第2話 えらばれたわたし

 私たちが十二歳になったある日、孤児院に軍の偉い人がやって来た。


 沢山難しい話をしていて分からない部分も多かったけれど、つまり軍隊で働く人を募集しているということのようだった。


 特に強調されていたのは、連邦国軍が開発したという素晴らしい魔術だ。



 『祈弓兵(ききゅうへい)』と、彼らはそれを呼んだ。



 資質を持った少女に魔術を施すことで、戦況を覆すほどの戦力を得ることが出来るという。

 そしてもしその祈弓兵に選ばれれば国に役立てることは勿論、今とは比べ物にならない豊かな生活も約束されるのだ。



「私、祈弓兵に志願してみようと思うの」


 いつもの湖畔で私がそう言うと、リュカは驚いて目を見開いていたっけ。


「アマヤが!? どうして、やめなよ。軍隊なんて、危ないよ!」


「あら、意外ね。応援してくれるかと思ったのに」


「そんな訳ないだろ! アマヤなんて怖がりのくせに。戦場に行ったって、きっと泣いちゃうぞ!」


「だって……どんどん、暮らしは厳しくなるわ。このままじゃ、何処にいても同じよ」


「それは、そうかもしれないけど!」


「私が祈弓兵に選ばれて沢山物資を貰えれば、リュカにだって分けてあげる!」


「えっ、俺に!? 馬鹿っ、そんなこと、気にしなくていいの!」


「よくないわよ! 最近、いつも私にばかり食べ物を分けてくれて、自分は我慢してるの知ってるもの!」


「うっ……」


「大丈夫、だって、軍の偉い人が開発した凄い魔術なのよ。これでお腹いっぱい食べられるし、戦争も終わるわ!」


「……まあ、アマヤが祈弓兵に選ばれるとも限らないしな」


「なによ、選ばれない方が良いみたいな言い方!」


「そうじゃないけど、……そうかも」


「もうっ。変なリュカ!」


「でも、それなら俺も行くからな」


「え?」


「アマヤが軍に行くなら、俺も行く。俺は男だから祈弓兵にはなれないけど、兵隊にはなれるだろ!」


「う、うん……。リュカもいてくれた方が、私も安心、かも?」


 こうして私たちは軍に志願した。

 同年代の少年少女たちが他にも何人も手を挙げて、軍隊へ預けられることになった。




 軍の基地に移動した後、私はリュカと別れて、祈弓兵に志願した少女たちと共に魔導研究所に集められた。  

 そこには他の孤児院や施設からやってきた少女たちも沢山いた。


 適性検査は簡単なもので、個室に入って中に置いてある赤色の水晶玉に手を触れるだけだった。

 

 検査を終えて部屋を出ると、数名の少女たちが待つ部屋へと通された。

 ここは適合者が集められた部屋らしい。

 私はなんと、合格したのだ。


 ――このとき不適合となった少女たちがその場で絶命していたことを、私は今でも知ることは無い。




「やった、やったわ!」


 私は有頂天だった。百人近くいた少女たちの中から、適合者に選ばれたのはほんの数名。その中に自分がいたことが誇らしかった。


「これでリュカも私を見直してくれるはずね!」


 その日から、私の生活は一変した。

 温かい部屋が用意され、ベッドも清潔でふかふかだった。食事も一日に三回も出て来て、どれも美味しくて幸せだった。食後にはデザートが用意されていることまであった。

 

 祈弓兵の制服だという真っ白なワンピースには金色の糸で刺繍が入っていて、とても可愛い。

 この服を着て、他の祈弓兵の候補生たちと一緒に毎日訓練に励んだ。


 訓練といっても辛いことは特になく、祈りの言葉を覚えてひたすら集中するというものだった。

 私たちのこの祈りが、強靭な矢となり国を勝利へ導くのだと教え聞かされた。


 私は救世主になれるのだ!

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