第3話 更生復帰・初日

僕とミキは屋敷に入ると先ずミキが自由に使える部屋へ案内した。かなり広い畳の部屋でこの部屋にある物は自由に使っていいこととミキの荷物を纏めるように言って僕は一度ミキの部屋を出て屋敷の自分の部屋でスマホを取り出して上司である真田課長に連絡をした。

「月見です。さっき更生復帰を行う場所に到着しました。」

『お疲れ様。じゃあ1年間はそっちで仕事よろしくね。法務省には基本的に来なくていいからそっちでのんびり仕事してよ』

「あのー言ってる意味がいまいちわからないんですけど」

『これまでの頑張りを考慮してそっちで1年間の給料が毎日発生する休暇を満喫してくればいいんだよ。それじゃあまたね』

そう言われて一方的に真田は電話を切ってしまった。ため息を吐きながら仕事用のタブレットを確認すると刑務所に行く前に頼んでおいた調べ物を纏めたデータが既に送られてきていた。そしてそのデータを見て僕は腸が煮えたぎるくらい憤りを感じた。ミキにこのことを伝えるべきかそして思案した後部屋にある電気ポッドで沸かしたお湯でハーブティーを飲んで一息つきながら再度試行していると夕食を食べる頃合いの時間になっていたので台所に向かい冷蔵庫を開けると鮭や豚肉、それに色々な野菜などが入っていた。因みに僕はここに2ヶ月は来ていなかったので先ず間違いなく真田課長が用意した物だと理解した。

(最初から僕にこの仕事を押し付ける気だったってことか。手回しの良さは良くも悪くもあの人が真田課長らしいな)

そう思って先ず冷蔵庫から豆腐を取り出してそれを切ってボウルに入れて置き更にワカメを水洗いして鍋でお湯を沸かして味噌をとく。更にその間に豚肉を塩胡椒で焼いて野菜を切ってそれを炒めた。それらをやっている頃に炊飯器でご飯が炊けたので10分放置して蒸す。最後に冷蔵庫にあったりんごを切って小皿に乗せて完成した。まともに料理をしたのは高校生でボロアパートに一人暮らししていた時だったが意外と上手く出来た様に感じながらミキの部屋に行って夕飯だと呼びに行くと疲れていたのかテーブルによしかかりながら寝ていたがとても安心して眠れている様には出来ず度々、うわごとを言って魘されていた。

「ミキ、大丈夫かい?夕飯の時間だよ」

零はミキに優しく呼びかけて起こすと深呼吸をまず促した。そして先程、送られてきたデータについては本人に確認して望むなら教える事にする事を決めた。

「刑務所やそれ以前では食べられたことがない」

そう言ってミキは食卓テーブルでそう呟きながら夕飯を食べていた。

「ミキ、今晩からカウンセリングをすることが出来るけどどうする?」

夕食を食べ終えて2人で洗い物をしながら、さりげなく質問をした。

「今晩からカウンセリングしてもらえるんですか?」

ミキは不安と期待を込めた目で質問した。

「ミキが望むのなら今日からカウンセリングを始めることが出来るよ。それに更生復帰について説明した時に何度でも何回でも何時間でもカウンセリングは受けられるよ」

「じゃあお願いします」

「ならこの後、入浴を終えた後にノートに今日の事についてノートに書き終わったら僕の部屋に来てね。そこでカウンセリングをしよう。」

そう言って洗い終わった物を自身が全て片付けておくから入浴する様に促した。因みにこの屋敷の風呂場、温泉程の広さはないが銭湯くらいはあって小さいが露天風呂までついている。その為、掃除も面倒くさいと思って此処で生活する時はシャワーだったのだがミキは心の治療も必要と判断したので露天風呂を含めてつい先程全てを綺麗に清掃して入浴剤を溶かして来たのである程度は疲れがとれる筈だ。それにゆっくりと入浴すれば身体の疲れだけではなく心だって癒やすことが出来る。そう考えながらカウンセリングの準備を進める。零の部屋はこの屋敷が和洋折衷の屋敷なので洋室を使っていて部屋の棚には色々な茶葉を入れた缶とそれを入れる為のティーカップと湯呑み、それに急須やティーポットとお湯を沸かす為の電気ポットが置いてある。それ以外だと殆どがタブレットとPC、そして安物のベッドが置かれて部屋の中央には仮眠用のソファーと休憩中にお茶を飲む為のチーク材を使ったテーブルが置かれていた。零が電気ポットでお湯を沸かしている間に部屋をノックする音が聞こえたので扉を開けてミキをソファーに座る様に言うと零はお湯が沸いたポットをとって精神安定に適したハーブティーの茶葉を取り出してそれをティーポットに入れて蒸した後にティーカップに入れてミキの前に置いた。

「それじゃあ、カウンセリングを始めるけど、その前にカウンセリングについて教えておくね。自分の言いたいことは感情的になってでもいいから言って大丈夫だよ。聞かれた事で答えたくない事があったら答えなくて大丈夫だよ。逆に話したくないことは話す必要はないよ。」

零はそう言ってミキにカウンセリングについて説明をしながら話を真剣に聞く為に目線を合わせた。

「先ず、自分が犯してきた罪について本当に許される価値がある人間なのかわからないんです。」

その言葉と共にずっと泣きながら悔恨の言葉を言い続けるミキを見て聞いて心がぐちゃぐちゃになって絡まった糸の様になってしまっているのがわかった。そしてこうなってしまった人間の心を元に戻すのが凄く難しいのを知っていた。確かに絡まった糸を直ぐに戻すには何も簡単なことだ。糸を切れば絡まった糸はすぐに切れたとはいえ絡まった状態から戻すことは可能だし更にその糸を結び直せばいいだけだ。でもそれを心の糸にやってはいけないのだ。心の糸を直すにはゆっくりと優しく絡まっているところをほぐして一つ一つを元の状態に一つも傷つける事なくやらなければならないのだ。そしてミキの心は複雑にそして絡み合い心や体を蝕み縛りつけて壊れる寸前まできてしまっているのがわかった。長期的にカウンセリングを何時間をかけてやってそれでも直せるか零は一瞬、不安になったが直ぐに考えを改めた。出来るかどうかではなく絶対にやらないといけないのだ。

「落ち着いてミキ。まずは自分を見つめ直していこう。それと君の犯した罪について残酷な事になるかもしれないけど《本当》のことを聞く勇気はあるかい?」

零はいきなり自身でも危ない橋を渡ることを理解しつつ聞いた。場合によってはこれで一気に心が壊れてしまうこともあり得るからだ。だけど罪の意識に苛まれ続けているミキに本当のことを教えてそれが救いになり一気に心が癒える可能性もあった。だからそれに賭けることにした。

「え?《本当のこと》ってなんですか?でもきっとそれを知らないと私は進むことも償うことも出来ないと思うんです。だから教えてください」

「なら教えるよ。先ず君の詐欺についてだけど思った以上に複雑でそれでいて君自身の罪はそこまで重たい物じゃないんだ。まず詐欺に至った過程だけど君の友人達が最初から全ての罪をミキに押し付ける前提で始めたんだ。そして次に罪悪感があったミキを利用し続ける為に暴力を振るって恐怖心で支配して縛りつけた。その後は事件が発覚しそうになった途端に詐欺グループにいた人間の1人が直接関わっていない仲間にミキがやっていたことを嘘を多数含んで密告してその仲間がSNSで拡散した後に警察が乗り込んで来る前に自分達の証拠を消して逃亡した後に自分達で更にSNSでその詐欺について拡散炎上をさせてミキを捕まえさせて逃げおおせた。しかもミキが取り調べで自分達の事は話せないことを折り込み済みで暴力による恐怖心で支配していたから実際にミキが今回の詐欺事件でやらされていたのは複数の携帯のアカウントを使わされていただけで殆ど詐欺には関わっていないことがわかったんだ。だから今回の更生復帰が終わった後にこのデータを見せるだけで大幅な減刑措置が執られる可能性はかなり高い。だから罪の意識に苛まれ続ける必要はないよ。ミキだって視点を変えれば被害者の1人なんだ。だから此処で心を休めて生活していけばいいよ」

「今の話は本当なんですか?確かに暴力は振るわれたけど実際に詐欺には関わっている訳だし」

ミキは今にも号泣してしまいそうな状態で放心状態になってしまっていた。そして遂に涙が溢れ出てしまいまた泣き出してしまった。

「大丈夫だよ、今はもう思い切り泣いていいんだ。必ず君を嵌めた連中は捕まえさせる。だから今はもう涙が枯れるまで泣いたっていいんだよ」

そう言ってミキの事を優しく抱擁した。零はその際にミキがどれほどの苦しみや辛さを抱え込んでいたのかがわかってしまった。詐欺事件の犯罪者として扱われ暴力による恐怖心による支配、そして警察の取り調べでも本当のことを言っても信じてもらえないであろう諦観、裁判での検事の追及、弁護士にすら守ってもらえず社会的にも悪質な犯罪者として扱われ続けてきたこと、そして罪悪感に苛まれ続けてきた日々と本当の真実を知らされての虚脱感。そしてそれら全てが合わさってどうしていいかわからない混乱した状態。それによって今はもう自分の意思で涙を止めることが出来ないことを理解した。何故なら似たような経験をした人間を自身が知っていたからだ。やがてミキは落ち着きを取り戻したものの零の服の裾を掴んだまま離さなかった。

「こんなこと言ったら笑われるかもしれないけど1人で寝るのが怖い。」

ミキはそう呟いてまた零に胸を埋めた。

「なら和室に布団を敷いて2人で寝るかい?」

「お願いします」

泣き疲れたミキに肩を貸して和室に布団を敷いて寝かせた。

「もう1人で抱え込まなくていいからね」

零はそう言ってハーブティーを飲みながらスマホで詐欺事件の真実が記されたデータを真田課長に送って自分も布団に入りミキのてきを握って眠りについた。

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