宙域艦隊士が遭難し不時着した星は魔法がある惑星でした
でんでんむし
突然の敵襲
「今日の見回りはどうだった?」
艦内通路を歩きながら、トレノが何気なく声をかける。
照明が周期的に明滅し、金属の床が低く響いた。
「今日はソンブレロ銀河の奴ら、大人しかったぞ」
フーバーが肩を鳴らしながら応える。
「そうか。じゃあ今夜はバーで一杯やるか? 俺は明日、公休日なんだ。まあ艦の中だけどな」
「俺は明日もソンブレロ銀河の見回りだって分かってるだろ!」
「そう言いながら、いつも付き合ってくれるよな。艦隊学校の時から変わらねぇ」
「本当に今日は勘弁してくれ。フーバー、お前も休めよ。お前の脳チップAI、名前なんだったか?ジュリアだろ?働かせすぎると暴走するぞ?」
「最近はAIの暴走なんて聞かねぇだろ?最後の事故は五百年前だ。まったく、配属の条件でチップ埋められるのだけは勘弁だったよ」
『フーバー曹長。私の悪口はほどほどにしないと、暴走して脳を溶かしますよ?』
「わ、わりぃわりぃ! 冗談だって!」
フーバーは額の汗をぬぐう。
「……んじゃ、今日は休むかねぇ〜」
「どうした? ジュリアが何か言ったか?」
「『勝手に暴走して脳を溶かしましょうか』だとよ。冗談でも笑えねぇ」
『トレノ曹長の脳も焼き尽くしましょうか?』
「なんで俺まで!? 普通に任務から帰っただけだろ!」
「お前のAIは確か“ユウコ”だったな。何か言ってきたか?」
「ああ。『私も焼き尽くしましょうか』だとさ。……まったく、進化の代償ってやつだ。便利すぎるんだよ、こいつら」
『それ、褒め言葉と受け取っておきます。お礼に、今夜はレム睡眠だけで快適な夢をお届けしますね?』
「しかしお前、“ユウコ”って変わった名前つけたよな。地球とかいう田舎の星の、古い言語だったか?」
「趣味で2000年前の無線機をいじってたら、地球の電波を拾ったんだ。翻訳機で聞いたら、男女が“歌”について話しててさ。その女の名前が“ユウコ”だった」
「ロマンチストめ。俺たちは軍属だぞ? それに比べてお前の最初のAIの名前“1番”は、あれは酷かったな」
「あれは艦隊学校卒業から2日後にチップ埋められて、締切ギリギリで……もう名前考える余裕もなかったんだ」
⸻
ドォォォォォォォォォォォォン――!!
艦全体が軋み、床が斜めに傾いた。
轟音とともに警報が鳴り響く。
「な、なんだ!? おい、フーバー、大丈夫か!?」
「いってぇ……って、何が起こった!?」
「分からん!だが頭をやられてる」
《緊急通信、緊急通信。ソンブレロ銀河およびラリカール銀河の両方面より同時攻撃を受けた。航行装置およびジャンクション・ワープ装置は破損。全隊員は重力場スーツおよび反射スーツを着用し、脱出ポッドに避難せよ。繰り返す――》
「クソッ! 東側の銀河が手を組んだってのか!? 聞いてねぇぞ!」
トレノは叫びながらスーツを装着する。
「トレノ、すまん! 手を貸してくれ!」
「当たり前だ! お前を置いてくかよ!」
『トレノ曹長。フーバー曹長のAIジュリアから秘匿通信。痛覚は遮断していますが、血漿が急激に低下中。臓器が補填していますが、早急な処置が必要です』
「なに!? 今そんな余裕――!」
『本人には伝えていません。バイタル維持のためです』
ドドォォォォォン!
「敵襲!! フーバー曹長! トレノ曹長!」
銃声が響く。
「ライアン上等兵か!? 敵が艦内に!? 座標まで割られてるのか!?」
「はい! 敵は拿捕ではなく殲滅目的のようです!」
「なんでこんな辺境宙域の艦を攻撃するんだ!?」
トレノはフーバーを支えながら叫ぶ。
「ライアン上等兵!お前は中央デッキまで俺達を援護!その後は艦長は探せ!俺はフーバーを脱出ポッドへ連れて行く! 応急処置キットとAI維持マテリアを持て! 第四ポッドだ!」
「了解しました!」
「……トレノ、俺の状態を教えろ。ジュリアが黙ったままだ」
「大丈夫だ。頭に少し傷があるだけだ。すぐ治る!」
「そうか……でも、眠いな。もし敵が来たら……俺を置いて行け」
「馬鹿を言うな」
⸻
廊下の向こうで爆炎が上がる。
「くそっ、ポッドまであと少しだってのに!」
「曹長、遅れてすみません!」
ライアンが走り込んできた。
「艦長は!?アレス艦長は見つかったか!?」
「左手を撃たれていましたが、『艦長は艦を守るものだ』と言い、突撃しました。ビーコンも消して……もう見つかりません」
「……なんということだ。なら急ぐぞ!」
『フーバー曹長、あと10分が限界です』
「分かってる! 頼む、ユウコ、ジュリアに伝えてくれ!必ずフーバーを死なせるなと!」
⸻
「よし!着いた! フーバーを先に!」
フーバーとライアンをポッドに押し込み、トレノは叫ぶ。
「ライアン、離脱だ!」
ドオォォォォォン!
「トレノ曹長!」
「くそっ! 最後までつきまといやがって!ライアン上等兵に命令する!必ずフーバーを死なせるな!」
トレノは外から発射スイッチを押し、ポッドを射出した。
「行けぇぇぇっ!!」
「トレノ曹長ッッ!!」
ライアンとフーバーのポッドが閃光を残して宇宙へ消える。
「――これでいい」
トレノは残った銃を握りしめ、別のポッドへと駆け込んだ。
「くそ、座標……座標が……!」
ドォォォォォンッ!!
「っ!? 被弾!? 母星エクセルシオに……戻らなきゃ……」
『トレノ曹長のバイタル維持を優先。脳使用率80%を超過。強制スリープに移行します』
「……座標を……合わせなきゃ……帰れ……な……」
『生命維持を最優先とします。どうか――おやすみください』
ユウコの声が遠ざかり、トレノの意識は深い闇へと沈んでいった。
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