第7話
ドラゴンと契約してから、ニアは、街へ向かう馬車の中でルナに具体的な契約における注意点や、現在の封印魔法の進捗状況について説明を受けることとなった。
従魔契約におけるルールは本来存在しない。名前の通り従魔となる、人間同士で言うところの主従関係と同じで、基本的に命令は従わなければいけないけれども、断ることも出来ること。
時々ビーストテイマーの中には、魅了魔法やなどを用いて縛り付けて命令する人もいると、ルナは語る。
「魅了魔法も拘束魔法も、本来はいい魔法だったのよ。魅了魔法は特に、本来90日で効果もなくなってしまう、おまじないのような魔法だったから。
でも、少しその人をよく見せる魔法を改悪して人の心を惑わせたり、契約を反故にすると死ぬという制約をかけたりする人が増えちゃって」
そういう人が居るせいでビーストテイマーって少し偏見で見られちゃってるの。見つけたら国に報告して、警戒対象にしてもらうようにしてるのに減らなくって、と少し疲れたように笑うルナに対して、ニアは内心冷や汗をかいていた。
(やばい、やばい。魅了魔法使ってるってバレたら村でおばあちゃんになるまでのんびり暮らす私の将来設計が…)
「従魔契約ってね、力関係だけが全てじゃないの。 認めた相手、守りたい相手、従いたい相手。そういう相手であれば力関係が逆でも従ってくれる。このドラゴンも、あなたを認めているから暴れないでいるんだと思うの」
なんの疑いもなくそう笑顔で語るルナをみて、ニアは固く決意した。
絶対バレちゃいけない。そして3ヶ月以内に確実に魔法をかけ治そう、と。
そんな決意を胸に、引き攣りそうになった口角を上げ、そうなんですねと納得したように頷いた。
その後話題を変えて、封印魔法の進捗状況について質問を投げかけると、国家間の問題となっているらしい封印魔法の復活について、大々的に研究が進んでいるのだと、ルナとミーディは話を続けた。
国家お抱えであり、他国からもアプローチを受けている有名な魔法使い、カルヴィンが中心となり、神官やS級、A級魔法使いも参加し、100年前に死んでしまった最後の継承者ユーグ・シルビィの資料を調べて研究を重ねているのだという。
「カルヴィンって人、名前は知ってますけれど……どういう人ですか?」
かの有名な、というふうにルナもミーディも語るフェイルという名前は、確かS級冒険者から王宮魔術師に栄転した。そんな噂で、一時期ニアの村でも話題になった人である。けれども何が凄いのか、閉鎖的な田舎生まれ田舎育ちのニアは分からない。
「……良くいえば勉強熱心、悪く言えば魔法バカかなぁ。1度見た魔法を再現するためならどんな事でもする人だ。いくつか、戦争で失われた古代魔法を復活させたんだけれど、その威力が恐ろしくてね。村を丸々焼いてしまうような魔法も習得してしまってるから、いわば一人で戦争の結果を左右してしまえる兵器のような男だよ」
「人は良いのよ。……新しい魔法を見ると食事や睡眠を忘れて倒れちゃうだけで」
ほとほと疲れ果てたような目で、本人に戦争の意志がないのが救いだよと語るミーディの言葉に呆気にとられていると、人は良いのよ、とルナが庇うように首を振る。しかし、その次に添えられた一言がフォローを覆す。
その言葉になんて返せばいいのか分からず、困ったように笑ったニアは、そんな人がリーダーなら、封印の紋様紙も、早く完成しそうですねと話をそらす。
「そうね、確かにA級モンスターの封印のための紋様紙の完成まで、……資料を解読始めてから5ヶ月くらいだった気がする。今S級モンスターの解読は、8ヶ月くらい経ってるのかしら」
そろそろ解読も終わると聞いているから、あと一年くらい。魔力も多く必要って言っていたから私も魔力を渡す時に進捗は聞けそうだから報告するわねと言われてニアもようやくほっと息を吐いた。
そこまで解明されているなら、ドラゴンも制御できるだろう。そんなことを思いながら馬車に揺られること4日間。行きは早馬を飛ばして来た為、ドラゴンの発見から2日で村に着いたという馬車はようやく街の姿を捉えるくらいまで近づいた。
「門兵に話してくるから少し待っててね」
ルナとミーディがそう言って馬車をおりてから2時間が経っても2人は戻る様子がない。何かあったのだろうか、ドラゴンがいるとやはり入れて貰えないのだろうか。そんな不安に駆られ、ニアは馬車の出入口になっている布をめくりルナたちを探す。
門の近くに視線を向けると、悪い予想は的中しており、どうやら揉めているようだった。
「ニアさん、すみません。ドラゴンを見た門兵が警戒を解いていないようでして、今ルナさんが領主を呼ぶように指示を出しているところです。もう少ししたら入れますよ」
「り、領主様?!そんな大事になってるんですか!!」
S級モンスターであるとはいえ、主従契約の完了したドラゴンが驚異とは思えず、首を傾げていると、真似するようにドラゴンも首を傾げた。
あ、なんだか愛着湧いてきたかも。そんな風に思えてきたニアは、ドラゴンにむけてふにゃりと笑う。
「…なるほど、確かに懐かれている…これならば大丈夫だろうか」
ニアとのやり取りを見て門兵たちは、契約していることは納得したもののそれでも危険モンスターを街に入れていいのか判断しかねるようで、領主であるアルトバーン公爵が早馬の馬車でやってくるまで馬車の中で待機することとなった。
幸いにも領主の中でも三番目に大きい街ということもあり、整備された道を早馬で来た公爵は、日が暮れるまでに到着した。
「ルナ殿。ドラゴンを街に入れたいとお聞きしましたが…っ、まさか、飛竜ではなく、S級モンスターの方のドラゴンですか」
街どころか王都を滅ぼされてもおかしくないモンスター。大人しいとはいえ少しでも暴れてしまえば街に被害が及ぶモンスターとの対面というのは、死ねば領地経営に支障が出る身分であるアルトバーン公爵としては起こりえない出来事である。故に平民と比べてもモンスターになれていない公爵は、恐怖心から固まってしまった。
「ええ……この子、ニアさんが、この災害級のモンスターと契約したんです。…カルヴィンさんと本格的に動いたら、S級モンスターの封印の魔法陣も完成するでしょう?そうすれば今後も殺さずに封印して回れるかなぁ……と、思ったのですが」
これは無理そうだ、仕方がないけれど落ち着くまでは馬車ぐらしかなぁ……とニアが街に入るのを諦めかけた時、遅れてやってきた早馬から1人の男性が飛び降りて駆け寄ってきた。
「これはこれは!!ルナさんからの手紙を見て慌てて飛んできましたが、S級モンスターを使役した少女というのは君ですね。素晴らしい、本当にドラゴンを制御してしまうとは余程の実力者なのだろう。こんなにも大人しくて協力的なドラゴンであれば、封印の研究にも協力してくれそうだ……災害現場で殺されるのを回避しながら封印を試すというのも限界が近かった。いやぁ助かるなぁ…アルトバーン公爵、この子を研究所に連れて行っても?」
立て板に水の如き勢いでまくし立て、未だに思考が復活していない公爵が頷いたのを確認した男性が了承を得たとばかりにニアの手をガシッと掴む。
「君がドラゴンの主になった少女か!どんな方法で認められた?どのくらい指示ができるんだい?!」
「カルヴィンさん、落ち着いてください。ニアさんが困ってます!せめて自己紹介してください」
「ルナさん、多分そこじゃないです」
ルナが目の前の男性にそう声をかけるのを聞いて、ニアはようやく目の前の男性が封印の研究の第一人者であるカルヴィンであることを理解した。
「それもそうだね、俺はカルヴィン。今は王宮魔術師をしている。主な研究分野はモンスターの封印と発生についてだ。実力で言うならば以前はS級冒険者をやっていたから、もしこのドラゴンが暴れても退治できるから安心して欲しい」
さぁ行こう、そう言って満面の笑みでニアの手を引くカルヴィンの頭をミーディがパシッと叩く。
「暴走しすぎです。シフォンさんに言いつけますよ。また師匠が暴走してると」
「う……それは困る。シフォンは怒ると怖いからなぁ」
ミーディの言葉がブレーキになり、勢いが落ち着いたカルヴィンから頭を下げられたニアは、固まった。
身分の高い人から頭を下げられる経験が初めてであり、どういうふうに返していいか分からなくなってしまっていた。
(……公爵様もこんな感じだったのかな)
ニアから見て王宮に務める魔道士が未知の存在でどう接していいか分からないように、公爵から見たドラゴンも未知の存在で扱いが分からないはずである。
ここ数日で慣れたとはいえ未だに寝起きにびっくりするドラゴンに対して落ち着いて対応できるのは、S級の実力があるルナやカルヴィン、そのルナから直接説明をされたミーディくらいのものだろう。
(……1番身分が高い公爵様に同情するのは失礼なんだろうけれど、反応が普通で安心する)
そんな現実逃避をしていると、復活した公爵がルナとなにやら話をしたあと、ニアの方へ近寄ってきた。
「君がドラゴンと契約した少女か、……ルナ殿に頼まれて断れなかったのだろう……申し訳ないことをした。S級冒険者は力こそ全世界で認められる存在であるが、時折人とずれていることがあってな……とはいえ、ドラゴンを殺さずに封印できる可能性というのは我々にとって大きな進歩だ。感謝する。
君とそのドラゴンが暮らせる場所を提供すると約束しよう」
ひとまず長旅で疲れているだろう。冒険者をしている私の娘が暮らす一軒家であればドラゴンも休める庭があったはずだ。そこまで案内しよう。
その言葉を聞いてようやくニアは大きく息を吐けた。このまま野宿も考えていた。けれど、ルナやドラゴンが守ってくれているとはいえ街の外で過ごす事に少しばかり不安を覚えていた為、休める一軒家があるということに安堵した。
「ありがとうございます。……えと、お偉い方とお話するのが初めてで失礼になってないといいんですが……アルバータ村のニアと言います。このドラゴンは村を破壊しましたが、今は私がダメっていえば攻撃されても反撃しません」
ひとまず安全であることを伝えようと、緊張のあまりたどたどしくなった口調でドラゴンのことを説明すると敵対心がないことが伝わったらしく公爵はふっと笑った。
「気にしなくていい。……長旅で疲れているだろう。報告は後日ミーディ殿とルナ殿から聞いておくからゆっくり休みなさい」
そう言って街への出入りが許されたニアとドラゴンは、ルナの先導でとある屋敷に近い一軒家にたどり着いた。
「ここが私のパーティ、白狼の牙の拠点だよ。それぞれに部屋があるから大きい家になってるんだけど、……貴族様のように豪勢じゃないから緊張しないでね」
そう言いながらドラゴンを庭に誘導したルナはニアの手を引っ張り空き部屋へ案内をした。
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