学校で成績優秀生の完璧超人の義妹が俺に隠れて、VTuberとしてネトゲ配信してたんだが

沢田美

第1話 いつもの日常

「ここはこうすれば、ほら簡単に――ってはあ?! なんでそうなるのよ! 私の威厳を返せ! イゲーン!!」


 イヤホンから聞こえるさすまたの悲痛な叫びに、俺は思わず吹き出しそうになった。

 

 相変わらず面白いな、この人……妹が見てたのをきっかけに見始めたけど、今じゃすっかりハマってる。ボイスチェンジャーで変えた声が、ゲームオーバーの度に裏返るのが堪らない。


 こんな時間からVTuberの配信見てる場合じゃないんだけどな。


「ちょっと、そこ邪魔なんだけど」


 背後から冷たい声が降ってきた。


「あ、悪い」


 慌てて道を譲る。立っていたのは俺の妹――涼香だった。いつも通りの仏頂面で、俺を見る目は完全に汚物を見るそれだ。


「また変なエロ動画でも見てんの? キモイよ」


「どうしてそうなる。これはVTuberのゲーム配信だっつーの。お前にはこのVTuberの魅力が分からないようだな」


「……はあ」


 涼香は深いため息をついた。


「お兄ちゃん、それだから私よりも学力低いし、見た目も悪いし、モテないし、恋人もいないんだよ」


 ぐさぐさと心に刺さる言葉のナイフ。相変わらず容赦ない。


 京極涼香(きょうごく・すずか)―成績優秀、容姿端麗、人望あり、生徒会役員。完璧超人な俺の自慢の妹だ。

 一方の俺、京極健星(きょうごく・けんせい)――成績はそこそこ優秀、容姿は並み、友達少数。わが妹に嫌悪される、自慢の兄である【悪い意味で】。


「それじゃあ、私先に行くから。遅刻しないでよ」


「はいはい、分かってるよ」


 涼香が足早に玄関へ消えていく。俺はその背中を見送りながら、再びスマホに視線を落とした。


 よし、今日こそはさすまたの配信開始に間に合うぞ。


 アプリを開きながら歩いていると、学校前の交差点で見慣れた姿を見つけた。


「あ、おはよ! 京極くん」


「おはよう、佳澄」


 不知火佳澄(しらぬい・かすみ)――俺の幼馴染で、保育園からの付き合いだ。ふんわりとした雰囲気の女の子で、いつもマイペース。癒し系というやつだ。


「さっき妹さん見かけたよ。追いかけなくていいの?」


「あいつは俺のこと嫌いみたいだからいいよ……」


「え〜、私はそうは見えないかな〜?」


「いや、絶対嫌われてる。俺が風呂に入れば『なに私より早く入ってんの? 死ねよ』、俺がテレビを見れば『お兄ちゃんが見る番組、センスないよね。死ねばいいのに』。普通に顔を合わせただけで『死ね』だぞ?」


「うーん、それは確かに大変だね〜」


 佳澄は首を傾げながら、困ったように笑う。


「まぁ、俺にはさすまたという神VTuberがいるから、特に傷ついたりしないけどな!」


「うーん、それって俗に言う強がり? かな」


 図星を突かれて、俺は何も言い返せなかった。


 ちょうどその時、信号が青に変わる。


「じゃ、行こっか」


「ああ」


 俺たちは横断歩道を渡り、学校へと向かった。


 ※


 校門をくぐれば早速と言わんばかりに、妹の涼香が周囲の生徒に囲まれていた。

 家では俺に冷たい妹だが、外では完璧な才女として振る舞っている。

 なんだよそれ、どこかの令嬢かよ。

 周りの生徒らは親しげに涼香と話している。

 無限に慕われ続けている妹と、それに値しない俺……相変わらず劣等感が心にくるな。


「お! 健星じゃねぇか!」


 遠くから駆け寄ってきたのは、俺の数少ない友達の1人である桐原優作(きりはら・ゆうさく)だった。

 優作は俺を見るなり、前方でファンに囲まれている涼香の方に視線を向ける。


「相変わらず、お前の妹スゲェな。ありゃほとんどがファンクラブの連中とかだろ」


「……だろうな、アイツは俺より出来てる――いや出来すぎた妹だからな」


「――てか! それより昨日のさすまたの配信見たか!?」


「ああ見た! やっぱり面白かった。俺もさすまたみたいな友達が欲しいぜ」


 俺と優作がさすまたの話題に熱中していた時、隣にいた不知火は苦笑いをしていた。


「相変わらず2人は仲がいいね。私もさすまたさん見てみようかな」


 不知火がその言葉を漏らした時、俺は思わず声を上げた。


「そうかそうか! じゃあ今日の昼休みに俺のオススメ配信を全部教えてやるよ!」


「あはは、そこまで熱心にならなくていいよ京極くん」


 ※ ※ ※


 教室に入ると、窓際の席に座る涼香と目が合った。涼香はすぐに視線を逸らし、友人と談笑し始める。

 

 相変わらずだな……。

 

 授業が始まり、昼休みになり、午後の授業も淡々と過ぎていく。体育の時間、俺がシュートを決めた時、ふと見ると女子たちの中に涼香の姿があった。こっちを見ていた気がしたが、すぐに友人と話し始める。

 

 ……見てた、のか?

 

 放課後、廊下で生徒会室から出てきた涼香とすれ違った。一瞬、目が合う。でも、お互い何も言わずに、そのまますれ違った。

 いつも通りの、俺たちだ。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」、「☆」をなどしていただけると嬉しいです。

応援が次回更新の励みになります!


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る