鬼道ウォーカー

有多照

プロメテウスの再犯

 10年前の7月2日、日本を含む13ヶ国で同時多発的に無差別破壊事件が発生した。


 標的となったのは、鉄道や高速道路、行政施設、発電所、病院、軍事基地、観光名所、空港、ホテル、油田、金融機関、世界的大手企業の関連施設など、計33箇所。全世界で8719名の死者と33985名の負傷者を出し、日本では走行中の新幹線や複合商業ビル、陸上自衛隊基地が攻撃を受け、死傷者は2000人を超えた。


 事件で使用されたのは、タイヤ付きの鳥脚状の二本脚に装甲車のような胴体を載せた、後に導式どうしき装骨格そうこっかくと呼ばれることとなる体高2メートルの兵器だった。装骨格の装甲やジェネレーターには未知の金属が使用され、化石燃料や爆発物は一切用いられなかったため、その存在や用途、危険性は察知されなかったのだ。


 全33機の装骨格はグリニッジ標準時午前1時に各地でほぼ同時に破壊活動を開始。各国の警察や軍隊が出動し戦車や攻撃ヘリ、歩兵の銃火器で攻撃したが、それで直接的に破壊・撃破された装骨格は1機としてなかった。最終的にすべての機体が行動不能となったが、それは操縦ミスによる転倒や、倒壊した建造物の瓦礫の下敷き、川への転落などで身動きが取れなくなったためだった。


 装骨格はすべて現地の軍隊や警察に回収され、実行犯も大半が逮捕されたが、機体や実行犯からは首謀者についての情報を得られず、犯行声明もなかったため、10年が経った今も事件の真相は明らかになっていない。


 どこかの国の軍事実験、秘密結社による革命活動、神が遣わした天使の仕業、カルト組織の儀式で召喚された悪魔の暴走、宇宙人による侵略行為など、様々な憶測が駆け巡ったが、どれも陰謀論や与太話、妄想の域を出なかった。


 ただ確かなのは、人々を焼いて闇を照らし、世界の骨子を溶かして歪めた新たな火種――緋導鋼ヒヒイロカネと呼ばれる金属がばら撒かれたという事実だけだ。


 故に、この第二の「火」をもたらした事件はプロメテウスの再犯と呼ばれた。

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