『冒険者ギルドへようこそ(最強剣士の育て方) ~全ての謎を解き明かし、全てを救う物語~』

此木、大(しばいぬ)@毎日連載中

第一章 迷星の時量剣師

第1話 天使の誘い

見下ろすと、端正だが白すぎる顔の青年が見える。

白いシーツが敷かれたベッドの上で横になっている彼は天使の様に真っ白だ。

真っ白で清潔な、それでいて硬い部屋。

そこは病院の一室だった。

静かに目を閉じている男の顔を覗き込んでいるのは俺だけでは無い。


「颯竢…私達より先に逝ってしまうなんて…」

化粧っ気の無い女がポツリと呟いた。

女の顔は、その視線の先で横になっている青年に似ていた。

年齢は42だが、見た目は20代後半くらいに見える。

若作りなのは恐らく長年続けてきた剣術の訓練の賜物だろう。

彼女は「真田流抜刀術」八代目宗主であり、彼女に斬れない物はないと言われる程の腕の持ち主だった。


「如何に腕を磨こうとも病には抗えないものか…」

上半身の筋肉が異常に盛り上がった壮年の男は心苦しそうにそう言うと首を横に振った。

雄々しくつり上がった白い眉と、オールバックに撫で付けられた豊かな白髪を持つ強面の男もまた若作りではあるが、年齢は48で「犬上破刀流」27代目宗主だ。

戦国時代から続く武士の家系で、特に24代目は大戦中、職業軍人として最前線まで攻め込んで戦っていた。

時代ごとにアップグレードしていった「犬上破刀流」という戦闘術は剣術、槍術、体術、弓術の様な歴史のある技術の他にも、銃の様な近代的な武器の扱いにも貪欲に取り組んで来たのが特徴だった。


この物騒な男女は二人とも俺の師匠であり、両親でもあった。


「颯竢を失った今、犬上破刀流の失伝は確定した…息子よ…」

男は力なくうなだれてそれだけ言うと足元に目をやった。

男の哀しみは息子との別れが原因なのか、永年続いた流派の失伝が理由なのか、俺には推測する事が出来なかった。

犬上破刀流は一子相伝であり、一人息子を失った今、次の伝承者を育てる事は不可能だろう。


「私は真田流抜刀術の看板を今日を限りに下ろす事にするわ…」

女は青年の顔を見つめて力無く呟いた。

人数は多くは無いが、門下生を擁する「真田流抜刀術」は「俺」がいなくても存続は可能だろう。


男と女は青年が横になっているベッドを挾むように向かい合っている。

「お前にはまだ希望が残っているだろう」

男は無骨な拳を白くなるほど握る締めて女の顔を見た。

「私にとって颯竢だけが希望だったわ」

女の目から涙が溢れた。


俺はふたりのやりとりを黙って見ていた。

黙っている事しかできなかったのだ。


俺は流行り病で倒れた。

何の前触れも無く突然呼吸困難となり倒れた所までは覚えている。

恐らくそれは昨晩の事で、気付けばこの状況だった。


最初はいわゆる「幽体離脱」かと思っていたが、状況は思ったより深刻なようだ。

「やっぱり俺は死んだのだろうか」

ぼんやりとした意識の中、そんな事を考えていた。


突然視界が揺らめいた。

意識も記憶も徐々に薄れていく。

自分と世界の境界線が急速に曖昧になり、人の形を維持する事も出来なくなってきた。

気が付けば手も足もない球形になっていた。

これが人魂という状態なのか…



目がなくなったのか周囲に何も見えない。

薄暗い闇が広がっていた。

いや、遥か遠くに光の筋が見える。

一つ一つはとても細い光の筋だが無数に集まった光の奔流はとても雄々しく見えた。


目の前をフワフワとした何かが横切った。

白く輝くソレは俺の周りを何度か回るとフワリと舞い上がった。

世界に地面は無く、俺には体も無い。

それでも、その白い何かが上昇した事が分かった。


「付いて来いって言っているのか?」

誘われている様な気がして白い何かに近付こうとした。

身体がフワリと浮かぶ感覚を覚えた。

それは今までに経験のない感覚だった。

「このまま付いて行けば天国に行けるのだろうか?」


吸い寄せられる様に白い何かに付いて行く。

もしかしてコレは天使なのだろうか?

ふと気が付けば俺以外にも数十個の魂がその天使に従い空を目指していた。



徐々にスピードが上がって行く。

付いて行くのがやっとだった。


やがて俺達以外の物は何も見えなくなっていた。

光の奔流も、もう見えない。


アレは星の生命エネルギーだったのではないだろうか?

もしかすると取り返しの付かない事をしてしまったのでは無いか?


今この天使を見失ったら本当に迷子になってしまう。

必死になって天使の後を追った。


まるで暗幕を突き抜けたように、突然猛烈な光に包まれた。


そして意識はそこで途切れた。


─────────────────────────────────────


あとがき


皆様、はじめまして。

作者の「此木、大(しばいぬ)」です。

この度は、数ある作品の中から本作の第一話

最後までお付き合いいただき誠に有難うございます。


これからリアル路線ファンタジーとして

進めて参りますので末永くお付き合い頂けると幸いです。


当作品ではイラストも不定期に更新していきますのでよろしくお願いします。


挿絵・イメージイラストはこちら(近況ノート)

https://kakuyomu.jp/users/soushi_inugami/news

​↑もし良かったら、キャラクターのイメージ画像を見ながら読んでみてくださいね!


しばらくの間

毎朝1話づつ投稿させていただきます。

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