第1章 居場所 【カトラー・ギルド 】1
「諸君」とカトラーが言った。
とはいえ、受講生は僕を含めて三人しかいないのだが。それでもカトラーの声には、妙な熱がこもっていた。
「よいか、諸君」カトラーはもう一度そう言い、「結論から述べよう」と前置きして、僕ら三人にゆっくりと視線を送った。
「幸福は、“今ここ”にしかないのじゃ。幸福を感じるのは、“今ここ”」
そう言いながら、カトラーは自分の足元を大げさに指差した。
「今この瞬間、諸君は幸福を感じておるかの?どうじゃ?」
そう言って、前に座る“坊主メガネ”に話を振る。
「お主は今、どう感じておる?」
「自分はいつも幸福です」
坊主メガネは即答した。
「ほう。お主はすでに幸福か?」
「はい」坊主メガネが大きくうなずく。
「幸福なお主が、なぜここに座っておる? このセミナーは、幸福ではないと感じている人間が来るところじゃと、わしは認識しておったが」そう言いながら、カトラーは目を細める。
「もっと幸福になりたいからです」
坊主メガネの声には、まるで自分の信念を証明するかのような力がこもっていた。
「ということはつまり、お主は今も幸福だが、その幸福はまだマックスではないということじゃな」
「そうです。自分は今でも十分に幸福ですが、本当はもっと幸福になれる男だと思っています。自分の幸福は、こんなもんじゃないはずなんで」
その言葉に、カトラーが一瞬だけ目を見開いた。僕の後ろに座っている“美人さん”が、くすりと鼻で笑う。
「それと」と言って、坊主メガネはかけていた眼鏡を中指で押し上げた。
「このセミナーが格安だったんで参加しました。この金額でもっと幸福になれるなら、自分としては丸儲けですから」
ホッホッホッホー。
カトラーは喉の奥で笑い、
「お主、その素朴な顔に似合わず、欲張りじゃのう」と言った。
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