第13話 天国と地獄
磯での騒動からしばらく経ち、壮真とサーヤは釣り上げた魚を浜辺へと持ち帰った。タイの頭だけでは物足りないと、壮真が追加で釣り上げた中型の魚を数匹抱えている。
「ふん!私の竿にも魚はかかっていたのだ!だがサメに奪われただけだ!」
「はいはい、言い訳はいいから。とりあえず食べようぜ。」
壮真は慣れた手つきで魚をさばき始めた。包丁代わりのナイフを使い、鱗を落とし、腹を割き、内臓を取り除く。血抜きも丁寧に行い、串を打ち込んで塩を振る姿はまるで料理人のようだ。
「おぬし・・・狼の時とは違って魚は捌くのがうまいな。まるで剣技のようだ。
「いや、ただのキャンプ趣味で慣れているだけだよ。」
壮真は持参していた10cmほど木灰を詰めたペール缶を取り出し、火のついた炭を片側に敷き詰る。炭が赤々と燃え上がり、串に刺した魚を中に並べた、しばらくするとじゅうじゅうと音を立てて脂が滴り落ちた。
「おお・・・なんだこの香りは・・・!」
サーヤの瞳が輝く。煙に包まれた魚は黄金色に焼き上がり、香ばしい匂いが漂う。
「まだか?」
「まだだ。」
「まだか?」
「まだだ。」
「もう、いい感じにできてるんじゃないか?」
「まだまだだ、これはじっくりゆっくり焼き上げるんだ。あと30分ぐらいだな。」
「そんなに待てぬぞ!!!!!」
「まあ、慌てんなって、待ってる間にサーヤが釣ったタイの頭を使ってみようかな。」
「このタイとやらは身はないぞ。焼いて骨ごと食べるのか?」
「違う違う、これは汁物にするよ。いい出汁が出て旨いんだ。」
そういうと、壮真は鍋とコンロを取り出し調理にかかる、頭と焼くには小さかった小魚数匹をきれいに捌き水を張った鍋に投入する。
出てきたアクをきれいに取りながら煮込む。塩で味付けをして少し小皿にとり味見をする。
「うん、アラだけでも十分にうまいな。海に潜れれば昆布なんかを干して観物を作りたいけど、それもまた今度だね。」
「おい!ずるいぞ!!!私にも早く食べさせてくれ!」
「すまんすまん、ちょうど魚も焼けたし。ほら、できたぞ。」
壮真は焼き魚と潮汁をサーヤに差し出した。サーヤは恐る恐るかじり――次の瞬間、目を見開いた。
「うまああああああああああああああああああい!!!!」
「お前、声でかいな・・・」
「なんだこれは!肉とは違う!柔らかくて、香ばしくて、塩が効いてて旨味が広がる!これは・・・これは・・・正義だ!」
「正義ってニュアンスはわからんでもないけどな・・・」
「しかもなんだこのスープは。うまみがあふれてるぞ。」
サーヤは夢中で魚を食べ続け、骨までしゃぶる勢いだった。壮真も一口食べると、思わず笑みがこぼれる。
「やっぱり炭火で焼くと旨いな。」
「ふん!これはまた釣りに来てリベンジせねばならん!次こそは私がサメを釣り上げる!」
「いや、サメ釣るなよ・・・」
二人は満腹になるまで魚を食べ、夕暮れの浜辺を後にした。帰路につく途中、サーヤがふと思い出したように言った。
「そうだ、私の部屋に寄っていくぞ。魔法の教科書を持ってこねばならん。」
「おっ!そうだったな。」
「ただし!絶対に私の部屋には入るなよ!」
「なんでそんなに念を入れるんだよ。」
「理由はない!ただ、騎士の誇りにかけて、男を部屋に入れるわけにはいかんのだ!」
「いや、理由あるだろ・・・」
サーヤは頑なに拒み、洞窟の前で壮真を待たせた。仕方なく壮真は外で座り込み、スマホのTODOリストに今日の成果と次のやることを記入して時間を潰す。
その時――
ガタンッ!!!
「うわーーーーーー!」
洞窟の中から何かが倒れる大きな音とサーヤの叫び声が響いた。
「おい!大丈夫か!?」
壮真は慌てて洞窟へ駆け込んだ。サーヤの部屋入ると――そこには壮絶な光景が広がっていた。
「・・・うわぁ・・・」
部屋の中は、まるで竜巻が通り過ぎた後のようだった。床には脱ぎ散らかした服、机の上には積み上げられた書物と紙束。山積みの食べた後の皿や食べかけの干し肉が皿に放置され、カビが生えている。ベッドの上にはぬいぐるみが山のように積まれ、足の踏み場もない。
「ちょ、ちょっと待て・・・、お、汚部屋じゃねえか・・・」
サーヤは箪笥の下敷きになっていろいろなものに埋もれながら顔を真っ赤にして叫んだ。
「見たなああああああああああああああ!!!!」
「いや、叫び声がしたから心配して入っただけだって!」
「くっ!ころせ!!!」
「いやいや!殺される前に片づけろよ!」
サーヤは慌てて散らかった服を拾い集めようとするが、すぐに諦めて床に座り込んだ。
「・・・すまぬ。私は・・・片づけが苦手なのだ・・・」
「いや、苦手ってレベルじゃねえだろ・・・」
壮真はため息をつきながら、部屋を見渡した。騎士としての誇りを持ち、正義感に燃えるサーヤ。しかしその部屋は、生活力ゼロの残念さをさらけ出していた。
「まあ・・・人間、完璧じゃないってことだな。」
「ふん!だが、かわいいものは正義だ!部屋が散らかっていても、かわいいものに囲まれているのだから問題ない!」
「いや、問題あるだろ・・・」
壮真は苦笑しながら、床に転がっていた魔法の教科書を拾い上げた。
「ほら、これか?」
「すまぬ・・・ありがとう・・・」
サーヤは耳まで赤くしながら教科書を受け取った。壮真はその姿を見て、心の中で思った。
――ほんと残念な女騎士だな。
だが、不思議と憎めない。むしろ、この残念さのおかげで少しづつ壮真の心を取り戻していっているようだった。
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