1話 始まりの朝
ピピピ…… ピピピ……。
ベッドの上で貰い物の目覚まし時計が控えめな電子音を鳴らしながら起床の時間を告げる。 男はそれをじっくりと聞いた後、起き上がり目覚ましを止める。
洗面に向かい簡単に顔を洗い、歯磨き粉をハブラシに付けてリビングに行き、テレビを付ける。 適当にチャンネルを変えるとニュースがやっていたのでそれを見ながら歯を擦る。 なんとも幸の薄そうな女性アナウンサーの声が部屋に響く。
「昨晩深夜、 不法区域内から身元不明の焼死体が発見されました。 遺体の損傷が激しく性別の区別も付かない状態です。 不法区域内ではここ連日、身元不明の焼死体が発見されており本件に対して呪術対策特科に取材したところ、事件の早期解決に尽力するとコメントを頂いております。 くれぐれも不法区域内にお住まいの方は不要な深夜の外出は控えるようにしてください」
「……」
男は特に感慨を受けるわけでもなく歯ブラシを機械的に動かす。 不法区域ではこの手の事件は珍しい物ではないからだ。
一通り作業を終えると洗面台で口をゆすぎ、一式の装備と黒のモッヅコート羽織り、男は家を出た。
◇
「…………ハァ」
カウンターより出された水をすでに飲み干した状態の男は大きな溜息をつく。
「いい加減起きてくれないかな。 お前がこの時間に来いって言ったんだからよ」
グラスを磨きながら立って寝ているこのバー”らびりんす“の店主である
「スゥ……」
結構な声量で話しかけているというのに一向に岬は起きる気配がない。
「お前いい加減に……」
男が言葉を話しきる前に岬が手にしていたグラスを地面に落とす。 ガラスが割れる音が店内に鳴り響く。
「……グラス割れましたけど。 流石に起きるよな?」
「スヤァ……」
ガラスが割れる音は人にとってはまず不快な騒音の部類に入るだろう。 某飲食店では食器を割ってしまった際、店員全員が馬鹿みたいな大声で謝罪するぐらいだ。
「おい。 大丈夫か? 怪我してないか?」
「グゥ……」
「……」
男は徐々に心配心から怒りにへと心変わりしていった。 目の前でこうもスヤスヤと熟睡されるのはあまり気分がいいものではない。 よって眠り姫には起きてもらう必要がある。
カウンターの向こうにいる岬の胸に手を伸ばす。
「……うん。 まあ分かってたけどさ」
岬の胸は非常に小さい。 はっきり言って揉めない。 触れることが限界だ。 何故か触ってる方が不憫な気持ちになってくる。 そんな事をしていると店の出入り口の扉が開く。 バーによくあるドアを開けた時に鳴る鈴の音が店内に鳴り響く。
「いらっしゃーい」
「それで起きるのか」
どうやら岬の覚醒スイッチはあのドアについてる鈴のようだ。 男は一つ勉強になったと思いドアに目線を向けると。
「えーと…… 今日呼ばれて来たんすけど。 お邪魔だったッスか?」
そこには大柄な上、ヘアースタイルがモヒカンで、あろうことか頭髪を赤色に染め上げた何とも近寄り難い男が遠慮がちに立っていた。
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