夕食と会話
※第5章―――[Q](月)雨の日。君とお家でカタツムる
その続きとなっております。本編のボリュームはなく、ただただご飯を食べながら小森と奈留莉がお話するだけの話です。
エピソード[Q]のおまけだと思ってください。
『ミニ♬おと!』から読んでくださった方は、是非本編の『小森くんとおとおともだち!』を先に読んだ方が話の展開やキャラクター性を知れ、今作品を楽しめると思います。
興味ない人は是非、飛ばしちゃってください!
これから始まります。
□ ■ □ ♪ □ ■ □
1つの机を挟み、僕と
時折、麺を啜って「んー!」と嬉しそうに顔をくしゃっとさせる笑い方がたまらなく好きだ。そのたび僕も微笑んで、照れ隠しにスープを飲む。
テレビの音も車が通り過ぎる環境音もない。さっきまで流していたレコードも今は止めてしまった。
あるのは食事の生活音と豪雨が作る雨音だけ。
あぁ、平和だ。落ち着いていて、静かで、緩い。たまらなくこの時間が好き。
奈留莉さんが僅かに身を乗り出して話し出す。
「いつもねパラレルワールドの私がいたら、どんな私なのかな~って考えるんだ」
「……急も急だね」
――平和終了のお知らせ。
あーあ。
でも、どうでもいい話をしながらご飯を食べるのも悪くはない、そう学校で学んだ。何も奈留莉さんと話すのが嫌いなわけじゃない。ただ、こうしてご飯をともにしている時間が普段とは異なる特別なもので……。
言い換えれば、いつも通りに戻ったという訳だ。僕は小松菜を飲み込んでから問う。うん、トマトが染みてておいしーね。
「どんなときに?」
「数学の授業中?」
「勉強しなよ……」
「いや~だって今の単元難しいんだもん。単項式の乗法とか1つ1つ解いてる間にみんな終わっちゃってるし。なんであんなに計算早いのかなぁ」
「早いのかなぁ、じゃないでしょ。それに今やってる単元じゃないときでも妄想してるでしょ?」
「うん、そうだよ!」
「……はいはい、返事が上手」
黒板を見つめながらペンを手にしている隣の席に座る奈留莉さんを見て、「あぁ、奈留莉さんが眠らず授業をうけてる……!」と感心したいつぞやの僕を返してほしい。
「て、なんで夏休みなのに授業なんかの話をしてるのさ。話したいのはパラレルワールド。パラレルワールドのことだから!」
「あーはい。そうですよね」
ごめんなさい。数学の教師。代わりになるかはわかりませんが、僕が奈留莉さんの分まで謝っておきます。いつも授業大変分かりやすいです。
〝パラレルワールド〟または
――1つの世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界のこと。SFや二次元の話でも多く扱われるネタの1つでもあるが、実際に理論物理学でも研究がされているらしい。
簡単に言えば『もしも、こうなっていたらどうか?』という世界線の話だ。実際、僕もアニメや小説、ゲームで知っている作品がいくつかある。
「パラレルワールド……ねぇ」
「あー
「いや、何も決めつけてるわけじゃないよ。僕も宇宙だったりマルチバースだったり、大好きだから」
「じゃあ――なに?」
うんん、と唸ってみせる。僕は目線を上に向けた。
「パラレルワールドってさ。言わばもしもの話でしょ?」
「うん」
「つまりは選択をすればするだけ世界線の通りが増えていくじゃん。たった1回の選択でAの選択をした世界線。Bを選択したら次はBの世界。A,BじゃないCが見つかるかも。そしたら今度はCの世界線が増える」
僕の話を奈留莉さんは頭の上で図を浮かべているのだろうか、ふむふむ言いながら何とか理解しようとしていた。
「だからさ、パラレルワールドって言っても無限の可能性があって、無数の世界が存在すると思うんだ。それって……」
「それって?」
僕はこの後の言葉を濁した。でも、ジッと見つめてくるまなざしが僕の体に巻き付くように拘束する。観念して言うことにした。
「……その分の僕がいると思うと――」
「
「どこが!? 気持ち悪いよッ!」
自分とまったく同じ容姿の人間が、僕の視界に入り、生活をしている。パラレルワールドな訳だから恐らく僕と思考も似通っているだろう。そんな奴が誰かと話したり、飯を喰ったりしている……。
考えるだけで気味が悪い。なんで
「う゛へぇ、おっとよだれが――。なるほど~
「まぁもしもの話だし、第一パラレルワールド自体があるかも分からないって言われ続けてるからね」
「全然、それでいいじゃん! あんなこといいな、こんなこといいなって考えるの楽しくない? きっと私以外の人でも結構多いと思うな~」
「そんな〝ドラえもんのうた〟みたいな……」
「夢を語るも、妄想するもどれも〝ドラえもんのうた〟の歌詞みたいなものなんだよ。だって、夢物語でしかないんだからね!」
「――確かに」
正論を言われてしまった。確かに自分は自分でも、完全に別の自分だと思い込み、一変した周りの環境を空想の中で冒険するのは楽しいかもしれない。
僕にはそこまでの想像力持ち合わせていないけど。
「あーあ、私も別の世界の私に会ってみたいなぁ」
「その場合ってドッペルゲンガー判定になるのかな?」
「うーん、難しいね! でも所々異なる部分があるんじゃない? 別世界線で全く同じものを食べてるとも着ているとも言えないし!」
奈留莉さんは顔をしかめ、どこかぶつけようのない不満を叫んだ。
「どこかの世界線の
「ごはん中! ごはん中ですよ!」
ワードを言いそうになったので僕は声を被せる。えへへ、と奈留莉さんは呑気に笑っていた。「まぁ別に男子たちに好かれたいって訳でもないんだけどねー」そう言い、トマトラーメンのスープを飲む。
僕はお皿を口元に近づけたまま、ぼそっと囁くように。でも、奈留莉さんには届くように言葉を漏らした。
「僕は……目の前の奈留莉さんが1番好きだけど……」
――ッ!! ゴホッ! ゲホ、ゲホッゲホッ!!
目の前で奈留莉さんがむせた。トマトラーメンのスープを吐く。まるで吐血みたいだった。口元からツーと垂れ流れている。よかった、フリルの可愛いピンクパジャマには付着していないみたいだった。
ゴホッ、ゴホッとしばらくの間むせている奈留莉さんには目を合わせず、赤くなった自分の耳を気づかれないようにと髪で隠した。
その耳は、トマトよりも赤い色だったかもしれない。
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