第9話 フィジカルマジック

「あいつだニャ……」


 工房の扉を少しだけ開け中の様子を伺う。


「あれは……でっかいですね」


「でっかいんだニャ」


 大型トラックくらいデカいオレンジ色の塊。


 巨大化し過ぎて本人も動きずらいのか、ズモモ……と体を引き摺りながら工房の中をゆっくりと徘徊していた。


(色はオレンジ、そしてあのデカさ……)


 生息地がヒノテラスであることも兼ねて考えると、すぐに思い当たるようなスライムはいない。


「やはり変異種か……」


「や、ヤバイ奴なのニャ……? 」


「相手の能力が分からない以上なんとも……」


「私たちであれば問題ありませんマスター」


「ニャ!? 誰だニャ! 」


「あーえっと、今のは俺の武器が喋ったっす……」


「朧と申します」


「ほ、ホントに武器が喋ったニャ……! 」


 目を輝かせ、ワクワクした表情でこちらににじり寄ってくるミャーさん。


 このままではまた質問攻めにあいそうなので、急いで仕事に取り掛かることにする。


「ストップですミャーさん。 これから俺たちがアイツと戦うんで、ミャーさんは安全な場所まで離れててください」


「うう、分かったニャ。 討伐、がんばってくれニャ! 」


「うっす」






 ミャーさんが自宅のほうへ退避したのを確認し、俺は刀形態の朧を構え工房内へ侵入する。


(とりあえず、攻めてみるしかない)


 これまでまともな戦闘経験を積んでこなかった俺は、ジョブレベルが上がっていないので使える戦闘スキルは数種類しかない。


「ムーンエッジ!! 」


 今習得している中で唯一の中距離攻撃である、ムーンエッジを放てば。


 巨大なスライムの体は上下で真っ二つに裂けた。


「ボヨヨ~!? 」


「やったか……! 」


「いえ、まだです」


 ストームエイプと同じようにバッサリと両断し、撃破したと思ったのも束の間。


 崩れたスライムの体がブクブクと膨張し、弾ける。


「ポヨ~! 」


「ポヨヨ~! 」


「ポヨ? 」


「なっ、分裂した!? 」


 爆散した巨大スライムは、小型犬サイズのミニスライムに分裂してしまった。


「ポヨ~! 」


「見てくださいマスター。 あの小さなスライムたち、また集まっていきますよ」


「ボヨヨ~」


「嘘だろ……小さいのがくっついて、元に戻っちまった」


 その後、何度もムーンエッジを放つも。


 巨大スライムを倒すと小型スライムに分裂し、小型スライムが合体して巨大スライムに戻ってしまう。


「ダメだこれじゃあ、無限ループかよ……」


「解析したところ。 どうやら、分裂した後のスライムをまとめて同時に倒す必要があるようです」


「マジかよ。 俺、範囲攻撃のスキルなんて覚えてないぞ」


「問題ありません。 ここは、フィジカルな魔法で一網打尽にしましょう」


「フィジカルな魔法……? 」


 意味不明の言葉を作り出した朧に困惑するも。


 このままではあのどでかいスライムを倒せないので彼女の提案に乗ることにする。


「まずはもう一度ムーンエッジです」


「おう。 ムーンエッジ!! 」


「ボヨ~!? 」


 動きが遅いせいでスライムに反撃される心配はないが。


 やはりムーンエッジで切り裂いても小さなスライムに分裂してしまうだけだ。


「ここで変形。 朧ちゃんマジカルステッキモード! 」


「うおっ、杖になった! 」


「今です、フィジカルマジックを発動するのです」


「いや俺、魔法なんか使えないぞ!? 」


「問答無用です。 フィジカルサンダー!!!! 」


「ポヨ? 」


 合体しようと一か所に集まっていたスライムの頭上に、ズダダダーンと雷が落ちる。


「ポヨヨ~!? 」


「ポヨー!? 」


「な、なんか出たー!? 」


 雷に打たれ、全身丸焦げになったスライムたちは。


 合体することなく灰になった。


「なんだ、今の……魔法? え? 」


「私たちの勝利です。 ブイ」

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