僕の生きている意味ってなんだろう?
夕日ゆうや
第1話 なんで生まれてきたのだろう。
僕はなんで生まれてきたのだろう。
母からは「気持ち良くて生んだ訳じゃないんだからね」と言われた。
こっちが聞きもしないで。
まるで言い訳のように。
全然説得力がなかった。
僕は気持ち良さの上で生まれてきたのだろう。
そう結論づけてしまった。
そんな中学生だった。
きっと当時の知人・友人には理解のしてもらえない話だろう。
だって学校ではお坊ちゃまとして扱われていたのだから。
僕の母は統合失調症だった。
そんな母は僕を、そして兄を、父を傷つけた。
当時は本当に父が悪いのだとすり込まれていたが、今となっては分からない。
父を庇う兄を嫌い、父を嫌う――そんな母親が父から嫌われるのは当然だとも思う。一方で父が母を見捨てるのを見てきた。
昔、大学生の頃、僕と数時間だけ付き合っていた人がいる。
彼女に言わせると、僕の両親が離婚していることを信じられないと言っていた。
僕だって信じたくはなかった。
その彼女には暴言を吐かれ、すぐに恋心なんて冷めてしまった。
ともあれ、母が医療保護入院になる前日、僕は「もう耐えられない」と兄に漏らしていたのだ。
それからすぐにトントン拍子で母の入院、母との離婚が決まった。
離婚する時に、父か、母か。そんな選択肢はなかった。
話は若干戻るが、僕には欲しいといって飼っていたわんこがいる。
シェットランドシープドッグだ。
気品溢れる姿と、かわいらしさがあって僕は一目惚れに近かった。
わんこは小学六年の時に事故で頭を強くうち、一時期はお医者さんから安楽死を薦められた。そうでなければ後遺症が残ると言われた。
僕はその後遺症がどれだけ悲惨なことなのか、知らなかった。
母はそれ以来、わんこは爆弾を抱えている、なんて言った。
その言い方がショックだった。
まるでわんこが悪いみたいなそんな言い方が気に食わなかった。
高校に入ると僕はドンドンとしゃべらなくなっていった。
怖かった。
母を追いだした父が、病気で壊れていく母が。
下手なことを言えば、自分が傷つく。
そんな気がした。
そんなある日、同級生が「ペットボトルをとって」と言った。
僕はとって渡した……が、「汚いものをもつような」と言っていた。
僕には理解できなかったが、物の持ち方一つで人は判断すると後で知った。
その同級生からは酷く冷たい視線を浴びたがそんなことはどうでもいい。
ああ。そうか。こんな単純な理由で人はいじめてしまうのだろう。
物の持ち方なんて、両親から教わってはいない。
教わってはいないものをどうして知り得ようか。
閉ざした僕の心では理解しがたかった。
高校生の時、兄に胸ぐらをつかまれ、壁に叩きつけられ、宙ぶらりんのまま「さっさとやれ」と脅された。
僕はひどくショックだった。
兄にも嫌われているのだと実感した。
僕のいていい場所はどこにあるのだろう。
休まることのない日々。
わんこの後遺症が拍車をかけ、僕は精神的に参っていた。
そんなある日、友達と思っていた相手が、僕を罵りだした。
きっかけは車に乗せてくれなかった……みたいで、よく分からなかった。
家族とのすれ違い、友人との軋轢。
僕は疲弊し、嘔吐した。
そのあと十日ほど嘔吐し続け、体重は七日間で十キロ痩せた。
お医者さんに連れていってくれたのは兄だったが、嫌々そうな顔は今でも忘れられない。
お医者さんの話を聞く寸前で、兄は離れていった。医者の話を聞こうともしなかった。
お医者さんは精神的ストレスと言い吐き気止め入りの点滴と吐き気止めの錠剤をもらった。
大学生になり、しゃべることのリスクを覚えつつも、もう休みたい気持ちになり、しゃべるようにした。
友達はたくさんできて、勉強も楽しかった。
でも、あがり症な僕は自己紹介でとちった。まあ、それは大学時に限ったことではないが。それから話をするということに抵抗がまだあった。
そんな僕を見て、嫌う人、好む人とが別れた。
「なんでしゃべらないの?」
そう思う人がいても不思議ではないだろう。
でもどうか分かって欲しい。
しゃべるのが怖い人もいることを――。
僕が生まれてきた意味はなんだったのだろう。
大学一年の時にKさんという異性が僕に話しかけてきた。でも僕はしゃべるのが苦手でうまく返せなかった。それからKさんは休むようになった。
そんなKさんだが、男子に告白されて、A君に相談したらしい。
A君は「好きな人がいなければ付き合えばいい」だった。
Kさんはその男子と付き合い、僕はフラれた訳である。
大学生三年の後半にもなると各研究室の先生にお世話になる。
主体性のない、かつ好きな分野が多い僕はテキトーなところに入った。
Kさんと同じところに入るのは危ないと思い、慎重に選びはした。
異性のOさんと一緒の先生でお世話になった。
Oさんは僕に興味がある感じだったが、実際二人っきりになると、他の男子の話ばかりした。
その気がないと思った僕は他の子と話してみた。
探りを入れるためでもあった。
そしたら、Oさんは僕にフラれ、研究室の先輩と付き合いだした。
僕が悪いらしい。
Oさんには告白したものの、「ごめんなさい」とフラれたのに、だ。
▽
それからしばらくしてKさんが僕にアプローチをかけてきた。
僕は何度か当たり障りのない会話をしたり「純粋に恋がしたい」と打ち明けた。
Kさんは付き合っている彼氏がいて、二年の時に浮気をして、そしてKさんが暴力的なのを聞いた。
もしKさんに気持ちがあるなら、僕と付き合ってくれるかな、という意味を込めて恋がしたい宣言をした。
だが、このあとずっとKさんは付き合い続けていた。
なおKさん曰く、僕が講義で隣の席に座ったから興味を持ったらしい。
でも隣には座っていない、少なくとも二席は空いていた。
それに前の方に座ったのは授業に集中したいからだ。
至って真面目な理由である。
そんなKさんから言わせると、僕はOさんにもちょっかいを出した浮気者らしい。
とある日。
僕はKさんと口論になり、ガンダムSEEDを友達に紹介したことを散々罵倒してきた。
Kさん曰く「好きな人のオススメしたものはみたくなるでしょう」
それは分かる。
ガンダムSEEDをみた感想が「人殺し。人格破壊者。完璧主義」らしい。
僕には到底理解ができなかった。
ガンダムSEEDの主人公は戦争を嫌い、人を死なせてしまって苦悩し、最後はみんなのために戦って傷ついた。
それを罵倒する気にはなれない。
加えてKさんはガンダムSEEDのフレイ・アルスターというワガママで周りがよく見えていないキャラに感情移入したらしく、なんで嫌われているのか理解できなかったらしい。
そのKさんと付き合ったのは、その暴言を吐く前だった。
Kさんは彼氏と付き合っていて、セッ〇スが気持ち良かっただの、人格破壊者とか僕を罵るだの、してきたので、その日の内に別れを告げた……。
が翌日になり、僕は▽よりも後の記憶が飛んでいた。
記憶喪失だ。
だから僕の中ではフラれたままだし、付き合っている訳でもなかった。
だが、そんな彼女はまたも罵倒してきたのだ。
それは思い出させたくてやったらしいが、思い出したくない記憶を呼び覚まそうとする彼女はいたって可笑しかった。
それから研究室の中で孤立していく僕を、誰も認めてはくれなかった。
全部、優柔不断な僕が悪いらしい。
理解できなかった。
※
そのまま、大学を卒業。
卒業後、僕は疲れた身体を癒やそうと、アルコールに溺れ、毎日を無意味な日で過ごした。
二年ほど経って、Kさんから連絡が入り、またも罵倒され、自分の行いを正しいと信じていた。
記憶が戻れば、付き合えるとでも思ったのだろう。
僕は言い返し、相手に「もういい」とまで言わせた。
さすがに腹が立っていたのだろう。
彼女が電話を最後に、死んだこともニュースで知った。
この後、数年間に渡り、▽、※以下の出来事を忘れていた。
この電話があった時に、兄にそのことを聞かれていて、父にもすぐに知られることとなった。
しばらくして「週刊誌に《人を怒らせればメンタルは回復する》」という頭の悪い記事を出していた人がいたらしく、僕は憤慨した。
それを聞いていた父と兄は僕が嘘を吐いていると思ったらしい。記憶は失っていないと。
兄と父は※以下の文章でしかしらないから、僕を悪と決め込んでいたらしい。
それからしばらくして、僕は胸が痛いと言った。
父は病院行くか? と聞いてきたが、母と同じ精神科にかかるのが怖かった。
また父に見捨てられるんじゃないか、と。
それに一日だけだったので我慢できた。
すると父は「やっぱり嘘を吐いているからか?」と言ってきた。
もう僕には味方なんていなかった。
そのあと、ニュースを見て怒ったこともあった。それから父と兄はこっちの気持ちを理解してくれるようになってきた。
僕はなんで生まれてきたのだろう。
僕が大学を卒業して数年。
▽の部分を思い出し、
胸の痛みや吐き気、食欲不振など、様々なメンタルを崩した体調不良が見られた。
僕は心療内科の病院に通うことになり、どうにかバイトをするまでに至った。
だが、とある日、さらに鮮明に思い出してきて、体調不良でバイトを辞めることになった。
冬の寒い日のことである。
▽も※も思い出した日。
僕は精神を完全に病んでいた。
家族を敵視し、監視され、監禁されている。
そう思った僕は二階の窓から飛び降りた。
結果、背骨の圧縮骨折。左肩の骨折。
そのまま医療保護入院になり、僕の闘病生活は始まった。
僕が生きてこられたのは何故だろう?
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