悪女と言うのは自由ですけど、双子のどちらか見分けられるようになってから悲劇のヒロインごっこをしてもらってもいいですか!?
Ray
第1話
煌びやかなシャンデリアの光が照らす魔法学院のパーティー会場。そこでは、多くの方々が友人と言葉を交わし、楽団の演奏に合わせて優雅に婚約者とダンスをし、それぞれの方法で仲を深めています。そして、本来ならば私の隣には婚約者が居るはずです。私の目の前にいる彼の隣にも。
一人でパーティー会場におり、お母様から戴いた扇子で目元から下を隠し、どのような
「ルーチェ・スピカ・シュバルツ! 貴様の悪事もここまでだ!」
勝ち誇った笑みで私にそう宣言する愚か者とまるで女王気取りな令嬢。面倒ですが、この場に居る皇族は私のみ。行動せねば我が家に泥を塗ってしまいます。ここに居ないお兄様たちのためにも、できる限りのことをしなければなりませんね。
「悪事とは面白いですね。貴方たちがどんな
* * * *
魔法学院アルティミア。ファルベ帝国にあり、貴族の子息子女、平民問わず優秀な者に平等にチャンスを与えて成長を促している国立学院。
実力主義であり、クラス分布もそれに則り入学前に行った学力テストの結果順にAクラスからEクラスへと振り分けられる。貴族の子が多いAクラスに平民の子が入る、平民の子が多いEクラスに貴族の子が入る、ということもあるらしい。けれど、大抵そういう子は貴族が支援している平民の子だったり、魔物などの被害から領地を守るために魔法に力を入れている地方の貴族の子だったりと、虐めなどはないらしい。……らしいのですが、
「嫌です! 無理です!」
「こらルシア!」
私、ルシア・アークトゥルス・シュバルツ。現在朝の七時過ぎ。お母様と部屋の前で一進一退の攻防戦を二十分ほど繰り広げています。
魔法学院への入学は皇族や貴族の子には義務付けられており、平民の子の場合は無償支援を受けられ来たい子は来てくださいと言う貴族の子には厳しく、平民の子には優しいとてもとても、私からすれば大変迷惑なシステム。
魔法学院に入る年齢は十五歳。私は今年から、と言うか今日から魔法学院に通わなければなりません。通わなければならないのは理解しているのです。ですが!
「他人と会いたくなんてありません!!」
元々人と関わることが苦手だったと言うのに、昔起きたとある事件からそれに拍車がかかり、親しい方以外とは会話をするどころか会うことすらまともにできていない私。そんな私に、魔法学院に行けと言うのは魔物蔓延る魔窟へと単身武器装備無し魔法使用禁止で一ヶ月生き延びろと言われているのと同義です。嫌です。死にたくないです。お母様、ルシアはまだ生きたいのです!
「約束したでしょう! もうセフィド公子もいらしているのよ?」
し、シグニがもう……。予定より早くないですか?
シグニは私の婚約者で、幼い頃から一緒にいるいわゆる幼馴染みと言うやつです。シグニは優しくて、こんな私の婚約者でずっといてくれるから嬉しいです。本来ならば婚約破棄の上、セフィド公爵家へは謝礼金などを払うべき。けれど、シグニが婚約を継続したいと言ったためにそれは無くなりました。貸し一、と言うやつだと思います。お父様とセフィド公爵様は大変親しいのでそういうことは起きないと思いますが、もし他の家ならばそれを笠に着て無理難題を要求される可能性もありました。
「お母様、ルシアはまだ出てきていないの?」
私の声にそっくりな、それでも私とは全く違う声。どうしましょう。ルーチェが来てしまいました。終わりました。ルーチェが来たと言うことは絶対にシグニもいます。
ルーチェ・スピカ・シュバルツ。私の自慢の双子の姉。人と関わることができない私の代わりに頑張って社交界をまとめてくれています。本来ならば私とルーチェ、二人で社交界をまとめ、貴族を監視しなければならないと言うのに。
「帝国の月にご挨拶いたします。ルシア様はまだ部屋に?」
「セフィド公子、ごめんなさいね。あの子ったら、昨日までは頑張って行くと言っていたのに」
困った子ね、とお母様がため息をつきます。来てしまいました。終わりました。
シグニ・オスクリタ・セフィド。私の婚約者で、ルーチェとは悪友のような関係です。優しくて私の意志を尊重してくれるけれど、絶対にしないといけないことは当然ながらそれを優先します。特に、皇族として絶対にやらなければいけないことは。
ルーチェとシグニ相手では抵抗しても無理です。大人しく出るしかないです。
ゆっくりとドアを開けると、そこにはお母様と既に制服に着替えているルーチェとシグニ。白藍色の髪を持つルーチェと濃藍色の髪を持つシグニが隣に立っている姿はとても美しく、思わず見とれてしまいます。まぁ、私もルーチェとは右目以外色は同じなのですけれども。私に関しては右目を隠しているのもあり、喋り方や姿勢、動きをルーチェに寄せれば私だと気付く人はいないでしょう。今でもルーチェと私を見分けられる方がほとんどいませんが。
「おはよう。今日も可愛いね。私の妖精姫」
「そ、それやめてくださぃ……」
「社交界に顔を出さない皇室の妖精姫」といつしか貴族の間どころか平民の方にまで広まっていた私の二つ名。身体が弱いとか、重い病気を抱えているとか、根も葉もない噂があります。その噂を信じる方々は、私が人と会いたくないからと言う、なんともしょうもなく、このファルベ帝国の第二皇女あるまじき理由と知ったら、どう思うのでしょうか。
「あまり皇后陛下を困らせてはいけないよ?」
「こ、困らせてるワケじゃ……。ひ、他人と会いたくないの。きっと、みんな私のこと気味悪がるから……」
歴代皇族の中でも屈指の魔力量を誇り、魔法の才能があると、魔法の先生に言われましたが、だからこそ怖いのです。魔法の先生はその才能故に周りから遠巻きにされ、人々に恐れられていたと言っていました。もし、魔法学院にいる方たちもそうで、ルーチェやシグニも、私の異様さを理解して離れていったらと思うと……。
「大丈夫よ。私たちはずっと一緒でしょう?」
ルーチェが昔からやる約束の指切りをするために手を出してきます。同じように手を出して、小指を絡ませます。
「怖いかもしれないけれど、頑張りましょう? 私もシグニもいるから」
「でも、シグニは学年も違うし……」
「できるだけ一緒にいるよ」
「……急に、消えたら、絶対呪う、から」
二人は笑って約束してくれます。怖いけれど、二人もいるのです。魔法学院在籍三年間、頑張ってみましょう。穏やかで平和な魔法学院生活を目指して。
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