男性から目が離せない。心臓がうるさく鳴っている。あなたは誰ですか。どうしてこんなにも惹かれてしまうのですか。男性はおもむろに振り返った。しかし、顔は逆光で見えない。まるで不思議な引力がはたらいているように、己の意思はここには存在しないかのように、私は男性へと一歩踏み出した。それと同時に、私はこれは夢なのだと気がついた。
ぼんやりと意識が浮上してきた。目を開いてトレインビジョンを確認する。目的の駅まであと一駅だ。荷物棚にあげた大きいリュックを下ろす。しばらくするとアナウンスと共にドアが開いた。ホームに降り、深呼吸をする。長旅だった。今日からここが私の最寄り駅となる。心臓はまだうるさく鳴っている。
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