へい(ま)おん〜勇者パーティーに敗北したが生き返った魔王は魔力が全回復するまで平穏に暮らそうと努力する〜
ぎゅうどん
第1話 平穏に暮らしたい魔王、田舎に住む。
「トドメだ!魔王!」
【ぐわぁぁぁ!我が人間ごときに負けるだと!】
我、人間界を支配しようと魔界からやってきた魔王である。様は様々な異種族の魔物を家来とし従わせて侵略も順調だったが、勇者という者が現れてから状況が一変。集めた仲間と共に人間達から奪い取った国々を支配させていた幹部クラスの魔物を次々に蹴散らしていき、終いには城にまで到達されて、城を守ろうと戦った最上級クラスの魔物もあっけなく倒されてしまい、最終的に残ったボスである魔王の我ですら力及ばず、勇者に剣で身体を真っ二つにされて敗北が確定、魔王である我の野望は見事に打ち砕かれたのだった。
【我…このまま終わるのか…】
破壊された城の瓦礫の中、無情にも降る雨に濡れながら我は息絶えた、息絶えたはずだった…?
【我、生きている…?】
目覚めると真っ二つになっていたはずの身体が元に戻っていて動くことも出来る。
【どうなっている…?】
「お目覚めになられましたか、魔王様。」
【きさまは!】
我が家来の魔物の中でもっとも最弱で魔界から連れてきたはいいが、戦力として役に立ちそうもないから、唯一の特技の料理の腕を生かせる城の料理番にしてやったバフォメットのリリアンではないか!
【きさま、城はこんなだというのに生きていたのか?】
「はい、お陰様で生き延びました。」
【弱いくせにつくづく運だけはいいようだな、まさかと思うがきさまが我を生き返させたりしてないよな?】
「その、私です。」
【ハハハッ、冗談はやめろ、我が家来の中で最弱のきさまにそんな芸当が出来るはずが。】
「実はずっと黙っていたのですが、私、魔界にいた頃は治癒魔法が得意で、S級治癒魔法「全復活」が使えたんです。】
【初耳だぞ…?】
我は本気で驚いた…?なぜならS級治癒魔法「全復活」は治癒魔法の最上位中の最上位で、それを使うとバラバラになった身体でも再生する事が出来て、命すら復活させる事が出来るという、とんでもないものなのだ…?
「今まで魔王様にまで秘密にしていて申しわけありませんでした。」
【なんでそれをもっと早く言わなかったのだ!?そんな凄い治癒魔法を使えるやつなど城の回復担当でも一人もいなかったのだぞ!?】
「勇者パーティーと戦いたくなかったんです!S級治癒魔法が使えるなんて知れたら絶対に最前線に送られてましたよね!私、あんな怖い人達と戦いたくなかったんです!」
【きさまなぁ…?】
我は呆れて怒るのも馬鹿らしくなってしまった。
「でも一番の理由はほかにあります!」
【何だ、それは?】
「料理がしたかったからです!」
【ガクッ!本当にそれが一番の理由なのか…?】
「はい!」
【もういい、とにかく料理以外になんの役にも立たないと思っていたきさまがまさかのS級治癒魔法を使える、きさまの治癒魔法と我の力をもってすれば勇者パーティーなど恐れるに足らん!我の野望を打ち砕いた奴らに復讐してやるぞ!行くぞ!】
「駄目です!!」
【ごふぉっ!?】
魔王は腕を掴まれただけで大きくコケた!
【どっどうなっているのだ!?】
「実はS級治癒魔法「全復活」には一つ弱点がありまして。」
【弱点だと…?】
「回復させた相手の魔力を99.9%使い果たしちゃうんです。」
【じゃあ、今の我、0.1%の魔力しか残ってないのか…?】
「そうなりますね。」
【だったら今戦ったら復讐どころか瞬殺されて跡形もなく消されるだろうが!】
「だから止めたんです。」
【くぅぅ、悔しいが魔力が完全に回復するまで復讐はしないのが無難のようだな。】
「ちなみに魔力は回復するのはいつですか?」
【100年はかかるだろう。】
「ほっ、とりあえず100年は安心と。」
【何か言ったか?】
「いえいえ、何も!」
【しかし問題は100年間、我が生きていることが勇者パーティーに知られないようにしなければならないことだ、どうしたものか。】
「人間の姿に擬態するのはいかがでしょうか?」
【なるほど、それで人間に紛れて生きて100年間をやり過ごすというわけだな、よし。】
魔王はバフォメットのリリアンに顔が似た少女の姿になった。
「こんなもんでいいか。」
「わぁ!私にそっくりですね!」
「きさまとそっくりにしたのは姉妹ということにすれば何かと都合がいいと思ったからだ。」
「だから私より背が低いんですね、可愛い。」
頭を撫でた。
「こら!本当の妹じゃないんだぞ!魔王の姿だった時と同じように我を敬え!」
「えー?でも人間にバレないようにするには姉妹の練習をしておいた方がいいのでは?」
「なんか生意気になってるな…?とにかくきさまもくだらないこと言ってないで!頭の角と尻尾を消せ!それだけできさまは人間の女の姿になれるだろう!」
「はーい。」
バフォメットのリリアンは頭の角と尻尾を消した。
「それでいい、次は住処を探さねば。」
「城を再建しますか?」
「いや、万が一を考えて城があった場所から離れた所に移り住んだ方がいいだろう、目立ちすぎると勇者パーティーに我が生きていると気づかれる可能性が高くなりゲームオーバーだ、出来れば魔力が回復するまでは平穏に暮らしたい。」
「なら少し離れた場所に私がよく人間になりすまして、食材を買いに行ってた田舎の村がありますから、そこに住みませんか?」
「田舎の村か、それなら目立つ心配もないし、勇者達も来ることはないだろう、うむ、そこに行くとしよう。」
壊れた魔王城から生活に使えそうな物をリュックに詰めるだけ詰めて、魔王達はその場を後にして新境地である田舎の村に向かい旅に出た。
「うぐっ、荷物が重い。普段の我ならこんなの石ころのようなものなのに、魔力がないだけでこれほど非力になってしまうものなのか…?」
「まだ子供ですからね、仕方ないですよ。」
「いや、この姿は仮の姿で我は子供じゃないからな…?」
「そうでしたね。それで名前はどうするんですか?」
「名前だと?」
「怪しまれずに人間と暮らすためには名前があった方がいいと思いますよ。」
「一理あるな、しかしそう簡単には思いつかんぞ?」
「私がつけちゃ駄目ですか!」
「いいが、まともなのにしろよ?」
「私がリリアンですから、魔王様はリリィで。」
「リリィか、悪くない名前だな?」
「では決まりですね。」
「うむ、我は今日からリリィだ。」
名前も決まり、移動を始めて半日かけて目的地である田舎の村の前まで来た。
「あれがきさまの言っていた村か?」
「そうです。アズキ村という名前で上質な小豆が手に入る村なんですよ。」
「ほう、小豆か。」
「魔王様に提供していた餡系のおやつに使ってた小豆です。大好きでしたよね?」
「まっまぁ、好きだが。」
「村の人達も優しいですし、気に入ると思いますよ。」
「ふっふん、100年間、身を隠すためだけに暮らすだけだ、そんなのこだわっておらんわ。」
「私、魔王様と一緒に暮らせると思うとワクワクします。」
「くっくだらんことを言いよって、先に行くぞ。」
「あっ、待ってくださいよ!」
さっそく二人は一番偉い村長に村に住みたいと話した。するとリリアンの顔が利いたこともあってか、すんなりOKがもらえて、空き家になっていた一軒家を借りられた。こうして少女姿になった魔王と家来であるバフォメットのリリアンの共同生活が始まるのであった。
「城に比べればボロく小さい家だが、あまり目立たず生活したい今の我にとってはちょうどいい。」
「身の回りの世話は任せてください!家来として魔王様が少しでも早く魔力を回復出来るようにお世話頑張ります!」
「ふっふん、きさまのお世話など期待してない。」
「ひどい!」
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