閑話4 メイソン王子の視点 ― 姉ダイアナとの出会い

金髪の王子メイソンの視点 ― 姉ダイアナとの出会い


 僕には姉がいた。

 ――そう告げられたとき、頭の中は真っ白になった。


 十六年間、僕はフリューゲル王国の第二子、第一王子として生きてきた。

 王位継承権を持ち、やがては国を背負う立場だと周囲に言われ続け、責任感に押し潰されそうになる夜もあった。

 けれど、姉がいるなどとは、夢にも思わなかったのだ。


 母上――エリザベート王妃は、穏やかに「ダイアナ」と名を呼んだ。

 そして扉が開き、そこに現れたのは、優しいそうな表情を浮かべた美しい女性だった。


 流れる銀色の髪。清らかな空気をまといながら歩み寄る姿は、凛としていて、それでいてどこか儚さも宿している。けれど一番驚いたのは、その瞳と表情が、僕のよく知る母上と瓜二つだったことだ。


「……母上に、似ている」

 思わず漏らした言葉に、ダイアナ姉上は柔らかく笑った。


 その笑みを見た瞬間、胸の奥が熱くなった。

 十九年前に行方不明になり、もうこの世にはいないとさえ思われていた姉が、今こうして目の前にいるのだ。

 奇跡以外の何ものでもない。


 母上と並んだ二人を見れば、一目瞭然だった。

 銀の髪が揺れる度に、血の繋がりを主張するようにきらめく。

 ああ、やっぱり本当に僕の姉なんだ――そう強く実感した。


 恐る恐る、僕は口を開いた。

「……姉上、と……お呼びしても、よろしいですか?」


 一瞬、胸が高鳴る沈黙があった。

 だが次に返ってきた声は、心を温めてくれる春風のようだった。

「メイソン殿下の思うままに。……ダイアナでも姉上でもどちらでも。これからよろしくね」


 その瞬間、僕は決めた。

 ――この人を、心から慕おうと。


 ダイアナ姉上はとても優しい雰囲気を持っていて、言葉を交わすだけで心が安らいでいく。

 僕は気づけば笑っていたし、気づけば「姉上、大好きです」と言いたくなる自分がいた。


◇ ◇ ◇


 けれど、不満もある。


 なんと姉上は、母の従弟であるレオナルドと婚約していたのだ。

 正直に言ってしまえば、僕には到底納得できない。

 あの年上のおじさんに、姉上のような人はもったいない。僕が王子としてどうこう言うより、弟としての本音が先に口をついた。


 「どうして、あの人なんですか?」と問いかけたくなる。

 けれど、そんな言葉を呑み込ませる光景を、僕は見てしまった。


 姉上が、レオナルドと並んで談笑している姿。

 その横顔は、とても幸せそうだった。


 母上と同じように凛としながらも、頬をわずかに赤らめ、楽しげに笑う姉上を見たとき、僕は悟ったのだ。

 ――ああ、これが本物の恋なんだ、と。


 それでも胸の中に渦巻く悔しさや複雑な思いは、簡単には消えてくれない。

 姉上は僕にとって、ようやく得られた宝物のような存在なのだ。

 誰かに渡したくない、という幼稚な独占欲が膨れ上がってしまう。


 けれど。

 姉上が幸せそうにしているなら、それが一番大事なのだ。


 だから僕は心に誓った。

「二人を祝福しよう」と。


◇ ◇ ◇


 でも同時に、僕は次期国王としての決意も固めた。


 もし、万が一にもレオナルドが姉上を粗末に扱ったなら――その時は絶対に許さない。

 弟としてではなく、王子として。いや、未来の国王として。姉上の幸せを脅かす者は、たとえ身内であっても断じて許さないのだ。


 それほどまでに、僕はダイアナ姉上を大切に思っている。

 十九年という時を越えて、再び家族として迎えられた奇跡を、何としても守り抜きたい。


◇ ◇ ◇


 これから僕たち兄妹は、これから多くの時間を共に過ごすだろう。

 宮廷の儀式、学び舎のひととき、そして未来の国を担うための場面。僕はその一つひとつで、姉上に胸を張って「弟」と名乗れるようになりたい。


 姉上は銀色の髪を揺らしながら、静かに言った。

「家族が増えるって、こんなに嬉しいことなのね」


 その言葉を聞いた時、僕の胸は熱くなり、視界がにじんだ。

 ああ、本当に……僕には姉ができたのだ。


 その事実だけで、どんな未来も恐れることはない気がした。

 これから先、国の行く末にどんな困難が待っていようと。


 ――ダイアナ姉上。

 僕はあなたの弟として、誇りを持って歩いていきます。

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