【俺だけの秘密】学校一地味な幼馴染、メガネを外すと甘々独占欲の塊になる件

静内(しずない)@救済のダークフルード

第1話 俺だけの天使の充電

「んふふ。ただいま、優吾。待って、優吾の顔、ちゃんと充電させて?」


 広瀬唯(ひろせゆい)。

 この甘い囁きと、上目遣いの潤んだ瞳こそが、俺が最も愛してやまない彼女の真の姿だ。


 だが、この愛らしい光景を知る者は、世界で俺ただ一人――隣の席の俺でさえ、学校ではその事実を隠し続けている。


 学校での彼女


 学校での唯は、控えめに言っても「地味」だ。


 顔の半分を覆い隠す特大の黒縁メガネ。膝下までぴっちり伸びた長いスカート。常に伏し目がちで、口を開いても、その声は蚊の鳴くように小さい。休み時間には分厚い文庫本を盾に、誰の視線も寄せ付けない鉄壁の「地味子」を演じている。


「広瀬さんってさ、陰キャを極めてるよな」

「優吾は幼馴染だから大変だろ」


 そんな心無い言葉を聞くたび、ちょっと悲しい気持ちになる。

 お前らが知っているのは、唯の退屈な張りぼてにすぎない。お前らが「地味」と切り捨てたその黒縁メガネの下には、俺だけを愛し、俺にだけ甘える、世界で一番可愛い彼女が隠れているのだから。


 ――この地味で、内気で、常に俯いている広瀬唯が、俺にとってどれほど甘々。どれほどラブラブな天使に変わるのか、お前らは一生知ることはないんだ。


 


 今日もまた、クラスの人気者、田辺に声をかけられ、唯は完璧な「地味子」の演技を披露した。教室を出て、人気のない路地に入った瞬間、唯は深く、長い息を吐き出した。


「……はぁ。疲れた」


 そして、その瞬間、彼女は変身を遂げる。


 カツン、と小さな音を立てて立ち止まると、唯は儀式のように、右手を上げて黒縁メガネをクイッと外す。


 分厚いレンズの檻から解放された瞳は、驚くほど大きく、潤んだチョコレート色。光を受けてキラキラと輝き、俺だけをまっすぐに見つめる。フレームに隠されていた鼻筋がスッと現れ、愛らしい顔立ちが露わになった。


 次に、長すぎるスカートのウエスト部分を手際よく折り返し、膝丈に調整する。地味で固い印象だった制服が、一瞬で華奢で可愛らしいシルエットに変わる。


「ふぅ……これで、唯(わたし)のスイッチはオンだね」


 俺に向かって振り向いた唯は、花が咲くような満面の笑みを浮かべた。

 この笑顔こそが、俺だけの特権。


「お疲れ」

「んふふ。ただいま、優吾。待って、優吾の顔、ちゃんと充電させて?」


 唯は、目をきゅっと閉じて俺の胸元に飛び込んできた。「んー!」と小さな声で甘えながら、俺の頬に両手を添え、親指で優しく撫でる。そして、潤んだ大きな瞳で、上目遣いに俺を見つめる。


「優吾の顔を見ないと、地味子モードの疲れが取れないんだもん」

「はいはい。お疲れ様、我が家の天使様は」


 俺は唯の腰に手を回し、そのまま抱き寄せる。細い体がすっぽり収まり、甘いシャンプーの香りが俺の心を溶かす。


「ん……いい匂い」

 唯はそう囁き、俺の制服の胸ポケットに顔を埋めた。


「唯が優吾以外の男の子と話すなんて、業務連絡くらいしかないんだから」


 彼女は顔を上げ、メガネのない可愛い瞳を細めて、ニヤリと笑った。

 そして、周囲に誰もいないことを確認すると、俺の唇に、ちゅ、と短い、確かな愛のキスを落とした。


 地味子で無口な広瀬唯は、俺だけの、甘々でわがままなヒロインに変わる。

 この秘密のギャップが、俺たちの恋を誰にも侵されない極上に甘いものにしているのだ。


「んー、今日のテスト、数学がちょっと難しかったなー」

「唯(わたし)もだよ。特に積分の最後の問題、引っかかっちゃった」


 俺と唯は、駅から徒歩十分のマンションで、同じ階に住んでいる。家に入ると、唯はいつも通り、リビングに直行し、制服のままソファにダイブした。


「あ、そうだ、優吾。冷蔵庫に、唯が作ったプリンがあるよ。今日のおやつ!」

「マジか! ありがと!」


 唯が作ってくれる手作りスイーツは、コンビニスイーツ顔負けのクオリティ。彼女の隠れた才能の一つである。学校では誰とも話さないくせに、家では家事万能なのが、これまた堪らないギャップだ。


 俺がプリンを取り出している間に、唯は手早く制服から部屋着に着替える。

 今日の部屋着は、淡いミントグリーンのパーカーに、太ももを露出したショートパンツ。学校の制服姿からは想像もできない、健康的で可愛い姿だ。彼女が着替えるのを待って、俺も制服を脱ぎ、スウェットに着替える。


「優吾、プリン食べたら、ちょっとだけ、唯をめいっぱい甘やかして?」


 唯は、ソファに座る俺の横にぴたっとくっつき、パーカーの袖に顔を埋めながら、上目遣いで訴えかけてきた。その仕草が子犬のように可愛くて、俺は思わず頭を抱えたくなった。


「もちろんだろ。いくらでも甘やかしてやるよ。そのために俺は存在するんだから。さあ、その可愛い顔を俺に見せろ」


 プリンを食べ終え、食器をキッチンに置いて戻ると、唯はすでにソファで膝を抱えて、待っていた。


「おかえり、優吾。……ねえ、膝枕、いい?」


 彼女の黒い瞳が、期待に満ちてキラキラしている。

 俺はソファに深く腰掛け直し、唯に太ももを差し出す。


「ほら、おいで。特等席」

「やったあ!」


 唯は「えへへ」と満面の笑みを浮かべ、素早く俺の膝の上に頭を乗せた。その拍子に、彼女の柔らかな髪が俺の太ももに触れ、甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐる。足を伸ばし、俺の腹に腕を回す。「優吾、ぎゅーして?」


「ふぅ……この匂い、この硬さ。安心する……」


 唯は俺の太ももに頬を擦り付け、子猫のように喉を鳴らした。この時の唯は、学校の「地味子」とは完全に別人だ。


「今日、田辺に話しかけられた時、ちょっと動揺したでしょ」

 俺は唯の髪をそっと撫でながら、今日の出来事を尋ねた。


「え、なんでわかったの?」

「そりゃ、長年の幼馴染だもん。作り笑いしてるのなんて、すぐに見抜ける」


 唯はムッと唇を尖らせた。


「あのね、優吾。田辺くんは、ただ野球部の話をするだけならいいんだけど、やたらと唯に『お前、もうちょっと笑った方が可愛いぞ』とか『髪下ろせばいいのに』とか、そういう余計なことを言ってくるんだよ」

「あいつ……!」


 俺の胸の奥で、カッと熱くなるものがあった。


「でも、唯はちゃんと地味子でいるよ。だって、他の人に可愛いって言われても、全然嬉しくないもん。優吾にだけ可愛いって思われて、優吾にだけ甘やかされてれば、それでいいんだから」


 唯は俺の腹に回した腕に、さらに力を込めた。その独占欲を示すような仕草が、たまらなく愛おしい。


「……唯は、俺だけの甘えん坊でいてくれればいいよ。他の奴に、その可愛い顔を見せる必要なんてない」


 俺は唯の頭を優しく撫で、その髪にキスを落とした。

 唯は満足そうに、目を閉じた。


「ん……優吾のそういうところ、本当にずるい。唯をダメにする気?」

「ダメにするくらいが、ちょうどいいんだ。さ、ちょっと寝ててもいいぞ。俺はこのまま、唯を撫でててやる」


 この秘密の関係は、学校という舞台と、ここ俺の部屋というプライベートな空間で、はっきりと分かれている。


 学校で唯は、誰にも気付かれない「地味子」のままでいる。

 そして、その地味な仮面を脱いだ瞬間に、彼女は俺の専属の「甘えん坊」になる。


 この秘密のコントラストが、俺たちの関係を、誰にも侵されない、特別なものにしている。




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