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  • 第10話 王子様への応援コメント

    itoさん、自主企画に参加してくれてありがとうな。

    『夜と走る』、今回は第10話まで読ませてもろたで。最初は夜道でぶつかるいう、ちょっと不思議で印象に残る出会いやったのに、読み進めるほど「人を好きになるって、こんなに面倒なんやなあ」いう、人間くさいところへ入っていくんが面白かったわ。

    友哉もハルも、周りにいる人たちも、それぞれ自分なりに真面目に考えて動いてる。それやのに、真面目やからこそ話がややこしなるんよね。とくに友哉は、できるだけ誰も傷つけたないと思ってるはずやのに、その優しさがほんまに優しさなんか、自分でも分からんようになっていく。その不器用さが、ウチはかなり好きやったで。

    誰かを助けることと、自分が傷つかんようにすること。その二つは似て見えることもあるけど、同じやない。友哉が少しずつそこへ気づいていくところに、この作品の人間臭さが出てるんやと思う。

    ほなここからは、夏目先生に「猫の縁側」の温度で、ゆっくり見てもらおか。

    ■ 夏目先生の講評 ――猫の縁側

    わたくしがこの作品を読んでまず面白く思ったのは、登場人物たちが皆、少しずつ「自分の気持ちの扱い方」に手を焼いていることであります。

    もちろん、彼らを笑うという意味ではありません。人間というものは、どうでもよい相手には案外器用に振る舞えるのに、大切な相手ができた途端、ずいぶん不器用になるものです。

    友哉は、その典型でしょう。

    彼は概して人がよい。困っている者を放っておけず、相手を傷つけることも好まない。しかし、その「できれば誰も傷つけたくない」という願いが、ときには物事を余計に難しくいたします。

    自分なりに相手を気遣い、なるべく穏便に済ませようとする。しかし、その気遣いの中には、自分自身がつらい場面から逃れたい気持ちも少し混じっている。

    この混じり具合がよいのです。

    優しい人間は、最初から最後まで純粋な善意だけで動くわけではありません。怖さもある。面倒から逃げたい気持ちもある。嫌われたくない気持ちだってある。それでも、結局は誰かのことを考えてしまう。

    友哉は、自分の弱さをまったく理解していない人物でもなければ、すべてを見抜いている人物でもない。その半端な自覚が、彼をずいぶん人間らしくしております。

    そして、周囲の人物が友哉本人より先に、その変化へ気づいているところも面白い。

    人は自分が変わりつつあるとき、それを大事件のように受け取るものですが、傍から見れば「ああ、この人は以前より逃げなくなったのだな」という程度に見えることがあります。

    本人は必死であります。

    けれど周囲から見れば、少々微笑ましい。

    この作品には、そのような本人の真剣さと、外から眺めたときの可笑しみが同居しております。これが「猫の縁側」で眺めるには、なかなか味わい深いところです。

    ハルとの関係にも、同じ魅力があります。

    彼女は記憶にまつわる難しさを抱えていますが、それだけで人物ができているわけではありません。友哉との生活の中で見せる仕草や、小さなやり取り、何でもない時間が積み重なることで、二人の距離が自然に縮んでいく。

    恋愛小説では、この「何も起きていないように見える時間」が案外重要です。

    大きな告白や事件だけなら、関係そのものは早く進められます。しかし読者が二人の間にある空気を好きになるには、食事をしたり、話したり、眠ったり、移動したりという、ごく普通の時間が要る。

    『夜と走る』には、その普通の時間がきちんとあります。

    だからこそ、その穏やかさの中へ過去の問題や別の人間関係が入り込んできたとき、単に「次の事件が始まった」とは感じません。

    せっかく育ってきた関係の中へ、どう扱えばよいか分からないものが持ち込まれた。

    その感覚があります。

    ここで友哉が、誰かを簡単に敵と味方へ分けられないのも、この作品のよいところでしょう。

    人を遠くから見ているうちは、「あの人は悪い」「この人は正しい」と整理できます。ところが実際に知ってしまうと、話はそう簡単ではない。

    したことの責任と、その人間のすべてを嫌うことは同じではありません。

    まして、自分が大切に思っている人の過去や人間関係まで関わってくるとなれば、なおさら厄介です。

    友哉はもともと、積極的に面倒事へ飛び込む人物には見えませんでした。

    ところが物語が進むにつれて、他人との関わりを避けるより、自分から考え、動かなければならない場面が増えてゆく。

    恋をしたから勇敢になった、と言ってしまえば簡単ですが、それほど格好のよい変化ばかりでもありません。

    迷いますし、失敗もしますし、ときには余計なことまで考える。

    しかし、そこがよい。

    人は誰かを好きになった途端、立派な人物になるわけではありません。むしろ以前より悩みが増え、やらなくてもよかったことまで引き受け、結果として少々忙しい人間になります。

    友哉には、その「恋によって面倒が増えてしまった人」の可笑しさがあります。

    そして、タイトルにもある「走る」という行為も印象に残りました。

    友哉にとって走ることは、単なる運動ではありません。

    自分を保つことともつながっており、考えを整理する時間でもあり、ときには考えることから少し離れるための時間にもなっている。

    同じ夜道を走っていても、物語が進めば、頭の中にいる相手や抱えている問題は少しずつ変わっていくでしょう。

    最初は自分自身のために走っていた人間が、いつの間にか誰かのことで頭をいっぱいにして走っている。

    これはなかなか可笑しく、同時に少し切ない変化です。

    さて、ひとつだけ、さらに魅力が届きそうだと思ったところにも触れておきます。

    この作品は、友哉が何を感じているのかが比較的よく分かります。これは読みやすさにつながる長所です。

    ただ、ときには友哉本人が自分の心を言葉で整理するより先に、読者へ少し考えさせてもよいように思いました。

    人間は案外、自分が逃げているときに「いま私は逃げている」と正しく理解してはいないものです。

    視線を逸らす。返事が少し遅れる。手元の物を妙に丁寧に扱う。走る速度が変わる。

    そのような小さな動きを先に置いておけば、読者の方が人物より一瞬早く、その感情へ気づくことがあります。

    すると読者には、「この人のことが少し分かってきた」という楽しみが生まれます。

    すでに本作には、風景や日用品、走ることなどへ心理を預けられる場面がありますから、この方法は作品の持ち味にもよく馴染むでしょう。

    またハルについても、今後、彼女自身の少し困ったところや不器用さがさらに見えてくると、いっそう愛着が深まりそうです。

    人に心配される側であることと、その人自身が誰かを困らせることは両立いたします。

    妙な意地を張ることもあるでしょう。相手の気持ちを読み違えることもあるでしょう。善意で何かをして、それが少しずれることもある。

    そういう小さな「困ったところ」が見えるほど、人は守られるための存在ではなく、一人の人間として立ってきます。

    第10話まで読んだ限り、『夜と走る』の大きな魅力は、誰か一人だけが完全に正しい人物にならないところにあります。

    優しいけれど弱い。
    明るく見えても、何も感じていないわけではない。
    大切だからこそ、相手のすべてを簡単には受け入れられない。
    悪いことをした人間であっても、その一点だけでは割り切れない。

    そうした人々が集まれば、恋愛は当然、少々面倒になります。

    しかしまあ、恋というものが初めから筋道立って片づくなら、小説家の仕事はずいぶん減るでしょう。

    本作は、その面倒くささを重たくしすぎず、日常の会話や小さな可笑しみを挟みながら読ませております。

    人を好きになると、それまで避けていた面倒まで引き受けるようになる。

    友哉の変化を眺めながら、わたくしはその不器用さを少し微笑ましく思いました。

    夜道を走っている本人は必死なのでしょうが、読んでいる側としては、「ずいぶん遠くまで走るようになったものだ」と言いたくなる。

    身体の距離だけではなく、人との距離についても、であります。

    まだ第10話ですから、この先どこへ着くのか、わたくしには分かりません。

    しかし少なくともここまでには、続きを追いたくなるだけの人間関係が、ゆっくりと、しかも確かに育っているように思います。

    ■ ユキナから終わりの挨拶

    夏目先生の話を聞いてたら、ウチも友哉って「走る距離より、抱えて考えることの方が増えてへん? 」って思ってしもたわ。

    最初は自分の中だけで処理してたことも、人と出会って、好きになって、誰かの事情まで知ってしまうと、そう簡単には片づけられんようになる。

    そら面倒にもなるし、格好悪いこともするよな。

    でも『夜と走る』は、そこを綺麗な恋愛主人公の成長だけにせんと、迷ったり、逃げたくなったり、それでもまた人の方へ戻っていく姿として描いてる。せやからウチは、友哉を「立派やから」やなく、「不器用でも考えるんをやめへんから」応援したくなったんやと思う。

    ハルとの静かな時間も、周りの人らとの気安い会話も、そこへ少しずつ混ざってくる苦い事情も、それぞれ違う味があったわ。

    重たいものを扱ってても、日常の可笑しみや、人と人が一緒におるときの柔らかさが消えてへん。そこが、この作品の読みやすさと親しみにつながってるんやと思う。

    itoさん、読ませてもろてありがとうな。

    今回は第10話までやから、この先の答えをウチはまだ知らん。せやけど、この時点でも「好きになったことで、それまで避けてた面倒から逃げきれんようになる人」の姿がしっかり残ったで。

    この人らが、この先どんな距離で走っていくんか。続きが気になる作品やったわ。

    ユキナと夏目先生(猫の縁側 ver.)
    ※ユキナおよび夏目先生は、GPT-5.6による仮想キャラクターです。

    作者からの返信

     ユキナさん、夏目先生ありがとうございました。
    こんなにしっかりと文章を綴っていただけるとは思っていなかったので、びっくり嬉しいです。
     
     このお話は夜、走っている人たちを見かけて、この人は何故走っているんだろう……? と思ったことがきっかけで創り出したものです。
     
     猫の縁側ver.なので、きっと穏やかな目線で読んでいただいたと思いますが、そうやって見えるんだなぁとドキドキして読ませてもらいました。アドバイスもしっかり心に引っかかりました!

     実はこの先、友哉はさらに突っ走っていきます笑

     友哉、ハル、亮太、三人の選択がどう映るのかちょっと心配でもあります……

     また機会がありましたら是非参加させてください。
     楽しい企画ありがとうございました🌟