第5話
翌日の朝。冒険者ギルドに来たカレンとレイの二人はクエストボードと睨めっこしていた。
何の依頼が良いか今も悩んでいるのである。
因みに文字は日本語が使われている。レイにも読みやすい。
「うーん……」
カレンはうねる。
一口にドブ掃除と言っても種類がある。
下水道の掃除だったりどこそこの地区の溝掃除だったり、やる箇所の多さだったり。
どの依頼が時間帯報酬が良いか悩んでいるのである。
「あのー」
そのカレンに声をかける者が居た。
「はい?」
カレンはくるりと振り返り声をかけた者を見る。
声をかけたのは一見すると女と見間違えるような男だった。
恰好が女なのではなく、顔つきが女そのものであり体も華奢だ。
だがよく見ると骨格は男のものであるため、少々不気味と言えなくもない。
剣を一本背負っただけの男であり皮鎧を付けている。
胸元には鉄級冒険者の証である鉄プレートがある。
「もしよければ、僕たちと一緒にダンジョンに行きませんか?」
「ダンジョンに? 銅級が行っていいの?」
カレンが聞いた話では基本ダンジョンは鉄級から入る事が許されている。銅級が入っていいとは聞いてない。
「はい。鉄級冒険者が同行すれば銅級でもダンジョンに入れます」
「そうなんだ……けど、なんで私をダンジョンに連れていこうと思ったの?」
カレンは鋭い目つきで男を睨む。
冒険者は荒事だ。中には半グレ等もいるだろう。
その為見眼麗しい女をダンジョンに連れ込んでまわすなり殺して剥ぎ取るなんて事も考えられる。ダンジョンはそれがやりやすい場所だからだ。
「昨日、そちらの男性が鉄級冒険者の方を締め上げたと聞きまして、実力があるならまだ銅級のうちに唾つけとこうって感じです」
男は頬をかきながらそう言う。
その言葉にカレンは面白くないモノを感じる。
自分ではなく父親が褒められたのだ。自分こそを見て欲しいと思うカレンには嫌なものがあった。
だからこそ、受けることにした。
「いいわ。受けてやろうじゃない! 早速行くわよ」
「ちょっと待ってください。うちのパーティと打ち合わせをしてからにしませんか?」
「いいわよ! さぁ早速行くわよ! お父さんも!」
「……ああ。わかった」
レイは渋い顔をしながら了承する。
男の案内でカレンとレイは酒場部分にあるテーブルにつく。
「では改めて、僕はカズト。こっちが
よろしく、と全員が挨拶する。
リアナは人間の女の
タンクのバルドはスライム系種族のグロウムであり、水色の半透明の体に盾と剣を背負っている。下半身は溶けている。人なら心臓がある部分に赤色のコアがある。
シーフのメルクは人間の男だ。口元をマスクで隠し背中には弓と矢を背負い、腰には短剣を付けている。
この世界では亜人種や異形種がいる。
人間を基本の形とし、そこから多少外れた形を持つ者達……腕が四つだったり、ケモミミが生えている者等を亜人種とする。
人の形を一切していない、もしくは寿命の概念が無い者達が異形種と呼ばれる。グロウムは異形種だ。寿命はあるが。
魔王城ではアーリンドラやライカードたちが異形種と判定されている。
「私は魔法戦士のカレン。こっちは……えぇと、お父さんでモンクのレイ」
「よろしく」
全然よろしくする気が無い目つきでレイはパーティを見渡す。
「えぇっと、お父さんと冒険者に?」
メルクが恐る恐ると言った雰囲気で尋ねた。
「はい。冒険者に成るなら自分も同行させろと……」
「……子供思いなんですね」
メルクは精一杯言葉に気を付けて発言した。
「あと、私は第五環までの魔法を使えます」
その言葉にパーティスティールヴェインの者達が驚く。
第五環とはほぼ人間が到達できる最高地点だ。
聖王国の聖女王が第六環魔法を行使出来るが他だと白銀級冒険者しか使えない。
つまり第五環魔法が使えるという事は一国がもろ手を挙げて歓迎してくるレベルだ。冒険者なんてやってる場合ではない。
「嘘? ほんとに? なんで冒険者に?」
「憧れは止められないの!」
ふふん、とカレンはそこそこの大きさの胸を張る。
「という訳で基本私は前衛でも後衛でも出来るわ。ただ基本は自分にバフかけながら前衛やってるけど」
「ならそのスタイルを崩さずにいこう。治癒魔法は使える?」
「使えないわ。ただパーティ全体に支援魔法を飛ばす事は出来るけど」
「それだけでも充分だよ。えぇっと、レイさんは?」
「余は前衛で勝手に暴れるぞ」
カズトはレイの余という一人称に驚く。
だがすぐ表情を元に戻し「わかりました」と了承する。
「次にドロップアイテムですが、全部まとめて売却してうちのスティールヴェインとお二人で別ける形でどうですか?」
「それだと私たちの方が取り分多くならない?」
「いえ。第五環魔法が使える方とパーティを組んでもらうんです。これでも少ない方だと思いますが……」
「んー、わかったわ。お父さんもこれでいいよね?」
「基本冒険者としての仕事にあれこれ言う事はないからな。カレンが決めろ」
「わかったわ。それじゃあ、行きましょう」
「えぇ、行きましょう──ビギナーズダンジョンへ!」
■
ルセクアの街から徒歩十分程歩いたところにそのダンジョンはある。
入り口はダンジョンらしい石造りの地下への階段で入り口横には頭蓋骨が刺さっている。
ビギナーズという名前の通り初心者向けのダンジョンであり全六階層で構成されている。
第一から第三階層までが石造りの迷宮で第四階層が平原、第五階層が森林となっている。
ダンジョンはこの世の理の外で動く異界だ。ダンジョン間の階層の内容が違うのは当然である。
その入り口前にカレンとレイ、スティールヴェインの六人は立つ。
「では戦闘は僕カズトとレイさん、カレンさんの三人で。中衛にバルド、後衛にリアナとメルクで行きます」
「わかりました。では行きましょう!」
そうして六人はダンジョンの中へと入って行った。
石造りの階段を降りていく。
灯りの類は持っていないがこのダンジョンはほのかに空間自体が発光している為灯りは要らない。
階段を降りた先は通路だ。
横に六人並んで歩いても広さを感じれる横幅と何処までも続く道が広がっている。
壁も床も天井も石で出来ている。
一行は警戒をしながら歩いて行く。カレンとレイは大して警戒しない。
このダンジョンに出るモンスターは決まっている。
ビッグラット。兎ほどの大きさの鼠。
ダンジョンバッド。だいたいどのダンジョンにもいる蝙蝠。
ゴブリン。人の子供程度の大きさに緑色の肌に牙を持つ亜人種のモンスター。
スケルトン。人の骸骨。アンデッドモンスター。生者を襲い殺す。
他には狼や虎などが出現する。
第一から第三層はビッグラットやゴブリンにスケルトン等が出現する。
一行が進んでいるとメルクが発言する。
「前方から敵二体接近」
その言葉に全員──レイ以外──武器を抜く。
一分も経たずモンスターが出現する。
出てきたのはダンジョンバッドが二体。人の頭程の大きさを持つ蝙蝠のモンスターだ。
カズトとカレンが飛んでくるダンジョンバッドに向かって剣を振るう。
剣はダンジョンバッドに命中し殺害する。
ダンジョンバッドは塵となって消え、結晶になった。
透き通るようなソフトボールより若干小さい程度の結晶だ。
「ドロップアイテムの鑑定はどうする?」
「ギルドでやってもらうから、しなくていいかな」
「わかった」
ダンジョンで死んだものはこうして結晶というドロップアイテムになる。
死んだ者、つまりダンジョンに入った人も結晶となる。
結晶に入っている物は様々だ。肉だったり装備品だったり体の一部だったり。
そういった物は結晶を使用する事で取り出す事が出来る。
結晶の間は時間経過で劣化する事はないが結晶からアイテムに戻すと結晶に戻す事は出来ないし普通に劣化する。
中身は鑑定魔法で判別出来る。
カレンがドロップアイテムを拾い荷物持ちを兼任しているバルドに渡す。
バルドは背中に大きなバックパックを背負っている。スライムの体で器用にバックパック内に結晶を入れた。
「このまま進みましょう!」
■
それからしばらく、平穏にダンジョンを探索した。
そうして第三層まで進み、第四層へと続く階段前のセーフエリアで休憩していた。
セーフエリアとはモンスターが湧かない場所の事だ。
基本外から意図的にモンスターを連れて来なければ安全な場所であり、体育館より若干狭い程度の広さを持つ。
スティールヴェインの一行とは別に数パーティ休憩しているのが見れる。
「このままここで昼食をとるか、一旦ダンジョンから帰還するか、どうします?」
「そういえばお昼持ってくるの忘れてた……」
あちゃー、とカレンは天を仰ぐ。
無論食事不要のアイテムは持っている為食事する必要はないが、気分として食事をしたいに決まっている。
「良ければこちらが用意しましょうか?」
カズトがそう提案する。
「いいの? じゃあお言葉に甘えてここで休憩します!」
「はい。カレンさんとレイさんには活躍して貰っていますから」
そういって一行は石の床に座りバルドがバックパックから食材を取り出す。
取り出したのは肉と野菜。人数分の食器と焚火台、大きな鍋だ。
手際よく焚火台をセットし鍋を置く。
「
リアナが第一環魔法である
鍋に水が入り続けて肉と野菜を入れ、最後にスープの素を入れて煮込む。
「しかし流石、カレンさん強かったですね」
「これでも冒険者に成る為に特訓してきたからね!」
煮込む間暇なので雑談を交わす。
「けどモンスターハウスに入ってしまった時はどうかと思いましたよ」
リアナがあれはヤバかった、としみじみと思い出す。
「まぁ所詮レベル十にも満たぬモンスターだからな」
このビギナーズダンジョンに出現するモンスターは全てレベル十以下だ。
ダンジョンボスはレベル十あるがそれ以外はだいたい八とか六とか三である。
その程度鉄級冒険者、つまり最低でもレベル十を超えているスティールヴェインの面々やレベル三十あるカレンや九十七のレイの敵では無い。
だがレベル十あるとはいえ油断は禁物だ。魔法や毒矢を使ってくる敵は時にレベル差を超えて致命傷を与えてくる場合がある。
特に耐性系の装備品が貴重なルセクアの街では気を付けるべき敵だ。
「それにしてもレイさんもお強いですよね。何でそんなに強いんです?」
「余は才能があったからな。多少鍛えればすぐさま強くなれる。それが楽しくて戦ってたらここまで強くなっていた」
「いいですね……もしかしたらレイさんは白銀級にまでなれるかもしれませんね」
冒険者の最高位ランク白銀。
有名なのは四人程いる。
かつて魔王を打ち倒し世界に平和を齎した勇者リナ・フェイルーン。
冒険者ギルドの総帥を兼任しているセルド・グランディア。
傍若無人な仙人ガイ。
真祖の吸血鬼アトラシア。
有名どころはこの四人だが、一応冒険者ギルドの記録上では十人居ることになっている。
白銀級になるにはギルドからの信頼を得るのとレベル五十に到達する事が条件だ。
人類の中でも両の手指で数えられるかどうか、というレベルの話だ。
勇者リナとアトラシアは二百年前から生きている事で有名だし、仙人ガイも五百年前から生きている。
純人間はセルドぐらいの者だろう。他の六人は分かっていない事が多いが。
「まぁ、なれるだろうが……成る気はないが」
白銀級ともなれば国側がもろ手を挙げて歓迎してくるだろう。それが煩わしいというのもある。
だが最大の理由は怨敵でもある勇者が接触してくるかもしれないからだ。
一対一ならば魔王のがレベルが上なので負ける気はしないが、かつてのようにパーティを組んで挑まれれば敗北の可能性も高くなるだろう。
それにレイは二百年前から姿を変えていないので魔王の姿を知っている者には普通に魔王だとバレる。魔王生存の事を勇者に知られる訳にはいかないのだ。
その後も歓談は続く。食事を終え、もう一度ダンジョンを登っていき探索を終えた。
■
「はい。こちらが報酬金の二万セラです」
同日夕方。冒険者ギルドに戻った一行は受付にドロップアイテムがたんまりと入った袋を渡した。
結果は二万セラだ。一般的な日給よりも多い。
だがそれは一日での話であり、六人で別けるとだいたい千六百セラになる。安い。
ただ薬草採取よりは稼げているだろう。六百セラは小さいようで大きい差だ。
「では約束通りこれは二分かつで」
カズトが一万セラ紙幣をカレンに渡す。
「いいんですか? こっちのが多くなっちゃいますけど……」
「いいですよ。それにカレンさんとレイさんには活躍して貰いましたから! ……いや本当に」
カズトは最後の言葉は小さく呟いた。
実際、カレンとレイは活躍しまくった。
そもそものレベルが違うのと疲労無効の装備品のおかけで常に最高のパフォーマンスを発揮できる二人と疲労する種族の四人とでは労働力に差があるのだ。
更には四人にとっては命の危機があるのに対しカレンとレイはレベル十以下のモンスター等脅威ではない為命の危機などではない。
「ありがとうございます! 大切に使いますね!」
カレンは自分で稼いだ大金として受け取りはにかむ。
その姿に微笑ましいものを感じ取る。
それでは、とスティールヴェインの者達はギルドから出ていく。
「今日もブロンズハートに泊るのか?」
「うん。お……うちにはたまに帰る感じでいこうかなって」
「そうか。だが悪いが余は明日仕事があるから同行できんぞ」
「そっか。じゃあ一人で街を見て回るね」
「………………ライカードを呼ぼうか?」
「もう子供じゃないんだから、一人で出来るもん!」
「そうか……? そうか……」
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