第13話 渋谷のホストクラブ



学校から下校すればその足で、渋谷にあるデパートに向かった。服を入れた紙袋を陸斗から受け取れば化粧室へと行く。



「私、着替えてくるから、少し待っててね」



修くんに会う時はこのデパートで服を着替えてから行く。

今日は白のタイトなミニワンピース。

ボディラインがくっきりと浮かび上がるデザイン。

少しでも大人に見られるように細く長いヒールを履いて、まるで”武装”を終えた兵士のように、私は鏡の中の自分に視線を送り、口角をわずかに上げて口紅を付ける。



「お待たせ」



化粧室の前で壁を背にスマホをイジっていた陸斗に、再び制服を入れた紙袋を渡す。



「わ~美優さん、可愛い。今からデートですか?(露出しすぎでしょ)」

「ちょっと、友達と遊ぶだけ。じゃあ、荷物お願いね」

「行ってらっしゃい(友達ね...絶対男だろ)」



軽く手を振る陸斗に手を振り返せば、

足早にデパートを後にした。




━━━━━━━




渋谷のホスト街。

夜に染まりかけたこの街は、人の欲望がむき出しになり、独特な雰囲気がある。

わざと闇の部分を隠すかのように、色とりどりのネオンが光っている。




すれ違う男性の視線を感じながら、私は目的のビルにたどり着いた。

目立つ大きな看板にはNO.1ホストの写真が飾られている、ネオンは控えめだがそれ以上にセンスが光る。



渋谷ナンバーワンホストクラブ「ROSE」



私の管轄でもあり、修くんの働く場所でもある。ドアの前に立ち、一瞬だけ立ち止まれば、そして、銀色の取っ手に指をかけて扉を押した。



チリン.....と小さなベルの音が鳴る。



中はまだ開店直後のはずだが、すでに数組の女性客がシャンパンを片手に声を上げていた。

暗い照明中にうっすらピンクがかったトーンの店内。私は奥へと歩いた。



「いらっしゃいませ、お客様.....。ロビーで受付をお願いします(初見さんかな?)」



声をかけてきたのは、金髪の若いホスト。

真新しいスーツと、ややぎこちない笑顔と仕草。おそらく新人だろう。



私は何も言わず奥と進む。



「ちょっと、お客様、困ります! 勝手に奥に入られては(何やってんだ!?)」





男が私の腕を掴んだ、その瞬間だった。





「トオル!!!手を離して、その方はいいんだ(何やってる)」




通路の奥から現れたのは、表の看板に写っていた顔。カッコイイも可愛いも両方兼ね備え、いかにも手慣れている落ち着いた所作。



「.....ライくん」

「美優さん。お久しぶりです。うちの新人が無礼を働いてしまい、申し訳ありません(今日も可愛い)」



ライ。今やROSEのNO.1ホスト。

今はこの様な彼がまだ新人で、

私の前でオドオドしていた頃の記憶が懐かしい。



「.....別に、気にしてない。それより修くんはどこ?」

「ただいま接客中でして.....すぐ呼びます(いつも

急にくるな)」

「修くんが接客? 珍しいわね.....そんなにVIPなお客さん?」

「ええ、今売り出し中の女優さんですよ(でも美優さんの方が断然綺麗だ)」

「ふぅん.....呼ばなくていいわ。終わるまで待ってる。ねぇ、ライくん.....相手してよ」

「……喜んで(めちゃくちゃ嬉しい)」



ライが一歩近づいたとき、トオルと呼ばれていたホストが慌てた様子で駆け寄ってきた。



「ライさん!この後、予約入ってますよ!(ナンバーワンが空いてるわけないだろ。急に来て何なんだ、この女……)」



私がゆっくりとそのホストに視線を向けると、トオルは言葉を詰まらせる。

スーツを軽くつかみ上目遣いで、私はライに問いかけた。



「……忙しいの?」



私が小笠原組の娘だと知っていれば、誰一人として逆らわない。それはこの街の”常識”。

ライは静かに息を吐き、トオルを睨みつけながら言った。




「いいから、全部キャンセルして(.....余計なこと言うなよ)」




その一言で全てが決まる。

ライは私の腰にそっと手を回すと、

そのまま奥のVIPルームへ私をエスコートした。

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