生徒の保護者が元カノだった

ネコクロ

第1話「思い出の少女」

「――そう……じゃあ私たち、これで終わりだね……」


 人生で初めてできた彼女は、銀色に輝く綺麗な髪を風に靡かせながら、俺に対して優しく微笑んだ。


 元々、学校のマドンナと呼ばれるほどにかわいくて人気があった彼女と、平凡な俺とでは釣り合わなかったのだろう。

 遅かれ早かれ、こういった最後を迎えていたはずだ。

 こうして、俺――白崎しろさき優斗ゆうとの初恋は、終わったのだった。


          ◆


 あれから十年が経ち――紆余うよ曲折きょくせつ、時には絶望的な修羅場にいながらも、俺は新たな道に進もうとしていた。


「ここが、新しい職場か……」


 私立、桜森丘さくらもりおか高校の校舎を見上げながら、俺は深呼吸をする。

 縁あってこの高校に拾われた俺だけど、正直気が重い。


 前の職場でやらかしてしまったし、うまくやっていけるのか……。


 そんな不安にさいなまれながら、俺は校舎に入っていく。


「えっと、理事長室は確か――」

「…………」


 守衛さんに教えてもらった道を思い出していた時だった。

 玄関で、フワッと花のようにいい香りをさせながら、俺の前を銀髪ボブヘアーの少女が横切ったのは。


 その少女は、髪色や髪型だけではなく、一瞬だけ見えた横顔も、俺の記憶にある少女によく似ていて――俺は、思わず口を開いてしまった。


「き、君……!」

「なんでしょうか……?」


 振り返った少女の顔は、鼻筋がしっかりと通った高い鼻に、薄すぎず、厚すぎない理想的な形をした桃色の唇をしており、肌は透き通るほどに白かった。

 それは、俺の記憶にある彼女とよく似ている。


 だけど――怪訝そうにこちらを睨む彼女の目は吊り上がっており、俺が知っている優しい垂れ目ではなかった。


「あっ、えっと……ご、ごめん、急に呼び止めて。理事長室ってどっちかな?」


 何もないのに呼び止めてしまったら不審に思われる。

 そう考えた俺は、すぐに道を尋ねた。


「新任の先生ですか。理事長室でしたら、あちらです」


 クールな印象を抱く彼女は、優雅な仕草で道を指さしてくれる。

 こちらを振り返った時はとても冷たい子なのかな、と思ったけど、意外と話は通じそうだ。


「それと、うまく誤魔化したつもりでしょうが、私のことを変な目で見たのは気が付いていますよ?」

「――っ!?」


 しかし、俺が理事長室の行き方を尋ねたくて声を掛けたわけではないと、すぐに見破られたしまった。

 勘がいい子だ……。


「い、いや、生徒を変な目で見るわけないじゃないか……! 本当に、道を尋ねたかっただけだよ……! 教えてくれてありがとう……!」


 責めるように目を細める彼女の視線に耐えられなかった俺は、笑顔で手を上げ、すぐに指さされたほうへと向かった。


「逃げた……。悪い人ではなさそうだけど、変な人……」


 チラッと後ろを見てみると、少女は既にこちらに背を向けていた。

 どうやら、怪しまれずに済んだらしい。


 それにしても、ビックリした……まさか、元カノによく似た子がいるなんて……。

 目つき以外ソックリだったけど、さすがに妹なんてことはないよな……?

 妹がいるなんて話、一度も聞いたことがないし……。


 まぁでも……この学校は生徒が結構いるみたいだし、そうそう関わることもないはずだ。

 だから、あまり気にしなくてもいいか。


 ――と、この時は呑気に考えた俺だったが、この時は知る由もなかった。


 先程出会った子が、俺にとってとても因縁深い子だったということを。

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